第18話 カチャーシー

Seamen’s Club での幕開けは喜納昌吉の『花』で始まった。

照度の落ちたホール内はほぼ満席で、日本人半分、外国人半分くらいの割合のように見える。

曲が始まると、意外そうな顔をしてステージの方を振り向くものもいた。


演奏が終わるとパラパラと拍手が鳴り、健作はステージ中央のマイクを取った。

「皆さん今晩は。今宵は日本の音楽を肴に、おいしいお食事と美味しいお酒を楽しんでいただければと思います。最初にお送りしたのは、ここ沖縄出身のミュージシャン喜納昌吉さんの名曲『花』でした。続いて同じく沖縄出身のグループビギンの大ヒット曲である『恋しくて』をお聴きください。」

食事の終わっていた外国人の数組は、ワンフレーズ聞くなりパートナーの手を取ると、ステージ前の開けた空間に出てきてチークを踊り始めた。曲が終わると、食事中の人たちもナイフとフォークを置いて拍手をしている。


健作はマイクを手に取った。

「皆さんありがとうございます琉球音楽とJazzが出会うとどうなるのか、定番の二曲お送りしました。

さて、日本は今から百数十年前、江戸時代の鎖国に終わりを告げて近代国家の仲間入りをすると、音楽でも西洋の影響を受けて様々な唱歌が作られました。中には海外の曲に日本の歌詞を付けて唄われたものもあります。次にお送りする曲はイギリス民謡の『Home Sweet Home』に日本語の歌詞を付けたものをお送りしたいと思います。日本名は『埴生の宿』、お聴きください。


健作はサックスからフルートに持ち替えると、静かにメロディを吹き始めた。ワンフレーズ終わると、ギターが被さり、ベースが乗り、ドラムスが入ると故郷の雄大な自然を彷彿とさせる郷愁溢れたサウンドが続く。

健作たちの考えた「融合」と「調和」は見事にその場にいる者たちの心を捕まえたようだ。演奏が終わると、惜しみない拍手が沸き起こった。


その後、「早春賦」、「おぼろ月夜」、「夏は来ぬ」、「夏の思い出」と続き、「故郷」になると、静かに目を閉じて遠い昔の故郷を思い浮かべているものもいた。故郷が終わると、健作はセンターに出てマイクをとった。

「皆さん、お楽しみいただけましたでしょうか? 沖縄はその地政学的立地から、古来中国、日本の影響をうけ、さらに戦後はアメリカの影響を強くうけ、それらを自分たちのものとして取り込み独自の文化として昇華させてきました。この調和と融合は、沖縄に限ったことではありません。明治維新を迎えて近代化を図った日本全体がチャンプルー文化と言えるでしょう。

さて、名残惜しいのですが、本日最後の曲になりました。最後は再び琉球サウンドに戻って『六調とTake Five 』のチャンプルーをお楽しみください。みなさんぜひカチャーシーを踊ってください。」

健作が合図を出すと、典子の三線は小気味好く六調を奏で始めた。ワンフレーズ終わると、健作のアルトサックスが被さっていく。

最初に踊り始めたのは、ウチナンチュだった。しばらく眺めていた外国人も見よう見まねでその輪に加わると、その場全体に一体感が生まれみんな楽しそうに踊っている。

やがて曲が終わると、割れんばかりの拍手が鳴りやまなかった。

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