第17話 融合と調和

4人はリビングでテーブルを囲んで食事をしながら今日の出来事を話していた。リビングの中央の壁に置いてあるテレビは、誰が観るでもなく点いていて、地元放送局の番組が流れている。

「修たちは今日はどこを見てきたんだい?」と健作は修に聞いた。

「俺たちは国際通りの入口からぶらぶら歩き始めて、公設市場を通って壺屋まで行ったよ。公設市場は初めて行ったんだけど、なんで肉屋にお面売ってるのかと思って近づいたら、なんと豚の顔! いやー、ビックリしたね。」と言う修の顔は、そのビックリした様子を面白おかしい表情をしてみせたので、その場は大爆笑となった。

「それは『チラガー』ね。コラーゲンたっぷりで、チャンプルーに刻んで入れたりするかな。」と典子は説明した。すると智子も身を乗り出してきた。

「そうそう、私は何か蚊取り線香の大きなもののような渦巻き状の黒いものがいくつもぶら下がっているのを見て、思わず手に取っちゃった。そしたら、ウミヘビの乾燥したものだって言われて、思わず叫び声あげちゃったわ。」と智子は言った。

「そういえばトモちゃんヘビ苦手だったわね。あれは『ウミヘビ』の仲間で『エラブ』って言うのよ。あのハブの数十倍の毒を持っていて、知らないでかまれると死んでしまうこともあるくらい。とても強い生命力を持っていて、普通のウミヘビだと海から採ってきて砂浜に放っておくと1日くらいで死んじゃうけど、エラブは一週間でも生きているわ。だから沖縄では健康サプリとして食べられてるの。エラブ汁が一番ポピュラーかな。泡盛に付けて飲んだりもするわね。」

「あー、俺国際通りの土産物屋で見たよ。大きなガラス瓶の中にヘビみたいなのが入ってる泡盛漬け!」

「泡盛に漬けてあるのは、エラブのものとハブのものがあるけど、ハブの方が一般的かな。」

「へ~、そうなんだ。さすがノリちゃん地元だけあって詳しいね。」と、健作は感心した。

「それよりも健作、Seamen’s Club ではどんな話になったのか教えてくれよ。」

「ああ、約束の時間にSeamen’s Club に着くと、入口で支配人さんが待ち構えていたよ。」

「私はちょっと驚いたわ。沖縄では『ウチナータイム』といって、比較的時間の観念が良く言えばおおらかだから、お約束した時間に多少遅れるのは日常茶飯事なんだけど、支配人さん、きっと健作さんに会うのがとても楽しみではなかったのかしら。」

「修、ウチナータイムなんて、お前のためにあるようなもんだな!」と健作が修を茶化すと、修は両手を挙げて「俺、沖縄にぴったりかも。」と返した。するとリビングは、再び笑いの渦に包まれた。

「ところで修、支配人さんから『何を演奏するかは、任せた。Seamen’s Club の寛いだ雰囲気を楽しむために集う大多数の人たちに合ったmusic を提供していただきたい』って。支配人さんはホテルの演奏を聴きに来てくれたみたいで、こうも言ったよ。『私の体験した感動を多くの人に伝えたくて、出演を依頼した』とね。」

健作が一呼吸入れると、他の3人は健作を見つめて、次の言葉を待っていた。

「まずは、ノリちゃんとの三線とのコラボは外せないだろうな。」と健作が続けるのを待ったように典子が提案した。

「六調もいいけど、今日Seamen’s Club に行ってみて思ったんだけど、喜納昌吉さんの『花』なんかどうかしら。この曲は世界的にも知られているし、しっとり歌いあげるようなメロディーが健作さんのサックスがとても合いそう。」

「そうね、私はウチナンチュのビギンが歌った『恋しくて』なんかも健作さんのサックスでぜひ聴いてみたい曲かな。」と智子が続けた。

「ああそれいいね。『花』も『恋しくて』もいただき!

俺も六調の他に何か沖縄のメロディーをやりたかったんだ。で俺が考えてたのは、『唱歌』なんだ。」

修はまるで外国語を聞いたような顔をして健作に質問した。

「えっ、ショーカって何だい?」

「『文部省唱歌』だよ。『おぼろ月夜』とか昔の曲を、最近由紀さおりさんが歌って結構人気あるじゃん。明治から昭和にかけて作られたものだけど、結構西洋、特にアイリッシュのフォークソングなんかの影響受けてるから、演歌とか日本の民謡なんかより海外の人たちに馴染みやすいんじゃないかと思うんだ!」

「そう言えばテレビで由紀さおりさんと安田祥子さんが唄う童謡を聞いた事があるわ。」と智子が目を輝かせながら乗り出してきた。

「よし、じゃあ明日のステージの前に他の皆に計ってみようか。」と健作が言った。いつ尽きるともなく楽しい会話は弾み、夜は更けていった。

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