第4話 再 会

中村先生は、初老の男性と健作の間に立った。

「健作君、こちらは編曲家の渡邊先生だ。」


「こんばんは、この前は日光でありがとうございました。」

健作は改めて渡邊先生と握手しなおした。

「いや、健作君こちらこそ。あの後素敵なドライブを楽しめたかね?」

「今日はあの素敵な奥様とご一緒ではないのですか?」

「残念ながら家内はお友達とのお食事会があって、都心のホテルにフレンチを食べに行ってしまいました。あっはっはー。」


中村先生は、ちょっと驚いたように二人の顔を交互に見比べた。

「なんだ、君たちは知り合いだったのか!?」

健作はちょっとテレながら中村先生に向かい合った。

「あ、いや、この前日光へドライブに行ったときに、東照宮でお会いしたんです。」

そこに修、智子、そして典子がやって来た。


典子は初老の男性を見止めると、すぐに誰だか分かったようだった。

「あら、先日はありがとうございました。」

「おー、あのときのお嬢さん、今日はまた一際お美しいねぇ。」というと、微笑んだ。

「私は典子です。よろしくお願いします。」

典子は右手を差し出すと、渡邊先生はその手を両手で包み込むように、応えた。

中村先生の手は暖かく力強かった。

「私は渡邊です。改めてよろしく!」


今までことの成り行きを見守っていたにんじんのマスターは、外国人らしい訛りで

「さてさて、皆さん、積もる話もあるだろうし、お腹も空いたろうし、晩御飯食べに行きましょう!」

健作は、修、智子、典子を見渡して一様に首を縦に振っているのを確認すると、口を開いた。

「ありがとうございます。それではご一緒させてください。

先生たちはどこか、行くあてはありますか?」


中村先生は、皆を見回した。

「さぁて、何処に行きましょうねぇ。今日はマスターのお店は臨時休業だし・・・

誰かアイデアはありますか?」

「先生!」健作は、その問いに応えた。

「今日は修たちと無国籍料理の西武門で打ち上げをしようと思っていたんです。

よろしかったら、みんなで行きませんか?」


「ほっほっほー、それはいいアイデアですね。中村先生、マスター、いかがですか?」

渡邊先生は、嬉しそうに問いかけた。


マスターは中村先生に異論のないことを確かめると、

「それじゃあ皆さん、西武門にシュッパ~ツ!!」


一行は西武門につくと、広いテーブルについた。

ジョッキが配られると、みなは乾杯した。


「今日のチャックマンジョーネをフューチャーしたのはいいアイデアだったね。」

中村先生が話すと、すぐに渡邊先生が続いた。

「そうそう、なかでもLand of Make Believeは出色の出来だったよ。

あのフリューゲルは早苗さん・・・だったかな、彼女のフリューゲルも良かったが、健作君、君のアルトサックスは最高だったよ。」


「えっ、そうですか。いやー、大御所の先生にそう言っていただけると、舞い上がっちゃいます。」

健作はちょっと顔を赤く染めたかに見えた。


美味しい料理と美味しいお酒、そして楽しい会話で、皆はすっかり打ち解けて時はどんどん過ぎていく。

話が一通り落ち着くと、健作はさっきから疑問に思っていたことを切り出した。

「ところで中村先生。今日はなんで渡邊先生とご一緒なんですか?」

「うん、実は渡邊先生には、前々から『将来有望な若者がいるよ。』っていう話をしていたんだ。

今日はたまたまにんじんのマスターのところに集まって打ち合わせをしていたんだが、早く終わってね。それで、今日が君達のコンサートだってにんじんのマスターに言われて、みんなで聴きに来たわけさ。」


「そういうことだったんですね。それにしても私、渡邊先生が聴きにこられて・・・というよりも、あの日光でのご夫婦が、渡邊先生ご夫妻だったなんて、びっくりしちゃいました。」

と典子が日光でカメラのシャッターを押すのをお願いしたこと、渡邊先生ご夫妻が数十年振りの修学旅行をしていたことなどを、みんなに話した。


特に、渡邊先生の奥様との馴れ初めを知る者はなく、それを聞いた皆は一様に「へ~」と感動の声を漏らした

「ははは、こんどは私が照れる番かな。」

渡邊先生はくったくなく笑うと続けた。

「ところで健作君、今日にんじんのマスターと打ち合わせていたのは、沖縄での仕事の話しだったんだ。」

にんじんのマスターは外国訛りで話し始めた。

「そうなんで~す。私の友人が沖縄で興業のプロデューサーやってるんですけーど、夏休みにホテルや米軍のクラブで演奏してもらうために、アメリカからバンドを呼んでいたら、ドッタキャ~ンなんでーす。」


変な抑揚にみんなは笑い転げた。

中村先生が話しを続けた。

「そう、それでマスターから相談されて、渡邊先生とにんじんで話し合っていたのさ。

どうだい健作君、修君、夏休みを沖縄で過ごす気はないかね。」


思わず健作と典子は顔を見合わると、健作は改めて中村先生の方を見た。

「先生、実はノリは沖縄出身で、夏休みは帰省するんです。

もし俺も沖縄に行けるんだったら嬉しいなぁ。」


「修君はどうだい?」中村先生は修の方に顔を向けた。

「俺は就職も決まったからいいけど・・・」

修は元気なく語尾が聞き取れなかった。

「どうしたんだい、修君! 嫌かね?」渡邊先生は、心配そうに修の顔を覗き込んだ。


修は智子の顔を見つめると、再び中村先生の方に顔を向けた。

「あ、ぃゃ、その・・・ともちゃんが・・・」修は蚊の泣くような声でぼそぼそと答えた。

「あっ、智子君のことかね。

それじゃあどうだろう、智子君と典子君さえ良ければ二人はマネージャーとして来ないかい?」

中村先生がそういうと、智子も典子も嬉しそうに「はい、よろしくおねがいします。」と答えた。


「わぉ、やったぜ!!」

急に元気になった修は大きな声で叫んだ。


ますます会話は弾み、夜も更けていった。

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