第21話 やさしく歌って

健作と典子は華厳の滝、龍頭の滝を廻り、車は国道からそれて林道へと乗り入れた。


「華厳の滝は、すごい迫力でしたね。でも滝よりもエレベーターを降りてトンネルを歩くのがちょっと怖かったかな。」

典子は、運転する健作を気遣うように見つめて話をしていた。

「うん、そうだね。トンネルは白く塗られて照明も明るかったけど、なんかちょっと普通じゃない何かを感じたね。

でも、あの観瀑台に行くエレベーターが1930年に完成したというから、今から80年以上も前に作られたことを考えると、今とちょっと違う雰囲気があってもおかしくないかな。」

「そうかもしれませんね。トンネルの途中に慰霊碑があったりして、やっぱり何か感じちゃいました。

龍頭の滝も中々のものでしたね。きっと紅葉の頃に来たら最高なんでしょうね。

健作さん、あの・・・このCDかけてもらっても良いですか?」

典子は、かばんの中から一枚のCD-ROMを取り出すと、健作は車を路肩に寄せて停めるとイグニッションを切った。


「ああ、いいよ。なんの曲かな?」

「へへ、キイテカラノオタノシミです。走りながら聞いていただければ良いですよ。」

「いや、せっかく典子さんが持ってきたCDだから、集中して聴きたいな。」

健作は典子からCD-ROMを受け取るとカーステレをに入れて、シートの背もたれを少し倒した。


I heard he sang a good song,


I heard he had a style.


And so I came to see him to listen for a while.


And there he was this young boy, a stranger to my eyes.


Strumming my pain with his fingers,


Singing my life with his words,


Killing me softly with his song,


Killing me softly with his song,


Telling my whole life with his words.


Killing me softly with his song,


I felt all flushed with fever, embarrassed by the crowd,


I felt he found my letters and read each one out loud.


I prayed that he would finish but he just kept right on,


Strumming my pain with his fingers,


Singing my life with his words,


Killing me softly with his song,


Killing me softly with his song,


Telling my whole life with his words,


Killing me softly,


He sang as if he knew me in all my dark despair.


And then he looked right though me as if I wasn’t there.


But he was there, this stranger, singing clear and loud,


Strumming my pain with his fingers,


Singing my life with his words,


Killing me softly with his song,


Killing me softly with his song,


Telling my whole life with his words,


Killing me softly with his song,


健作は、じっと目をつぶって曲に聞き入っていた。

典子はどこか遠くを見ているような眼差しで正面を見ている。

やがて曲はフェイドアウトすると、森からは鳥のさえずりがかすかに聞こえてくる以外は静寂が訪れた。


数分も過ぎただろうか、健作が口を開いた。

「この曲はRoberta Flack の『やさしく歌って』だね。

大好きな曲の一つだけど、このCDはRoberta Flack じゃないね。」

「はい、これはAnne Murray が歌ってます。」


健作は典子を見つめると、典子は顔を赤らめると恥ずかしそうに下を向いた。

健作は、シートを戻してエンジンをかけると、車を走らせた。

「典子さん、もう一度『やさしく歌って』を聴いても良いかな?」

「はい、どのボタンを押せば良いですか?」

「あ、そこの丸い大きなダイヤルの下のボタン・・・」

再び、曲は流れ始めた。

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