第20話 目的地

「健作さん、今のご夫婦、とっても素敵でしたね。」

「そうだね。幼馴染が結婚するってちょっと想像付かなかったけど、意外と良いもんだね。」

二人は陽明門をくぐると、本殿へと向かって歩いていた。

「あら、健作さん、そんな幼馴染がいらっしゃるんですか?」

「ははは、いない、いない。そういう典子さんはどうなんだい?」

典子は立ち止まると、ほっぺたを膨らませて、健作をにらみつけた。

「私もそんな人いません。」

というと、健作の手をぎゅっと握った。

「おっとごめん、ごめん。ちょっと聞いてみただけ。」

「あら、お互い様でしたね、ゴメンナサイ。」

どちらからともなく笑い出すと、再び歩き始めた。


「さっきのご主人、どこかで会った・・・いや見たことがあるような・・・なんか喉まで出掛かってるんだけど。喉に魚の小骨がひっかかって取れないようなもどかしさなんだ。」

「お知り合いだったら、あちらの方も気がついたでしょうから、お知り合いというほどじゃないのかもしれませんね。」

「そうだね。・・・まぁそのうち思い出すかな。おっ、あそこ見てご覧。」

典子は、健作が指差すほうを見上げると、嬉しそうな声をあげた。

「あっ、眠り猫ですね。」

「うん、あれこそ左甚五郎作の眠り猫。国宝だよ。ここら辺にある建物はすべて国宝か重要文化財なんだよ。」

「復元された首里城も、素晴らしい彫刻で一杯ですが、回廊の彫刻なんかホントに見事ですね。」

「首里城かぁ・・・また沖縄で行ってみたいところが増えちゃった。」

「はいはい、健作さんの行きたいところは何処でもご案内します。」

「じゃ、よろしくお願いします。」

健作は、仰々しく芝居じみた格好をして頭を下げた。


「さて、これから華厳の滝に行こうか。」

「これからいろは坂を登るんですね。楽しみです。」

「まだじっくり東照宮をはじめ周辺を散策しても良いんだけど、目的地はもっと先なんで、今日の東照宮はさわりだけね。」

「これだけたくさん素晴らしいものを見たら、満足です。ところで、モクテキチ・・・ってどこなんですか?」

「それはね、・・・ヒ・・・ミ・・・ツ!!」

「え~、じらさないで教えてください。」

典子は健作の行く手を塞ぐように立ちはだかると、健作の顔を覗きこんだ。

「わかった、わかった。」

健作は直立不動の姿勢で『気をつけ』をすると、

「それでは発表します!

これからの予定です。いろは坂を登ってまずは華厳の滝を鑑賞します。その後は中禅寺湖沿いに進み龍頭の滝を見学します。

そして、戦場ヶ原の南端の林道を通って小田代ガ原を抜けると、中禅寺湖の奥にある西ノ湖にでます。そこが目的地であります。以上!」

「健作さん、了解しました。」

典子はおもちぉの兵隊さんのように敬礼すると健作の腕に自分の手を絡ませて、歩き始めた。

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