第18話 I've Never Missed Someone Before
軽快なChuck Mangione の心地よい響きを聞きながら、車は東北道を北上していた。
「あら、この曲可愛らしいですね。」
カーステレオからは、ピッコロソロの曲が流れだした。
「ああ、これね。『I've Never Missed Someone Before』っていう曲だよ。」
「『私は今まで誰もいなくても寂しくなかった・・・』ですか?」
「うん、そんな感じかな。この曲は色々なバージョンがあって、もっとアップテンポのもあるけど、これくらいだとチークタイムに良いかもしれないね。」
「なんか、高原の静かな夜明けの清々しい空気を感じますね。」
「そうだね~。これから夜が明けてこようとする直前のような感じがするね。
この曲をBGMに、モーニングコーヒーを飲みながら太陽が昇ってくるのを眺めていたいなぁ・・・。」
「健作さんって、ロマンティストなんですね。」
「ははは、そうかなぁ。」
「ええ、そう思います。ところで健作さん、健作さんは今まで誰もいなかった・・・お付き合いしていた人とかいないんですか。」
「え゛っ、あ、いや・・・」突然の典子の質問に、思わず健作はびっくりして息を呑んだ。
「あっ、ごめんなさい、ヘンナ質問して。」
「いや、いいんだよ。今まで特定の人とお付き合いはしたこと無いよ。」
「ホントですか? よかったぁ。」
典子は思わず外の景色に目をやり、微笑んだ。
健作は、チラッとそんな典子に目をやると
「じゃあ、典子さんにも同じこと訊いていい?」と切り替えした。
典子は、運転する健作の方に向き直ると答えた。
「はい、私も今まで一対一でお付き合いしたことはありません。」
「そうなんだ、典子さんみたいな可愛らしい人が今まで一人だったなんて、奇跡だね。」
「I've Never Missed Someone Before.」と典子が答えると、二人は大笑いした。
典子が続けて心の中で呟いたフレーズは、健作には聞こえなかったが、健作も同じ気持ちである事が、なんとなく伝わってきて、嬉しくなった。
「But when you aren't here, I'm lonely.」
のどかな田園地帯を走り抜け羽生PAを過ぎると、前方に大きな橋が見えてきた。
「あっ、健作さん! 大きな川ですね。これはなんていう川ですか?」
「この川は『坂東太郎』っていうんだ。」
「えっ、『バンドウタロウ』・・・ですか。そんな川の名前があるなんて初めて聞きました。」
「ははは、この川は『利根川』だよ。『坂東太郎』は昔の人がつけた愛称さ。
次男、三男までいるんだよ。次男は『筑紫次郎』で筑後川のこと、三男は『四国三郎』って言って吉野川のことなんだ。」
「へ~、健作さんは何でも知ってるんですね。」
楽しい話が続くうちに、東北道から日光宇都宮道路へと進み、日光インターで一般道に出た。
「この国道は、『日本ロマンチック街道』っていうんだよ。」
「えっ、日本にもロマンチック街道があったんですか。確かドイツにあったんじゃなかったかなぁ・・・」
「おっ、典子さんよく知ってるね。そのドイツのロマンチック街道を真似して・・・というか姉妹提携して、日光から長野県の小諸まで230kmのルートをそう呼ぶようになったんだ。日本で一番ロマンチックでドイツの風景に似ていることから、ドイツにあやかったらしいよ。」
「さすが健作さん、どうしてそんなことまで知ってるんですか?」
「ははは、種明かしをすると、夕べ地図を見ていたら『ロマンチック街道』って書いてあったから、ちょっとググってみただけだよ。」
「そうなんですか。でも興味を持って調べるところがすごいです。いつか、日光から小諸まで走ドライブしてみたいな。」
「そうだね、いつかのんびりドライブしたいね!」
日光インターで高速を降りると、国道を東照宮へと向かった。
「わー、これが有名な杉並木ですね!」
道の両側に大きな杉がそそり立つように並んでいる。
「ここの杉並木は、世界最長の並木道として、ギネスに登録されてるんだよ! 総延長は35kmあるんだ。」
「なんかこの杉並木を通ると凛とした気持ちになりますね。」
「そうだね。ただ僕たちもこうやって車で走ってるだろ。生活道路として機能している事から、車の排気ガスなどにやられて、立ち枯れる杉が後を絶たないんだ。」
「そうなんですね。何時までもこの素晴らしい杉並木を残していきたいものですね。」
日光駅を過ぎると前方にこんもりとした森が見えてきた。
車は神橋を渡って突き当たりの交差点を国道とは逆に右に曲がると、東照宮の裏手の駐車場に到着した。
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