第17話 Northward Passage
健作は梅ヶ丘北口駅前のロータリーに向かっていた。
カーステレオからは、Chuck Mangione の軽快な音楽が流れ出ている。
6時少し前に着くと、ロータリーの脇にあるコンビニの前で、典子は大きなバスケットを持って待っていた。
健作はコンビニの駐車場に車を止めると扉を開けた。
「典子さんおはよう!」
「健作さん、おはようございます。今日はよろしくお願いします。」
「いや、こちらこそ。随分大きなバスケットだけど、ひょっとしてそれ全部お弁当?」
「はい。夕べ・・・っていうか、0時に作りました。」
「え~、そんな大変な思いさせちゃったんだ。悪いなぁ。お弁当の後は、僕が美味しいコーヒーを入れてあげるよ。」
「えっ、どうやって入れるんですか?」
「いつも車にアウトドアでコーヒー飲めるように、お茶セットを積んでるんだ。」
「へー、それは楽しみです。」
「さて、バスケットは後ろの座席に置こうか。」
健作は、典子からバスケットを受け取ると、後部座席のドアを開けて、シートの上に置いた。
そして、助手席のドアを開けると、
「典子さん、ここを左手で握ったら、足をステップに乗せて乗るんだ。」
「はい、こんな高い車高の車に乗るの、初めてです。」
健作はドアを閉めると、運転席に乗り込んで、車を発進させた。
健作が乗り込むのを待っていたかのように、典子は口を開いた。
「健作さん、この車は健作さんのですか?
座席の位置が高いから、見晴らしが良くて気持ち良いですね。」
「このハイラックスのピックアップは、僕のだよ。一生懸命バイトして、中古の安い奴を買ったんだ。バイト代を貯めて、少しずつ自分の好みにしていくのも楽しいものだよね。この車はオフロードを走れるように、ノーマルより2インチ高くしてあるんだよ。」
「へー、健作さん、車にもこだわりがあるんですね。後ろに荷台があって、後ろにも座席があるなんて、乗用車とトラックのあいの子みたい。」
「うんこのハイラックスは、エクストラキャブって言う種類で5人乗りだから、乗用車と同じだね!」
「なるほど、大きな楽器を運ぶ時なんか、重宝し・・・あれ、この曲フルートソロが入ってますね。」
カーステレオからはChuck mangioneのCDが流れていた。
「これ、実は今日典子さんに聞かせたくて持ってきたんだけど、よく気がついたね。
Chuck mangione の Bellavia っていう曲だよ。
もう一度最初から聞こうか!」
健作は、Play Back ボタンを押すと、最初からかけなおした。
曲が終わるまで、典子は静かに聞き入っていた。
健作は、車を環七から甲州街道を右折して、初台で首都高へと導いた。
「いいですね! こんな素敵な曲、吹けるようになりたいな。」
「大丈夫、典子さん練習熱心だから、すぐに吹けるようになるよ。」
「はい、頑張って練習します。
ところで健作さん、今日は何処に向かってるんですか。」
「ははは、何処だと思う?
今どっち方面に走ってるか判るかな?」
「なんとなく北のほうに向かってるのは判りますが・・・何処だろう。全く見当もつきません。」
「ピンポン、北に向かってるのは正解。ヒントは東京近郊に住んでる大部分の小学生は、林間学校とか修学旅行で行くところだけど、沖縄出身の典子さんは多分行ったことないところ。」
「う~ん、健作さん降参です。教えてください。」
「目的地は、日光さ。」
「え~、そんな遠くに行くんですか?」
「いやいや、意外と近いんだよ。梅ヶ丘から日光東照宮まで160kmだよ。」
「へー、そうなんだ。日光は行ったことないんで楽しみです。」
軽快なChuck Mangione の音楽に乗って、車は首都高から東北自動車道に入ると北を目指した。
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