第13話 雪解け
「うまかったねー、タカアシガニ。
健作の言うとおり、ここにきて、このカニが食えて最高!
もう腹がはちきれそうだよ。」
4人は、海辺に面した食堂の窓際に面した座敷に座って、食卓を囲んでいた。
「私もこんな美味しいカニを食べたのは初めてかも! ノリは、沖縄で美味しいカニ食べてたの?」
「沖縄ではこんな大きなカニはいないわよ。生きてて良かった!・・・って思っちゃうくらい美味しかった!」
「皆に喜んでもらってここに来た甲斐があったね。」
健作は嬉しそうに言った。
そこに奥から食堂のオヤジさんが出て来た。
「どうだ、うまかっただろう。」
「はい、今みんなで『生きてて良かった!』って話してたんです。おれたち、オヤジさんの御蔭でこんなうまいもの食べさせてもらって最高です。」
と健作は言い、深々と頭を下げると、他の3人も健作にならって頭をさげた。
智子は、頭を上げると、
「こんな美味しいものなのに、スーパーとかで売ってるの見たことないです。
タラバガニとか、ズワイガニとかはよく売ってるのに何故なんだろう?」
と言うと、オヤジさんはニコニコ笑って話し始めた。
「ああ、タカアシガニは、ズワイとかタラバとちがって、死ぬと不味くなるんだ。
食べる直前まで生簀で生かしておかなくちゃ美味しくないんだよ。
冷凍したものもだめだね。解凍するときに美味しさが解け出ちまうんだ。」
「へ~、だから街中では売ってないんだ。食べたくなったらここまで来て、オヤジさんに頼んで茹でてもらわなくちゃいけないんだね。」
修は感心したように言った。
オヤジさんは、にこやかに笑った。
「ははは、これは茹でたんじゃないんだよ。判るかい?」
「えっ、これって茹でたんじゃないんですか!? とすると・・・え、え???」
健作は、皿に乗っていた殻を取り上げてしげしげと眺めた。
「あっ、判った。これ蒸したんですね。」
智子は、手を上げて答えた。
「ほー、ねぇちゃんよく分かったね。
そうだよ。タカアシガニは、茹でると旨さがみんな溶け出して、肉はパサパサで不味くなるんだ。
だから、街では食べられない味なんだ。」
「へ~、カニにも色々あるんですね。トモちゃんはレストランでバイトしてるから、料理に詳しいんだ! 海の中で、小さいカニはよく見かけるけど、一度こんな大きなカニがいる中を潜ってみたいです。」
「おっと、ねぇちゃんタカアシガニは水深200~300mに棲んでるから、人間は潜れねぇや。
タカアシガニは、大味で水っぽいっていう奴もいるけど、採れたてをすぐに蒸して食べると、こんなにおいしいものはないんだよ。地元でしか味わえない味だね。」
「さて、そろそろ行くか。」
といって健作が皆に目配せすると、立ち上がった。
「オヤジさん、色々ありがとうございました。
また、カニ食べたくなったら寄らせよらせてもらいます。」
「おう、いつでも待ってるよ。」
4人は、見送るオヤジさんに手を振るとまた海に向かった。
海岸線を暫く散策すると、バスに乗って三崎口駅に向かった。
始発の快速特急に乗り込むと、また座席を来た時のようにボックス席にして座った。
「健作さん、今日はありがとうございました。とっても楽しい一日でした。」
典子が隣に座った健作の方に顔を向けて言った。
「うん、僕も楽しい一日だったよ。久しぶりに見た海はキラキラ輝いて気持ちよかったね。
典子さん、今朝は早かったから疲れたんじゃない?」
「ええ、でも美味しいものも食べられたし、大満足の一日でした。トモちゃんもちょっと疲れたみたい。」
行きの電車とは違って、健作と典子、修と智子が隣同士に座っている。
前に座っていた智子と修は居眠りをしていた。
「品川まであと1時間位はかかるから、典子さんも良かったら寝るといいよ。」
「ええ、ありがとう。」
健作と典子はその後はしばらく話していたが、いつしか典子は健作の肩に頭を預けて寝ていた。
健作は、何を考えているのか車窓から見える彼方の茜色に染まった雲を眺めていた。
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