第7話 春 風

「健作、昼は何食べようか?」

「そうだなぁ、マックどう? それともカツ屋でカツ丼!」

「今日はガッツリ食べたいからカツ屋にでも行こうか!」


外は抜けるような青空が広がり、ひんやりした空気と、柔らかな陽光がとても爽やかなお昼時だった。

午前中の授業が一緒だった健作と修は、教室の外に出ると、駅前にあるカツ屋へと向かった。


「なぁ修、この前の中村先生と、マスターとのカルテットはどうだった。」

「ただ一言、『衝撃的』だったね。」

「俺は自分が急に上手くなったような気がしたよ。中村先生とマスターに上手く乗せられたというか、合わせられたんだろうな。」

「そうだね、先生たちはさすがプロだよ。俺もあそこまで気持ちよくドラムを叩けたのは初めての経験だった。」

「俺たちの Stargazer Orchestra ももっと上手くならないとな。」


運ばれてきたカツ丼を、二人はあっという間に平らげた。

「ところで修、今日は部活無いけど放課後はどうするんだ?」

「ああ、トモチャンと映画見に行くんだ。」

「お前、演奏会のチケット渡すだけであんなに苦労したのに、いつの間にデートの約束しちゃったんだ? しかももう『トモチャン』なんて呼ぶ間柄になったなんて信じられないよ!」

「あ、いや典子さんが『トモチャン』って呼んでたじゃないか。だから俺もあやかって『トモチャン』って呼んでみたいなぁ・・・なんちゃってね。健作も『ノリ』って典子さんのこと呼んでみたらどうだい!?」

二人は顔を合わせると、笑った。


「健作、お前も典子さんのこと、まんざらじゃないんだろ?」

「そうだなぁ、『いったいあの爽やかさは何なんだろう。』っていうくらい、気持ちの良い子だね。

それより修、今日が智子さんと初デートじゃないか。頑張れよ!」

「ははは、ありがとう。」ちょっとはにかみながら修は手を上げた。

「健作はいつ典子さんにフルート教えるんだい?」

「実は今日放課後に体育館で待ち合わせしてるんだ。」

「なんだ、健作も初デートじゃないか。」

「おいおい、デートじゃないよ。レッスンだよレッスン!!」

健作はムキになって否定した。

「ははは、わかったわかたった、健作、お前も頑張れよ!」

健作はそれには答えずに修に別れを告げた。

「修、今日のデートの結果はちゃんと報告しろよ。じゃぁな!」

「おっと、了解しました、部長殿。それでは失礼させていただきます!」

修はおどけた調子で敬礼すると、授業へ向かう学生の波にのまれていった。


健作は、授業へと向かう途中修が智子と一緒に映画に行く様子を思い描くと、いつしか修と智子を健作と典子に置き換えて顔をほころばせていた。

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