第3話

話が飛び飛びで申し訳ない。

43歳の脳ミソはそう簡単には働いてくれない。いま、続きをドコモショップで手続き待ちを利用して打っている。できることなら、ガラケーに戻りたい、使えないスマホ。私の働きよりSonyのほうが先んじていて困る。


今夜のお薦めは、エリンギ、赤ピーマン、緑ピーマンの白地たてのパスタとカボチャのズッパ。シェフが昼間、娘のため駆け回ったため夜は休みで、相方シェフ久美子の1品料理だ。


ズッカのズッパ(カボチャのすーぷ)、は母にしては絶妙の味で、カボチャのあまみをほんのり残したまま、いいい塩梅の塩気で仕立てられている。胃腸のあまり強くない人や、病み上がりにはもってこいの1品だ。ズッパには多くの野菜のエキスがぎゅうぅぅとつまっているから回復も早くなる。


お客さんが二人の今夜は、カメリエーレに後は任せて母は既にイビキをかいている。


このお二方にとって暇だったのは幸いだったか。気にしないつもりがついつい視てしまう、エメラルドの薄い青の小さな箱。それをしっかと結んだ水色のリボンが開かれたとき、女の方はどう反応し、男の方はその反応に、またどう反応するのだらう。


男の方が食べるのが遅いことからして、このハンサムとは言えないが、誠実さや優しさがにじみ出た顔は、思った以上の返事を女から貰えるだろう。


体育会系バリバリの肩がいかった女は、出された食事をマッハで食べ、たいあげると目尻を下げて男を見つめている。


はぁっ。やはり観てみぬふりの妹は、思わずため息をつき、私に聞こえる程度に、いいなぁと呟いた。


そうかなぁと、全くそういうシチュエーションと縁のない私は、たまった皿を洗いに戻る。


おめでとうございます、思わず口にしたくなる程、二人の空間は一つになっていた。

これから、このお二方は共にどんな人生を歩んでいくのだろう。


デザートは、ティラミスゥ

アルコールをしっかり効かせて、ほのかな酔いが二人を真新しい朝へと誘うようにシェフが今朝仕込んだ 定番のドルチェだ。


ティラミスゥ

私を連れていって、という洒落た意味があるイタリア語だ。


食後酒が、もう誰も二人の間には入れない彼れらの世界を作り出し、それでいて溢れださんばかりの幸せは誰もが共有できる甘い花びらをまいているようだった。


〆のエスプレッソをくいっと飲み干し、お客さんたちはプリンスホテルへと帰って行った。


それぞれの思いを淡く感じて、妹と私は後片付けを終えた後、腰越の家路をランニングして帰った。


遠くで細く輝く月が、手のひらに降りたかのような澄んだ夜だった。

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