第8話 地下一階

 燃える炎のような紅い髪をなびかせて、バーン・イーグニスは天魔の塔の地下迷宮へ向かっていた。最初に天魔の塔へ行った時とは違い、バーンには二つの目標というか、使命ができていた。

 一つは、バーンを助けてくれたという力の英雄ヴィゴ・バトルロードに直接お礼をすること。そして、もう一つは、故郷ヴィラージュを焼き払ったフラム・ヴォルカンへの復讐だ。

 バーンは気持ちを新たに地下迷宮へと足を踏み入れた。……ある意味、今日が冒険の初日と言ってもいい。

 今日も地下一階には冒険者ダイバーが大勢いた。皆、思い思いの方向へと足を進めていく。

 バーンも一人歩いていく。すると、一匹の小鬼ゴブリンと遭遇した。今回は以前のように群れではない。ゴブリンは、七〜八歳児程度の身長で、耳が尖っていて緑色の皮膚をしていた。歯と爪も鋭く尖っていて、引っかかれたり噛まれるのはマズそうだ。

「よーし!」

 バーンとゴブリンはお互い身構える。すると、ゴブリンが飛びかかってきた。

 バーンはそれを落ち着いてかわすと、地下迷宮の壁の所々にある松明に向かって手を伸ばした。

 松明までは数メートル。だが、不思議なことが起こった。松明の炎が糸のように細く伸び、バーンの手の所まで来ると、小さな火種になった。バーンが手の中の火種に念じると、それはみるみる膨れ上がり、直径1メートルほどの火の玉となった。ゴブリンを包み込めてしまう大きさだ。バーンは、その火の玉をゴブリンに向かって投げつける。

「ファイヤーショット!」

 火の玉は見事にゴブリンに直撃し、一瞬でゴブリンの体を焼き尽くした。

 これは村長が力をくれたおかげだろうか。バーンは、今までこれほど自在に炎を操れたことはなかった。それが今や炎でどんなことでもできそうだ。

 休む間も無く、二匹目のゴブリンが現れた。

「よーしっ、次はこいつだ」

 バーンは腰に下げていた剣を引き抜くと、飛びかかってくるゴブリンに向かって、力一杯振り下ろす。

 ゴブリンは耳障りな断末魔を上げながら、真っ二つに切り裂かれた。そのまま地面に倒れこむと、砂のように消えてしまった。

「何だ、意外と戦えるじゃないか、俺」

 それから暫くの間、バーンは地下迷宮の一階をしらみつぶしに調べてまわった。ゴブリンとも何度戦ったか分からない。だが、幸運なことに大した怪我をすることもなく、バーンは地下二階へと降りる階段を見つけた。

 階段を降りるとすぐにモンスターが倒れていた。誰か他の冒険者ダイバーと戦った後なのだろうか。しかし、バーンが今まで戦ったゴブリンのように砂のようになって消え去りはしない。

 どうやら、そのモンスターは気を失っているだけのようだ。大きさはバーンが今まで戦っていたゴブリンと同じかゴブリンよりも小さいぐらい。しかし、ゴブリンとは比べ物にならないほど太い手足をしていた。そして、顔は牛。倒れているのは、ミノタウロスの子どものようだった。

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