第3話 7月23日

 それが二日も続くと、僕も秀彦も嫌気が差していた。

「もう、夏の星座でいいじゃん」

 図書館の前でカッちゃんを待つ間、秀彦はそう愚痴る。

 実のところ、僕もそれに賛成だった。もう、普通でいいから、いい加減に自由研究のテーマを決めたい。

 そこへ、カッちゃんが自転車を猛スピードで漕ぎながらやってきた。

「おーい、テーマが決まったぞ!」

「はぁ?」

 僕と秀彦は、同時に声を上げた。図書館中を駆けずり回って本を探しても、テーマが決まらなかったのに……。

「自由研究のテーマは……殺人事件だ!」

 カッちゃんが興奮気味に話す。息を切らし、額に流れる汗にも気付いている素振りすらない。

 一方の僕ら二人は、絶句していた。確かに普通のテーマではないが、殺人事件とは……。

 図書館の入口近くにあるベンチに腰掛け、僕らはカッちゃんの説明を聞くことにした。

「朝飯食ってたらさ、ニュースでやってたんだよ。この街で、死体が見つかったんだって。犯人は、まだ捕まっていない」

 僕と秀彦は、頷いて先を促す。

「だから、自由研究のテーマを殺人事件にして、俺たちで犯人を捕まえようぜ!」

「俺たちで?」

「それって、かなり危ないんじゃないの?」

 僕と秀彦は、当然反対する。それに、自由研究のテーマが殺人事件なんて聞いたことがない。

「犯人捕まえたら、新聞に載るんだぜ。すっごいだろ!」

 カッちゃんは一歩も譲る気はないらしい。

 カッちゃんがこうなってしまったら、手が付けられないということを僕は知っていた。

 深いため息を吐くと、僕は尋ねる。

「犯人を捕まえるのは、自由研究じゃないでしょ。それに、テーマを殺人事件って、具体的にどうするのさ?」

 その質問を待ってましたとばかりに、カッちゃんは鼻の穴を大きくする。

「この街の近くで起こった事件を調べるんだよ」

 この街の近くで、それほど殺人事件が起きているのだろうか?

 今回の事件を調べるのは、探偵になった気分になれて確かに面白いかもしれないが。

「どうだ。殺人事件を自由研究のテーマに決めようぜ」

 恐らく、カッちゃんの中ではすでに決定事項だろうが、一応僕らに聞いているのだろう。

「いいよ、やろう!」

 僕が賛成すると、秀彦も渋々賛成する。僕ら、三人のいつもの流れだった。

 こうして、僕らの自由研究は殺人事件に決まったのだった。




 その殺人事件は、僕らの住む街で起こっていた。

 東京都、月野市。都内ではあるが、緑が多く自然が豊富なところだ。

 ニュースで流れていた事件の概要は、こうだった。

 月野沼で白骨化した遺体が見つかった。頭蓋骨にへこんだ跡が見られたため、警察は殺人事件として捜査を開始したようだ。しかし、白骨化しているため、身元の特定には時間がかかるだろうということだった。

 それから、僕らはニュースの度にテレビにかじりついて見ていたのだが、特に情報は得られなかった。

 パソコンが使える秀彦は図書館のパソコンを使用し、このニュースの記事を見ていたがテレビの情報と大差がないようだった。

 僕らの自由研究は、いきなり座礁した。やはり、殺人事件を解決するなんて無理だったんだ。僕らの中にそんな空気が流れていた。

 結局、その日はそれだけで終わってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る