第1話 7月20日

 その時、僕たちは砂漠を行くキャラバンだった。

 山のような荷物とカラカラに乾いた喉。汗はすでに出尽くした。

 それでも太陽は容赦なく照りつけ、肌を焼く。その音が今にも聞こえてくるようだ。

 遠くの風景がユラユラと揺らめく。いまだ、オアシスは姿を現さない。

 誰も言葉を発しない。しばらく無言で歩き続ける。

「……暑いよなぁ」

 武田克哉たけだかつやは、今日何度そう言葉にしたか分からない。僕はそれに何度目かの相づちを打つ。

 数日前までの雨はどこへやら。やっと夏がやってきたことを太陽の光が伝えている。

 明日から夏休み。本来ならば、小躍りしながら帰宅するところだ。しかし、家に持ち帰る大量の宿題と荷物の山が僕たち三人の足取りを重くしていた。

 ランドセルの両脇には体操着の袋やらをぶらさげ、ランドセルからは筒状に丸めた紙が刺さっている。手にも習字道具やら、絵の具セットやら荷物をもてあましている。これが、三人のリーダー格、カッちゃんこと武田克哉だ。学校指定の帽子からのぞく髪が汗で濡れ、顔に張り付いている。

 カッちゃんは両手の荷物を持ち直すと、再び歩き始める。

それを僕の隣で眺めているのが、服部秀彦はっとりひでひこ。カッちゃんと同様に両手は荷物であふれかえっていた。それは、僕、日下瞬くさかしゅんも同じだった。月野小学校一学期の終業式である今日に向けて、不要な荷物を徐々に持ち帰っていたはずなのだが……。

 またそれから、数分間は暑さと疲労で無言になってしまう。

 やっとのことで、三人が別れる交差点までやってきた。家まではもう少しだ。

「じゃあ、いつものところに集合な」

「おうっ!」

 克哉の言葉に、僕と秀彦はそう応えると再び歩き出す。

 その日の帰路は、本当に長かった。




 一時間後、僕らはいつものコンビニの前にいた。

 アイスをかじりながら夏休みの計画を立てているのだ。

「そういえば、アレどうする?」

「アレって?」

「自由研究だよ。マコっちゃんは友達同士で協力していいって言ってたじゃん。三人でやろうぜ」

 克哉が言うマコっちゃんとは、僕ら三人のクラス五年三組の担任である鳥居誠とりいまことのことだ。若く、休み時間に一緒に遊んでくれるため、児童からは人気があった。児童たちは親しみを込めて、マコっちゃんと呼ぶのだ。

「じゃあ、テーマは何にしようか?」

 僕がその提案に乗っかる。

「夏の星座とかは?」

「えー、普通すぎ」

 秀彦の提案を克哉が即却下する。

 すぐに却下されたので、秀彦は若干むくれる。

 カッちゃんと秀彦はこうやって、頻繁に衝突することがある。

 秀彦は普段から星に興味を持っていて、今年の誕生日には天体望遠鏡を買ってもらったと自慢していた。カッちゃんもそれを分かっているはずなのだが。

「どうせなら、誰もやらないようなテーマにしたいじゃん」

「じゃ、どんなテーマがいいの?」

「それは、これから考える」

 ノープランかよ!と僕と秀彦は心の中で突っ込む。

「図書館にテーマを探しに行こうか?」

 僕が提案する。やっぱりこういうときは図書館だ。

「じゃあ、明日から図書館でテーマ探しに決定!」

 カッちゃんが勝手に決定する。どうやら秀彦も異論はないようだ。

 こうして、僕らは三人で一緒に自由研究をすることになった。

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