BLOOD BRAIN

今井雄大

プロローグ 9月1日

 彼の言葉が途切れると、教室は静寂に包まれた。

 九月に入ったとはいえ、日差しは今だに真夏のそれと大差がない。日陰から出ると、じりじりと皮膚を焼かれる。眼に痛いほどの青空には、人を小馬鹿にしたような顔の入道雲が、ぽっかりと浮かんでいた。

 まだ、残暑とは呼べない暑さが連日続いている。秋は、まだまだ遠いらしい。

 外の暑さとは対照的に、教室の空気はひんやりとしている。

 誰も言葉を、呼吸音でさえ、発することをよしとしない。教室の空気はそんな重さも含んでいた。

 服の下を汗が伝う。それが汗なのか、それとも、冷や汗なのかは分からない。しかし、汗を拭うことを、体が拒否していた。

 夏休みの自由研究発表会。それに不釣り合いな重苦しい空気。

 息が詰まりそうな空気を作り出した張本人。彼はゆっくりと教室を見回し、満足げな表情を浮かべた。どうやら、全ては彼の思惑通りに進んでいるらしい。

 彼、カッちゃんこと武田克哉たけだかつやの親友と自他共に認める僕には、それが手に取るように分かった。カッちゃんは、自分の思い通りにならないと途端に不機嫌になる。そうやって、自分の機嫌に周りを巻き込む。

 機嫌が良いときは、明るくて楽しい友達だ。しかし、一度機嫌をそこねると、しばらく口をきかなくなる。たとえ、僕が引き起こしたことでなかったとしても。誰が機嫌をそこねたのかは、彼にとって問題ではないのだ。

 そんな欠点があるとはいえ、僕、日下瞬くさかしゅんと彼は親友だった。下校する方向が同じ人間同士、いやでも仲が良くなってしまう。

 教室の静寂を破ったのは、やはり彼だった。

「この自由研究は、日下瞬君と服部秀彦はっとりひでひこ君と協力してやりました」

 教室中の視線を独り占めしたカッちゃんは、後ろ手を組み、今だ満足げな表情をくずさないままそう付け加えた。

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