第23話 8月30日
とうとう夏休み最終日が押し迫った八月三十日。
秀彦とカっちゃんの自由研究の進み具合を確認する約束をしていた日になってしまった。
秀彦は相変わらず、行方不明のままだった。
捜査は難航しているようで、毎日ニュースを確認していたが、特に新しい情報は出てこない。
捜索は警察に任せると決めたものの、何をしていても僕の気分は晴れなかった。胸の奥に何か棘のようなものが引っかかっているような、モヤモヤがずっとあった。
一体、秀彦はどこで何をしているのだろう。考えたくなくても、つい考えてしまう。
結局、僕はボーッと一日を無駄にしてしまった。遠山あかりも流石にもう図書館で本を読んでいることもないだろう。二学期の準備もしなきゃならないだろうし、夏休みの宿題の残りもあるだろう。遠山あかりに限って、夏休みの宿題をやり残しているとは思えないが、毎日のように図書館で本を読んでいたのだ。絵や工作なんかは図書館ではやりようがない。ひょっとしたら、残っている宿題があるかもしれない。
夜になると、カっちゃんから電話があった。
「もしもし」
「おう、瞬か」
「カっちゃん、ちょうどよかった。僕もかけようと思ってたんだ。自由研究の清書って終わった?」
「あぁ、秀彦から貰って、模造紙に書いたぜ」
……そうだ。秀彦は自由研究のまとめをカっちゃんに渡すって言っていたんだ。最後に秀彦にあったのは、カっちゃん……?
「いつ、秀彦から自由研究のまとめた物を貰ったの?」
「……いつだっけな。秀彦がいなくなる前の日かな?」
「そのとき、秀彦は何か言ってなかった?」
「……いや、特には。そんなことよりさ、瞬は、明日暇か?」
「別に暇だけど」
「秀彦のことで話があるんだ」
「……秀彦のことで?」
「あぁ、じゃあ、天狗山の参道入り口に来てくれ。そこで待ってる」
カっちゃんはそれだけ言うと、電話を切ってしまった。
別名、河童ヶ池と呼ばれる月野沼の次は、別名、天狗山と呼ばれる月野山に来い?
両方とも親から危ないから近付くなと言われている場所だ。河童ヶ池は河童が出る。天狗山は天狗が出るからと。
遠山あかりに言わせると、それは親の方便らしく、河童ヶ池——月野沼は、草むらと沼の境目が分かりにくく沼に落ちてしまうから危ない。天狗山——月野山は、断崖絶壁の場所があるので危ない。そんな理由で市内の親たちは、子どもを近寄らせないようにしているらしい。
そんな場所を指定するなんてカっちゃんは何を考えているのか。……遠山あかりに知られたら、また心配をかけてしまうだろうが、カっちゃんは秀彦のことを何か知っているに違いない。それは、どんなことをしても聞き出さなくてはならない。
僕は決意を固めて、ベッドに入った。明日のことを思うとなかなか寝付けないと思ったが、すぐに眠気はやってきてくれた。
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