第19話 8月24日
今朝も僕は起きるとすぐに、秀彦のスマホに電話を掛けた。
だが、相変わらず電源が入っていないというアナウンスが流れるだけだった。
リビングでは、母さんが朝食を取りながら、テレビを見ていた。
僕も母さんに習い、朝食を食べながらテレビを見る。ニュース番組では、政治関連のニュースが流れていた。
政治のニュースが終わると、月野市で小学生が行方不明になっているというニュースが始まった。
僕は朝食を食べる手を止めて、自然とニュースに集中した。
ニュースでは、月野市の小学五年生、
正直、最後の情報が必要だったとは思えなかったが。
しかし、これで秀彦が家出でお婆ちゃんの家にいることはないと明らかになった。そして行方不明のニュースとして流されるということは、誘拐でもないだろう。
秀彦の家は、比較的裕福だ。自分から自転車でどこかに向かっていても、ある程度の旅費はなんとかなるだろう。まだ、事件に巻き込まれたのではなく、自分からどこかに行った可能性は残っている……と思いたい。その場合、もう月野市内にいる可能性は低いと思われるが。
どうか、秀彦が急に残された夏休みを自転車で日本一周しようと思い立ったとかであってくれたら。……僕らに一言もなしでというのは少し寂しいが。
遠山あかりは、このニュースを見ただろうか?僕よりも大人な彼女に相談したら、このどうしたらいいか分からないモヤモヤを何とかできるだろうか。
僕は図書館に行ってみることにした。どうせ母さんに相談しても、言われることに想像はついた。「警察に任せろ」だ。まだ、遠山あかりの方がマシなことを言ってくれるだろう。
僕は支度を済ますと、外に出た。
今日も外は熱気でむせかえるようだった。少しは涼しくなる日があってもいいとは思うのだが、このところずっと暑い日が続いていた。
僕は自転車に飛び乗ると、図書館へ向かう。
自転車で風を切った方が、ボーッと外に立っているよりは涼しかった。
図書館に到着すると、駐輪場に自転車を停めた。
Tシャツを仰ぎながら、図書館の中へと入る。相変わらず、図書館の中は涼しかった。
子どもコーナーへと向かうと、遠山あかりはいつもの席に座り、本を読んでいた。
「おはよう、遠山さん」
「おはよう、日下君」
僕は遠山あかりの向かいの席に座ると、早速切り出した。
「今朝、ニュース見た?」
「見たよ。服部君のことやってたね」
「捜索願が出されたみたいだけど、秀彦が事件に巻き込まれたなんてことあるかな?」
「うーん……」
遠山あかりは何とも言いにくそうな顔をしている。
「どこか自転車で旅に出たとかさ」
「でも、もう三日も連絡ないって普通じゃないよね……スマホも繋がらないんでしょ?」
「……うん」
「もう、警察に任せるしかないんじゃない?」
遠山あかりは諭すように僕に話し掛ける。
「それは頭では分かってるんだけど、何もしないで帰りを待ってるってどうもできなくて……」
「気持ちは分かるけど、みんな待ってるしかないんだよ」
僕は何も言えなくなってしまった。自然と顔も俯いてしまう。
「もし、服部君が事件に巻き込まれたとしたら、探し回ってる日下君も同じことになるかも知れないじゃない。そんなの私、嫌だよ」
顔を上げると、遠山あかりが若干涙ぐんでいた。
「ごめん、心配ばっかりかけて」
僕は決心した。もう、警察に任せよう。それが一番だ。
ずっと僕が秀彦を見つける気でいたが、心配を掛けている人間がいる。それにやっと気付くことができた。
僕はバッグから本を取り出した。そして、図書館が閉まるまで、いつものように遠山あかりと過ごした。
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