第16話 8月21日
それは夏祭りも終わり、夏休みも終わりに近付いた日の夜のことだった。
僕は両親が休みを合わせてくれたおかげで、おばあちゃんの家に泊まりに行ったり、プールに行ったりと夏休みを満喫できた。
特に予定のない日は図書館に行って、遠山あかりと一緒に本を読んだり、ドリルをするのが習慣になっていた。
おかげで夏休みの宿題も順調に進んで、あと残っているのは工作ぐらいだ。
こんな夏休みなら、ずっと続けばいいのにと思えるような日々が続いていた。相変わらず暑い毎日が続き、昼間は外に出る人がほとんど居なくなるような状態ではあった。おかげで僕もだいぶ日に焼けて黒くなった。
そんな日の夜だった。
突然、電話が鳴った。母さんが電話に出る。
「はい、
母さんは受話器を押さえると、僕を呼びつけた。
「瞬!ちょっと、瞬!
僕は電話の元へと小走りで向かうと、母さんから受話器を受け取った。
「服部……秀彦のお母さんから電話?」
一体、秀彦のお母さんが僕に何の用だろう?
「もしもし、電話代わりました」
「あ、日下君ね。うちの秀彦、知らないかしら?まだ、帰ってこないの」
僕は壁に掛かっている時計に目を走らせる。もう夜の九時過ぎだ。どこかに遊びに行ったとしても、子どもだけにしては帰りが遅すぎる。
「夏休みの前半は一緒に自由研究してましたけど、最近は会ってないです」
僕の答えに秀彦のお母さんは大きなため息を吐く。
「どこか行ってそうな心当たりとかもないかしら?」
「……ちょっと分からないです、すみません。秀彦君のスマホには掛けました?」
「スマホには何度も掛けているんだけど、出ないの。電源が入っていないみたい。……夜分にごめんなさいね。あまりにも遅いからクラスの子全員に掛けてみようかしら」
「武田君の家には掛けてみましたか?」
「まだ、これから……。ありがとう。他の子にも電話してみるわ」
秀彦のお母さんはそう言って、電話を切った。
隣でずっと母さんが電話の内容を聞いていたようだ。
「服部君、まだ家に帰ってないんですって?瞬、心当たりはないの?」
母さんは、今、秀彦のお母さんに聞かれたことと同じことを聞く。隣で僕の電話の内容を聞いていたはずなのに。
「最近、会ってなかったし分からないよ」
「また、隠れて危ないことしてるんじゃないの?」
「あれ以来、月野沼には行ってないよ」
母さんは疑いの目を崩さず、ふんっと鼻を鳴らす。
「じゃあ、服部くんの親御さんは、服部くんがまだ家に帰らないの心配ね」
「……だろうね」
カっちゃんならこのぐらいに平気な顔で帰ることもあるかも知れないが、秀彦に関してはそんなことはない。それに、秀彦は出掛けるときは、いつもスマホを持っている。スマホの電源が入っていないなんて今までなかったことだ。
あぁ、失敗した。秀彦が家に帰ってきたら電話をしてもらうように言えばよかった。僕までずっと心配になってしまう。
結局、その日の夜は、なんだか心配でなかなか寝付けなかった。
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