第15話 8月7日
今日も僕は図書館に来ていた。
外は相変わらず快晴で肌を焼くような強烈な日差しが照っていたが、図書館の中は冷房が効いていて快適そのものだった。
昨日、普段よりは遅くなったが図書館へ来ると、遠山あかりはちょっと怒っていた。今日は来ないのかと思ったらしい。
しかし、謝って遅くなった理由をちゃんと話すと許してくれた。それどころか、警察署に呼ばれて感謝状を貰ったと話したら、自分のことのように喜んでくれた。
そして、詳しく話すことになった。
実は月野沼で白骨死体を見つけたのは自分たちなのだと。自由研究で数年前に月野市で発生した連続殺人事件を調べていくうちに、カッちゃんが犯人の
遠山あかりはそれを目を輝かせて聞いていた。まるで、推理小説の世界に入り込んだようだと感想をいい、自分が参加できないことにちょっと不満気だった。でも、危険もあるので遠山あかりを参加させることはできない。それに、昨日の夜は両親にこっぴどくしかられ、もう月野沼へ近付かないことを堅く約束させられたのだ。
今朝は遠山あかりに会うなり、一緒に行こうと大人のゾーンへと連れてこられた。
大人の方には新聞も置いてあるのだ。新聞で僕らの記事を確認しようということらしい。子どもコーナーにバッグを置いて席を確保して、僕らは大人の方にやってきた。
大人ゾーンは子どもコーナーよりも格段に広い。しかし、遠山あかりは迷うことなく新聞が置いてあるところまでやってくると、早速一紙を手に取り、開く。
近くにいたおじさんが子どもが新聞に何の用があるのだと言わんばかりの怪訝な顔を向けてくるが、遠山あかりは気にした様子もなかった。次々にページをめくって、僕らの記事を探していく。
記事が見つからなかったのか、別の新聞と手にしていた新聞を交換し、再び記事を探していく。
同じことを繰り返し、三紙目で僕らの記事を見つけた。
記事は大きくはなかったが、『お手柄小学生』という見出しで、ちゃんと写真も載っていた。まあ、ほどんど顔は分からないぐらいの写真だったが。しかし、記事にはしっかりと僕らの名前が書かれていた。
「本当に載ってるよ!すごいね!」
遠山あかりは目を輝かせて、満面の笑みを浮かべていた。僕はちょっと気恥ずかしい気持ちと誇らしい気持ちで、背中がムズムズするような変な感覚だった。
しばらく記事を眺めると、遠山あかりは新聞を持って歩き出した。そして、僕の方を振り返り手招きする。
「どこ行くの?」
「記念だから」
僕の質問に遠山あかりは、答えになっていない答えを言って、再び歩き出す。
やってきたのは、コピーコーナーだった。十円を払えば、使えるコピー機が置かれている。
遠山あかりは新聞の僕らの記事の部分をコピー機にセットすると、二十円をコイン投入口に入れる。そして、自分の分と僕の分をコピーしてくれた。
「悪いから、僕が払うよ」
「ううん、記念なんだから私に出させてよ」
「……ありがとう」
僕は遠山あかりの気持ちにありがたく従うことにした。
僕らはコピーコーナーから、新聞が置いてあったラックを経由して新聞を戻しながら子どもコーナーに戻った。
「推理小説の登場人物って言うか、この街のヒーローになっちゃったね。でも、もうあんまり危ないことしないでね」
遠山あかりはそう言って笑顔を作る。
「もう危ないことはしないから、大丈夫だよ。うちの両親にもこっぴどく叱られたからね」
僕はそう言って肩をすくめた。
その後も、僕らはいつものように図書館が閉まるまで図書館で過ごした。
その夜、久しぶりにカッちゃんから電話が掛かってきた。
「瞬、雑貨屋さんの子から電話よ」
急になんだろうと思いながら、僕は母さんから受話器を受け取った。
「もしもし、カッちゃん。どうしたの?」
「おう、瞬。自由研究のことなんだけどさ」
何かまた調べようというのだろうか?まさか、また長岡直人に手紙を送って返事が来たとか?
「……うん」
「結構いい感じに進んだじゃん。今、パソコンで秀彦にまとめてもらってるんだ。紙一枚に収まるような感じでさ」
「そうなんだ。それで発表用に模造紙に清書をするのを手伝えって?」
「いや、俺が秀彦から受け取って一人で清書するから大丈夫」
思いもしない答えが返ってきた。まさか、あのカッちゃんが自分でやるなんて言い出すとは。
「じゃ、僕は何もしなくていいの?なんか、申し訳ないけど……」
「いいから、いいから。気にすんなよ」
「分かった。じゃあ、もし協力して欲しいことができたら、連絡してよ」
「おう、そのときは頼むわ。じゃあな」
そうして、一方的に電話は切れた。
クラスの発表ように模造紙に清書するのは一人では結構大変なのはやる前から分かる。それを一体、どういう風の吹き回しだろう。あのめんどくさいことが大嫌いなカッちゃんが自分一人で清書をするって。明日にでも日本が沈没しかねない。
僕はいったん受話器を置くと、またすぐに受話器を取った。秀彦のスマホに電話する。
数回コールすると、秀彦が電話口に出た。
「もしもし、秀彦」
「瞬、どうしたの?」
「いや、今カッちゃんから電話があったんだけど、自由研究をまとめてるんだって?」
「あぁ、カッちゃんに言われてやってるよ」
「何か手伝えることはある?」
「……うーん、パソコンでやってるから一人で大丈夫だよ」
秀彦も一人でやってくれるらしい。だが、僕が本当に聞きたいことはそれじゃない。
「クラスでの発表用に模造紙に清書するじゃん?あれ、カッちゃん一人でやるって言ってたんだけど……」
「そうなの?僕のところにはまとめて、終わったらカッちゃんに渡すように言われただけだからさ」
「あのめんどくさがりのカッちゃんが自分一人で清書するって言い出すなんてさ。……雪でも降るんじゃない?」
「アハハ。でも、珍しいね」
「だから、不安なんだよね」
正直、それ以外にも清書されたものがちゃんと読めるような字になっているのかという不安もあるが。
「それじゃ、僕のまとめるのをなるべく早く終わらせて、カッちゃんに渡しとくよ。それで、八月三十日に終わってるか確かめよう。もし、全く終わってなくても夏休み最終日の前日なら、二日もあれば清書は終わるでしょ?」
「じゃあ、そうしてくれるかな。僕もそれまでに他の夏休みの宿題は終わらせておくからさ」
「了解。じゃあ、八月三十日には連絡するから」
「分かった。じゃあ、悪いけどよろしくね」
秀彦との電話が終わると、受話器を置いた。
それにしても、カッちゃんは一体どういう風の吹き回しなのか。僕は嫌な予感がしてならなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます