第13話 8月5日

 今朝も昨日と同じぐらいに起きた。理由はもちろん、遠山あかりと図書館にいるためだ。

 リビングに降りると、今朝も母さんはニュースを眺めながら、朝食を取っていた。

「瞬、夏休みの方が朝起きれてるんじゃないの?学校の時も毎朝ちゃんと起きてくれるといいんだけどなぁ」

 朝から機嫌が良くないのか、今朝は顔を合わせるなり小言が始まった。

 僕は母さんの小言には耳をかさないことにして、だまって朝食を食べ始めた。朝から父さんと喧嘩でもしたのだろうか。単純に虫の居所が悪い?とにかく理由は何でもいい。僕に関係があろうがなかろうが、触らぬ神に祟りなしって奴だ。こういうときは、反論も何もしない方がいい。僕は経験でそう把握していた。

 しばらくニュースを見てると、月野沼の白骨死体のニュースが始まった。しかし、まだ身元は判明しないらしい。特に捜査に進展はないようで、あっという間に別のニュースになってしまった。

 僕はさっさと朝食を胃袋に押し込むと、家を出た。

 今日も外は皮膚を焼くように暑かった。空気を吸い込むと肺の中までが焼けるような感じがした。

 遠くの景色がゆらゆらと揺れた。蜃気楼だろう。しかし、僕には地面が溶けて蒸気になっているかのように感じられてた。

 僕は自転車に飛び乗ると、図書館へ向かった。早く図書館へ避難しないと自転車や僕まで溶けてしまいそうだ。

 この数日、カッちゃんや秀彦は何をやっているのだろうか。そんなことを考えているうちに図書館に到着した。

 僕は自転車を駐輪場へと滑り込ませると、バッグを抱えて図書館の中へと入る。

 一歩、図書館に足を踏み入れるだけでもう冷気が僕を迎えてくれた。

 このまま年々暑くなっていったら、昼間は外に出られないような未来が来てしまうのだろうか。そうなったら、夏休みどころじゃないな。

 Tシャツをパタパタと仰ぎながら、僕は子どもエリアへと向かった。

 今日も遠山あかりはもう本を読んでいた。僕にはそこだけが輝いているように見えた。まるでスポットライトが当てられているかのように。

「おはよう」

「おはよう、日下くさか君」

 小声で挨拶すると、遠山あかりは同じように小声で返してくれた。そして、向かいに置いてある自分のバッグを僕のために退かしてくれる。

「ありがとう」

 同じように小声でお礼を言って、バッグから本を取り出す。僕が読書感想文を書いた本だ。

 遠山あかりに渡すと、彼女は自分のバッグから読書感想文用の原稿用紙を取り出した。本当に僕と一緒の本を読書感想文の本としてくれるようだ。

 僕は、もう一冊バッグから本を取り出すと、読み始めた。こっちの本も遠山あかりが勧めてくれただけあって面白かった。

 しばらく本を読んで、本を読むのに疲れてしまったら、ドリルを進めた。図書館は静かで涼しいので、よく集中することができた。……分からない部分は、遠山あかりに質問することもできた。おかげで、ドリルもかなり進めることができた。

 昼食は、いつものようにコンビニで買い、外のテーブル席で済ませた。

 午後も同じように本を読んだり、ドリルを進めたりして過ごした。

 遠山あかりも読書感想文を書き終え、また本を読んでいた。

 そうして、僕らは今日も図書館で一日を過ごしたのだった。

 もちろん、帰りは遠山あかりを家まで送っていった。この数日で僕らはどんどん仲良くなっていった。

 カッちゃんたちには悪いが、毎日こうして図書館で遠山あかりと過ごせればいいのに。僕は心の底からそう思っていたのだが、それは脆くも崩れ去ることになった。

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