第85話 幸せは歩いてこない。だから歩いていくんだ

「傷物って……

 カイは、カイだぞ」


「ありがとう」


 カイは、寂しそうに微笑んだ。


「……俺に何かできることある?」


「え?」


 俺は、ふと思った。

 カイのためにできること。

 でも、でも考えてもなにも浮かばない。

 こういうときいつもなら亜金君に相談するのだが……

 亜金君は、今はアンゲロスにいる。

 そして、その前に亜金君も恋愛経験は少なさそうだ。

 相談しても答えはないだろう。

 残る男といえばかみさまか軍鶏爺かバルドさん。

 恋愛相談をする相手じゃない。


「押し倒せばいい」


 と言われて終わるだけだと思う。

 あとマスターに至っては答えなんか教ええてくれそうにない。

 ヒント的なものは出してくれるだろうけど。

 そのヒントがヒントだと俺にはわからない。

 残すところは、女性陣か……

 答えなんて教えてくれないだろう。

 なら、直接本人に聞いてみるのがいいかもしれない。


「何かできることがあったら言ってくれ」


 俺が、そう尋ねるとカイは困った顔をしていた。


「なら、私に幸せを教えてくれ」


「幸せ?」


「私には、よくわからないんだ。

 幸せってなにか……」


「それは、俺にもわからん」


「昴は幸せじゃないのか?」


「幸せって教えてもらうもんじゃないと思う。

 なんていうんだろう。

 感じるもの?」


「……そうか。

 じゃ、質問を変える。

 昴はソラといて幸せだったか?」


「そうだな」


「そうか。

 ならいい……

 私も幸せにしてくれ」


「うーん。

 カイの幸せがわからない」


「そうか。

 困ったな。俺にもわからない」


「……なら私にはもっとわからない」


「……うん。

 皆、そんなもんだよ」


「そうか……」


「ま、気楽にこう。

 幸せは歩いてこない。

 だから歩いて行くんだ」


「なんだそれは?」


「俺の世界にあった歌の一部かな」


「歌か……

 でも、その歌詞を私は知っているかもしれない。

 聞いたことがある気がする……」


「そっか」


 有名なのかな?

 と言うか異世界から来た人がいるのだから知っていてもおかしくないよな。

 俺はそんなことを思った。

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