Scene.08 涙の数だけでは強くなれない虚しさ

第82話 普通の女の子とはなんだ?

 俺はゆっくりと目を開ける。

 どうやら、俺はそのまま眠ってしまっていたようだ。

 カイの姿は、ベッドにはいない。


「……カイ?」


 俺は、カイの名前を呼んだ。


「……どうした?」


 カイが、ゆっくりと現れる。

 服を着ていた。

 ただの服じゃないメイド服だ。


「その格好どうしたの?」


「メイド服だ。

 男はこの服に弱いと聞いたぞ?

 昴はこの服は嫌いか?」


「えっと……」


 嫌いではない。

 けど、好きというわけでもない。

 正直わからない。

 コスプレ系の趣味はない。


「そうか……

 ご主人様、こういうのはお嫌いですか?」


 カイが、口調を変えて言葉を放つ。


「えーっと」


「ダメか……

 では、今度は女子高生のコスプレに挑戦してみよう」


 カイは、そう言って服を脱ごうとする。


「ちょいまった。

 ここで着替えるのか?」


 カイは、少し考える。


「わかった。

 廊下で着替えよう」


 カイが、そう言って廊下に出ようとするので俺はそれを止めた。


「それもダメだ。

 着替えなくていい。

 そのままのカイでいいから」


 するとまたカイは考える。


「裸になればいいのか?」


 カイは、そう言って服を脱ごうとする。


「いや、脱がなくてもいい」


「なら、どうすれば昴は笑うのだ?

 ソラの前では笑っていたのだろう?」


「そうだが……

 無理はしなくていいぞ?」


「無理はしていない。

 ただ私も昴の笑顔が見てみたい」


「普通にしてくれればいいから。

 普通の女の子でいいから……」


「私にはその普通がわからない。

 普通の女の子とは何だんだ?

 誰も教えてくれない」


「それは、俺にもわからん。

 でも、背伸びしなくてもいいし屈まなくてもいい。

 カイが、やりたいと思ったことをやるんだ」


「やりたいこと……

 私には、やりたいことがない。

 やりたいことがわからない」


 カイが、静かにうつむいた。

 わからない。

 こんな時、どうすればいいんだ?

 今にも泣きそうな女の子に俺は何が出来る?

 俺は、昨日カイが取った行動を思い出した。

 ダメかもしれないけど。

 俺は静かにカイを抱きしめた。


「泣くな。カイ。

 お前は、強い子だろう?」


 カイは、静かに頷いた。


「泣いてなどない」


「涙が流れているぞ?」


「気のせいだ」


 カイは、そう言って俺の胸に顔をうずめた。

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