第81話 りっちゃんと俺の不思議な関係

 今思えばりっちゃんと俺は、不思議な関係だった。

 一言も話さず。

 朝から夕方までぼーっとしていたときもあった。

 くーちゃんには、浮気とか言われていたけれど……

 俺たちは、そういう関係ではなかった。

 そういう関係にはなれなかった。

 りっちゃんは、小学生のころ。

 義理の父親に処女を奪われ……

 それからずっと性的暴行を受けていた。

 そして、性的なものから肉体への直接攻撃へと変わったとき。

 りっちゃんは死を覚悟したらしい。

 でも、殺されなかった。

 生かさず殺さず。

 それが、その義父のやり方だった。

 性的な欲求と暴力的な欲求。

 そのどちらも満たしていた。

 りっちゃんが、20歳の誕生日を迎えたころ。

 りっちゃんが通っていた大学の関係者からの通報でりっちゃんは、保護された。

 そして、それと同時にその義父が逮捕された。

 だけど、もうほとんど手遅れの状態に近かったらしい。

 りっちゃんの心は、すでに壊れていた。

 そんなりっちゃんが、唯一心を許した存在。

 それが、くーちゃんだった。

 くーちゃんは、俺に接した時と同じようにりっちゃんにも積極的に交流を交わし……

 そして、仲良くなった。

 仲良くなったふたりは、そのまま俺とも交流を交わすようになり……

 そして、俺も仲良くさせてもらった。

 りっちゃんは、男の人に酷く怯えるようになっていた。

 でも、俺にはその怯えは見せなかった。

 俺が特別な存在だったのか……

 それとも男として見てもらえなかったのかはわからない。

 あぁ、そう言えばりっちゃんとも約束したんだっけな。

 くーちゃんが、亡くなった夜。

 俺は、りっちゃんに質問されたんだ。


「昴君まで、どこにもいかないよね?」


 それは、死を意味していた。

 俺にも近うちに死がやってくることはわかっていた。

 だけど、こう返さずにはいられなかった。


「いかないぞ。

 少なくても暫くはな……」


「約束だよ」


「ああ……」


 俺は、小さくうなずいた。

 そして、俺たちはゆびきりをした。

 りっちゃんごめんな……

 約束護れなかった。

 俺は、またさよならの言葉も残せなかったんだね。



「昴、泣いているのか?」


 カイが、首を傾げている。


「え?」


 俺は、頬に指を当てる。

 するとそこに涙で濡れていた。


「じゃ、こうだ……」


 カイは、そう言って俺の体を抱きしめる。


「え?」


 突然のカイの行動に俺は、驚く。


「私も泣いているとき、ソラによくこうしてもらった」


「そうか……」


 俺は、泣いているのか……

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