第72話 盟約のもとに私が、お前を護る。

 俺は、ふと不思議なことを思った。


「それだと同性のペットとは主従関係を結べないんでは?」


 それを聞いたマスターが、静かに笑う。


「いいところに気づきましたね。

 実は、体液交換と言っても別に体液を一方的に注いだりするのでもいいんですよ。

 同性同士で主従関係を結ぶ場合、主の血をペットに少量飲ますというものがメジャーですね。

 まぁ、ペットの血を飲む人もいますが……」


 血を飲ますか……


「それってどれくらい飲ませばいいのだ?」


「一滴で十分ですよ。

 針でプチッと一滴、カイさんの口の中に注げば主従関係成立です」


「わかった。

 昴。指を出せ。

 私がナイフで刺してやろう」


 カイが、サラッと恐ろしいことを言った。


「いや、ナイフは少し怖いぞ」


 俺が、そう言うとマスターがさらに恐ろしいことを言った。


「でも、それにはひとつ問題があります。

 カイさんの力では、どんなに頑張っても傷ひとつつけられないでしょう」


「え?」


 俺は、一つ大事なことを忘れていた。


「だって昴さんは、最強の壁ですからね」


「壁?」


 俺は、聞きなれない言葉に耳を疑う。


「はい。

 昴さんの二つ名ですよ。

 盾をさらに上回る壁です。

 最近の昴さんの活躍によりこの二つ名がついているそうです」


「え?盾のほうがかっこよくないか?

 俺、盾のほうがいい……」


 俺が、そう言うとかみさまがため息をつく。


「話がそれているぞ。

 お前はどうやって、カイと主従関係を結ぶのだ?

 キスか?それとも性交か?」


「何か他に方法はないのか?」


 俺が、そう言うとカイが複雑そうな顔をしている。


「昴は、私とキスやセックスをするのがイヤか?

 私は、そんなに魅力がないのか?」


「いや、そういうことじゃない」


 俺がそう言うとカイが、泣きそうな顔になる。


「私がソラじゃないからか?」


「ソラともそういう関係じゃなかったぞ」


「そう……なのか……?」


「うん」


「と言うか童貞臭がするとか言ってなかったか?」


「本当の童貞とは思っていなかった……

 てっきり、ソラを強姦とかしているかと思っていた」


「そんなことをする度胸はソイツにはない」


 かみさまが、そう言って鼻で笑う。


「わかった。

 盟約のもとに私は、お前を護ろう」


 カイが、そう言って俺の唇にキスをした。


「……ん?」


 なんだ……。

 この感覚。

 気持ちいいというか暖かいというか。

 カイの何かが体に入ってくる。

 カイが、そっと俺の顔から離れる。


「契約完了のようですね」


 マスターが、そう言って静かに笑う。

「はじめてのキスの感想は?」

 万桜さんが、俺の方を見て笑う。


「暖かいナメクジが舌に入ってきた感じ?」


「ナメクジ……」


 カイが、うつむく。


「それは、ひどい表現だな」


 かみさまは、そう言って言葉を失う。


「最低ね……」


 万桜さんも驚いている。


「私のキスはナメクジ……」


 カイは、酷く落ち込んでいる。


「あ……ごめん。

 なんか、ごめん」


「いや、お前は悪くない。

 私がもっと上手いキスができるようになる。

 ただそれだけだ」


 カイは、何か燃え出した。

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