第58話 それでもかっこよく極めたいことが男にはある。

「……そうだったんですね」


 ソラが、悲しい表情で俺の方を見ている。


「まぁ、男も長く生きれば色いろあるさ……」


「そうですね。

 はぁ、私もそっちの世界に産まれたかったです」


「どうしてだ?」


「私が、ご主人様のお友達になりたいです」


「え?」


「って、ダメですよね。

 平和な世界ならご主人様の恋人になりたいとか少し思っちゃいました」


 ソラがそう言って照れ笑いを浮かべる。


「そうだな……

 健康な体であの世界なのならソラと結婚して幸せになるのも悪くないな」


「そうですね」


 ソラが元気ない。


「どうした?」


「じゃぁ、産まれ変わったら私と付き合ってくれますか?」


 ソラの目が涙で潤む。


「ああ。

 むしろこっちからお願いしたいくらいだ」


 俺は、小さく笑ってみた。

 かっこよくないことなど百も承知だ。

 でも、それでもかっこよく極めたいことが男にはあるんだ。

 それを見た、ソラが笑う。


「よろしくおねがいしますよ?

 街ですれ違っても知らないふりとかなしですよ?」


「ああ」


「手も繋いでくださいよ?」


「ああ」


「たまには腕を組ませてくださいね」


「ああ」


「それから、それから……」


「どうしたんだ?ソラ?

 そんなに慌てて」


「だって、私はもう……」


 ソラの言葉の末尾がかすれて聞こえづらかった。


「うん?」


「いえ、なんでもありません」


「そうか……」


 でも、本当はわかっていた。

 何が聞こえたかわかっていた。

 でも、聞こえなかったフリをした。

 認めたくないから信じたくないから……

 その言葉が、儚く切なく心に残る。


「だって、私の命はもうすぐ消えてしまうから」

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