第57話 時間は心の傷を癒やさない 後編

 くーちゃんは、白血病で亡くなったんじゃない。

 俺たちの仮退院日に通り魔に刺されて亡くなった。

 俺たちの産まれて初めてのデートになるはずだった。

 病院内のパソコンで検索して一緒にデートプランを考えた。

 楽しいデートになると思った。

 だけど、目の前で刺された。

 何も出来なかった。

 救急車を呼んでそのまま泣き崩れた。

 くーちゃんは、何度も「ごめんなさい」と謝り続けた。

 なにひとつ悪いことなんてないのに……

 くーちゃんは、涙を流していた。

 くーちゃんの温もりがゆっくりと消えていくのを感じた。

 救急車が来るまでの間に、くーちゃんは息を引き取った。

 享年24歳。

 俺は、生きた心地などなかった。

 何もする気になれなかった。

 仕事も長くは続かなかった。

 契約切れになったり仕事が怖くなって逃げて……

 そんなことの繰り返し。

 気づけば俺は、生活保護を受けているだけのニートになっていた。

 落ちた場所から這い上がれない。

 そんな人生だ……

 なぁ。神様。

 俺何かしたかな?

 誰だろう?

 時間が心の傷を癒やすと言ったのは……

 時間が経てば確かにくーちゃんとの思い出が薄らいでいく。

 でも、それと同時にこのままではくーちゃんのことを忘れてしまうのではないかと言う恐怖。

 時間は心の傷を癒やさない。

 心の傷は消えない。

 ずっと残ってしまうんだ。

 そして、気づけば俺は26歳になっていた。

 全てのことがどうでもいい。

 全てのことに興味がない。

 なんだろう?何が悪かったのだろう?

 俺にはわからない。

 あの時どうすればくーちゃんを助けることが出来た?

 暑いとある夏の日。

 積まれた藁の山から藁を1本だけ拝借してこう思った。

 そういえば、わらしべ長者ってこれ1本でお金持ちになれたんだっけ?

 すると黒いマントを着けている男が目の前に立っていた。

 俺は、その時直感的にこう思った。

 魔王?のコスプレ?暑くないのかな?

 すると魔王はこう言った。


「その藁で我を倒すのか?」


「違うと答えたら?」


 俺は、そう言って首を横に振った。


「そうか……

 まぁいい愚かな勇者よ。

 ここで死ね!」


 俺は、ニートだー

 そう叫びたかった。


「む、チカラがでんぞ!

 どう言うことだ?」


 これは、わらしべ長者への一歩なのか?

 俺は本気でそう思っていた。

 俺は、魔王の前でまるで猫じゃらしで遊ぶかのように俺は藁を振り回した。

 魔王は、俺の首を掴んだ。

 俺を物凄い表情で睨んでいる。


「小僧、貴様はアルナイダ行きだ!

 お前があそこでどんな顔をするか楽しみだ!」


 魔王は俺の体を掴むとそのまま空に放り投げた。

 そして気づいたとき俺は、この世界にきていた。

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