第44話 某アイドルの歌詞をパクったけどかっこよくはなれなかった。

「まぁ、というわけで今日はお前ら疲れただろうから休め」


 バルドさんが、小さく笑う。


「そうですね。

 昴さんと亜金さんは、今は休むべきです。

 あとソラさんもね……」


 ミズキさんが、そう言ってソラの方を見る。

 そして、ハンカチでソラの顔を拭く。


「え?」


「女の子が、綺麗を怠るのは犯罪だぞ?」


 ミズキさんが、ソラの鼻をチョンと突く。


「あ……」


 ソラの目からほんの少し涙が出た。


「ソラ?どうしたんだ?

 なぜ泣いているんだ?」


 俺がそう尋ねるとソラは、大量の涙を流した。


「大丈夫です。

 大丈夫なんです。

 私は、少しうれしくて……」


「悪いがな、ソラ。

 お前のことは調べさせてもらったぞ?」


 バルドさんの言葉にソラは固まる。


「そうですよね……私なんかが――」


 ソラが、そこまで言いかけた時バルドさんが言葉を続けた。


「ここは、お前が思っているような場所じゃない」


「はい」


 ソラがうなずく。


「テオスでは、酷い目にあっていたようだな?」


「え?」


「ここでは、お前はひとりの人間であり俺たちの家族だ。

 そして、喫茶店の看板娘だ」


「話が全く見えないんだけど……?」


 俺の問いにミズキさんが笑う。


「昴君には、まだ早い話ですよ。

 目の前で女の子が泣いているんです。

 こういう時、男は抱きしめてあげるものですよ」


 ミズキさんがそう言って俺の背中を押す。


「……はい」


 よくわからないけれど俺はソラを抱きしめた。


「ご主人様、私を捨てたりしませんか?」


「よくわからないけど、捨てたりはしないよ」


「ありがとうございます」


 ソラは、そう言って俺の胸に顔をうずめた。


「とりあえず、3人は部屋で安め!

 暫くはヤツらは来ないだろう」


 バルドさんがそう言うとミズキさんがため息をつく。


「その根拠はなんですか?」


「俺の勘だ」


「はぁ、兵長の勘は当たりますからね……

 信じます」


 ミズキさんが、そう言うと再びため息をついた。

 そして、俺とソラは自分の部屋に向かった。

 手を繋いで一緒にベッドに潜った。

 なんだろう。

 最初は、ソラに対してセックスしたいとかそんな気持ちでいっぱいだけど今は違う。

 なんだろう。

 性欲とは違った感情がある。

 この気持はなんだろう?


「ソラはさ……

 俺にとって薬箱だから……」


「え?」


「なんでもないよ」


 俺は、少しだけ某人気アイドルの歌の歌詞をパクってみたけれどかっこ良くはなれなかった。

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