第32話 愛だけでは世界は救えない。

「姉ちゃん泣いているのか?」


 元太君が、心配そうにソラの顔を覗く。


「なんでもないですよ。

 お肉が熱かったからだよ」


 ソラがそう言って涙を拭う。


「なら、野菜食え野菜!」


 元太君が、野菜を山盛りソラの皿に乗せた。


「コラ!元太君!その野菜、元太くんの分でしょ!

 全部自分で食べなさい!」


 万桜さんが、元太君にそう言うと元太君が笑う。


「ふふふふふ……

 俺は、肉食獣だ!

 肉・食・獣!肉食獣!」


「言い訳はいいから、さっさと食べる!」


「昴先生」


 元太君が、俺の名前を呼ぶ。


「なんだ?」


「万桜先生の今日のパンツは……

 ピンク色にリボンだぜ?」


「へ?」


 元太君の突然の言葉に俺は驚く。


「へへん。さっき風でめくれた時に見たんだー」


 元太君が楽しそうに笑う。

 マジでか……?

 26年と16年生きた俺でさえ生の下着を見たことがないのに……


「元太君。

 貴方、私を怒らせたわね?」


 万桜さんの目が赤く光っている。

 ただでさえ赤い目がさらに光る。


「万桜先生のスピードで、俺に追いつけれるのかよ!」


 元太君が走る。

 万桜さんも走る。

 万桜さんの目は赤く……

 そして、顔も赤かった。






 そして、楽しいひとときが終わり俺とソラは部屋に戻った。

 部屋に戻るとソラが、楽しそうに笑う。


「ご主人様。

 今日は、ありがとうございました」


 ソラが、深々く頭を下げる。


「うん?

 何が?」


「バーベキュー楽しかったです」


 ソラが満面な笑みを浮かべる。


「いやいや、こちらこそ楽しかったぞ。

 ありがとう」


 俺も深々く頭を下げてみた。

 するとさらにソラも頭を下げる。

 なんかおもしろい。

 もっと頭を下げたらどうなるのか……

 そう思って頭を下げると俺は、そのまま前に倒れる。


「ご、ご主人様?

 大丈夫ですか?」


「痛い……」


 俺は、頭を押さえながら体制を整えその場で座る。


「痛いのですか?」


「ああ……」


「だったらおまじないですね」


「おまじない?」


 まさか、思春期の女の子しかしないであろうあれか……?

 痛いの痛いの飛んでけーみたいな……

 26年生きた16歳にとっては少し恥ずかしいぞ……?

 するとソラは、言葉を放つ。


「痛いの痛いの飛んでいってもーどーれー!」


「え?戻るの?」


 突然の言葉に俺は驚く。


「あれ?飛んでいきませんでしたか?」


「いや、あまりの言葉に痛みを忘れたよ」


「よかったです」


 ソラが、ニッコリと笑う。

 俺も思わず笑ってしまった。

 俺の前世では、愛は世界を救うというセリフがあった。

 俺はこれを見るたびに、愛だけでは世界を救えないと思っていた。

 だが、これに笑いと笑顔が加われば世界は平和になるのかもしれない。

 そう思った。

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