第2話
_______ なんとか天野から逃れ、謎の少女から逃げたはいいもの…その、なんだ、何故誰一人として動いていないんだ…。
まさか、町中の皆んなが俺にドッキリを仕掛けているのか?大規模だな。いやいや…はは、俺まで頭が可笑しくなっちまったのか。
ぐるっと辺りを見回しても誰一人と動かない。犬の散歩中の青年にその犬、買い物帰りの婦人、ジャージを着たランニング中のおじさん、アイスクリームを落として泣いている少女と母親。学校帰りの生徒数名。誰も動かない。何故だ。こうなると皆生きているのかどうか危うい。
「おーい、生きてますかー?」
肩をポンポンと叩いても、目の前で渾身の変顔を見せても動じない、可笑しい。
やはり天野の言っていたことは本当だったのか。いや、待てよ、確か天野は〝私と貴方〟つまり、俺と天野だけ動ける。そう言っていた筈、では何故あの謎の茶髪少女は動いていた?考えすぎか?
「あーれー、やっぱり動いてるじゃーん。」
「げっ。」
今まで誰も居なかった目の前に忽然としてあの茶髪少女が現れた。小柄な身体にアイドルの様な顔立ちをし、黒いリボンでフワフワな茶髪をまとめている。制服からして同じ学校だ、同級生か年下だろうか。それにしても一体何処から現れたのか。俺の周りに茶髪少女なんて居なかった、それにいくら早いスピードで走ってきたとしても周りが静かなだけあって流石に気がつくだろう。
「ねぇ、不思議に思わない?」
茶髪少女は微笑むと、くるりと一回転しながら聞いてきた。
「なにがだ…。」
「あは、なにがって、見て分からないの?」
随分と上から聞いてくる。んー?と首を傾げながらクスクスと笑ってこの状況をいかにも楽しそうにしている様に見える。
「止まっていることか。」
「そう!だいせか〜い。」
「もう用は済んだか。」
俺は馬鹿馬鹿しく思い、背を向け帰ろうとした。
「なーに逃げようとしてんの。」
可愛さが一切なくなった鬼のような表情で淡々と話しかけた。小柄な見た目とは打って変わって、引きちぎれる程に腕を掴まれ先に進む事が出来ない。ギジギジと爪で肌を削る様な音が鳴る。
「わ、分かった、逃げないから…腕を離してくれ。」
「よし、いーでしょう。」
笑顔ですっと手を離した。これ以上掴まれていたら恐らく俺の腕は怪我どころじゃ済まないところだった。ほっ、と溜息を吐いた。
「では、改めて質問でーす。」
はいはい。またか、もう逃げるという選択肢は選びたく無い。二度とあんな痛みを味わいたく無い。となれば質問に答えるしか無い。質問が終わるまで…。
「この時を解除…いわゆる元に戻す?まあ、動かすにはどうしたらいーでしょうか。」
「そんなの知らねーよ。」
知っていたら逆に自分が怖い。そもそも何故止まってしまったのかすら知らない俺が分かるわけがない。
「ヒント、15、がヒント!」
茶髪少女が指で15の数字を表してきた。これがヒント?15…15?よく分からない。残念ながら頭もそれほど良くなくてな。
「分からない。正解を教えてくれ。」
「えー、じゃあ、特別に教えてあげようではないか、15分、それが時を止められる最高時間なの、今、時が止まってから約13分、あともう少しで元に戻るんだよ。」
なるほど…いや、なるほどじゃない!なにがなんなんだ!全く理解が出来ない、なにファンタジーな事を言っているんだ、魔法使いじゃあるまいし。
「え、えっとー、その、よく分からないんだが。」
「だーかーらー、あたし達アビリティ
焦れったく髪を
「じゃあなんで俺は…」
動いているんだ。そう最後まで発する前に止まっていた周りの人々が動き始めた。ワンワン吠える犬に引っ張られている、買い物袋から林檎が転げ、ランニングで息を吐きながら俺の横を駆け抜る、少女の鳴き声が耳に入った、母親の慰めなど微か否か、甘酸っぱい青春も聞こえてくる。
「え………」
俺はただ素直に戸惑った、動いている、さっきまで止まっていた人々が。
「な、なんなんだこれは…」
自然と思った事が口から溢れる。
「お、おい!茶髪少女!」
「茶髪少女だなんて失礼な、小坂高校二年三組
ニコッと笑いさっきより大きな声で俺に言った。人々が動き出したのもあって若干聞き取りにくかったが、多分聞き間違えたことはない。年上…見た目からして同い年、又は年下かと思い込んでいた。名を告げた栄華先輩は人混みに紛れ直ぐに姿を消した。
本当になんだったんだ。天野といい、栄華先輩といい、今日は面倒ごとに沢山巻き込まれた気がする。まだ理解がつかない事が沢山ある。ありすぎて困る。俺の人生爆発するぞ。まぁ、家に帰ってから考えよう。疲れたんだ。
帰ろう、今度こそ。
無才のアビリティ @tsaskn
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