無才のアビリティ
@tsaskn
第1話
あぁ、神様、どうして俺には何も無い何も無いのでしょうか。
「んじゃ、俺部活行くわー、じゃあな。」
「おー、頑張れよ。」
さて、帰るか。
俺、
幼い時から特技も何にも無い俺に部活なんてごめんだ。特に勉強が出来るわけでも無く、ピアノすら弾けない。友人の部活の姿を眺めるだけで十分だ、頑張ってくれ。
そんなこんなで今日もすることが無い、友人は皆部活だの習い事だの、良い身分だ。さて、帰るか。(二度目)俺は椅子から立ち上がり机にぶら下がった鞄を取った。窓の外の青春を謳歌している奴らを横目に見ながら教室を出ようとした。
「新谷くん、少しいいかしら。」
帰ろうとした俺に声をかけてきたのはクラスメイトの
「ああ、どうした?」
「お話ししたい事があるの、ここじゃあれだし、移動していいかしら。」
天野は俺に近づき、髪をかきあげながらそう囁くと教室を出て行った。
「わ、わかった。」
これはまさか告白というやつか?いや、まさか、だって話したことも無い奴にいきなり告白するか?冷静に考えれば、そうだな、告白ではないな。…しかし期待ぐらいさせてくれ。
俺も天野の後を追いかけて教室を出た。
お互いに無言で廊下を歩く。天野とは一度も話した事がない。近くで見たのも初めてかもしれない。教室では本を読んでいる姿しか見たことが無い。綺麗な黒髪が目の前で揺れる。だんだんと人けが無くなっていく。広い校舎なだけあって知らない場所が沢山ある。4ヶ月たっても未だに校舎内で迷子になり兼ねない。天野は完全に人けのない教室の前に着くと、ゆっくりと扉を開け、中に入ると天野はこちらを向いた。
そして、ゆっくり口を開いた。
「天野 光希くん、貴方、無才でしょう?」
俺の目をじっと見つめて聞いてきた。
「は、はい?」
いきなり言われた事が理解できない。ムサイってなんだ。俺は目を逸らしながら戸惑いを隠した。すると俺の目の前で天野が、パンッと手をひと叩きした。
「ん、ん?」
二人きりの教室に音が響く。何が起きているのか余計に分からなくなってきた。天野はなにをしているんだ。
「今、私と貴方以外私と貴方以外の時間は止まっているの。」
「ごめん、言ってることがさっぱり…。」
言っていることがやはり理解できない。明らかに変わった様子はない。俺は天野にからかわれているのだろうか。それとも天野が馬鹿なのか。
「何も変わってないじゃないか。」
そう言った俺に天野はクスッと笑った、まるで俺を馬鹿にするかの様に。
「本当にそう思うの?」
呆れた顔をして俺の腕を軽く引っ張り、教室の外に出した。教室を出てすぐ、天野が廊下の窓をちょんちょんと突いた。外を見ろという事だろうか、俺は窓の外を見た。
「は…なんでだよ…。」
半信半疑の俺を裏返すかの様に窓の外は時が止まっている。誰1人動いていない。
まさかドッキリか?俺にドッキリでも仕掛けているのか?きっとそうだ。それなら天野が話しかけてきたのも不思議じゃない気がする。そう信じよう。
窓の外の止まった景色を拵えるようにして眺め、頭を抱え思考を走らせる。
「どう?わかったかしら。」
「い、いや…ドッキリだろ?これ。」
微笑を浮かべる天野と違って、なにも分かりやしない。もうドッキリであって欲しい。早く家に帰って寝たい。誰かこの不思議ちゃんから助けてくれ。
「何を言っているの?正気?ドッキリな訳がないでしょう?」
驚いたのか天野は目を大きく見開いて話す。…やっぱりこいつ頭でも可笑しいのか?最初の頃のウキウキを返してくれ。ただ1つ分かったことがある、こいつ…天野は変わり者だ。そして面倒事に巻き込まれるのが嫌いで早く家に帰りたい俺はある手段に出た。
「ご、ごめん、俺もうバイトの時間…」
もちろんバイトなんかやってない。しかし部活をやってない俺にこれくらいの言い訳しか浮かばない。となればもうこの切り札しかない。通用するかどうかは置いといて…。
「大丈夫よ、時間も止まっているもの、気にする事は無いわ。」
通用しなかった。だが、こんな茶番に付き合ってられない。天野には悪いが俺はここで
「あーもうこんな時間だー早く行かないと店長が怒っちゃうなー。」
多少棒読みであろうと気にしない、今はここを去ることが最優先だ。
「ちょ、ちょっと、新谷くん?!まだ話は…」
「悪いけどまた今度で!」
軽く会釈をして一気に廊下を走った。だんだん天野が遠くなる感覚がわかる。なんだあいつは。時間が止まってる?そんなことあるはず無いだろ、馬鹿馬鹿しい。しかしなんで俺にドッキリを仕掛けたんだ?もっとリアクションの大きい奴が沢山いるだろうに。もし、ドッキリじゃ無かったらなんなんだ?頭の中で色んな思考が彷徨う。
「まあ、もう帰るんだし気にすることは無いか。」
よし、全速力で家に帰ろう、ほんの少しスピードアップして教室が並ぶ廊下を走った。
しかし、何かが可笑しい。おいおい、なんで皆止まってるんだよ。とある教室の前を通ったとき異変に気がついた。もうドッキリは終わっていいぞ?俺はもう帰るぞ?おーい。
止まっている生徒の目の前で手をひらひらさせても動かない、何故だ。まさか天野の仕業か?天野の言ってる事は本当だったのく?まさかな。
「あー、もう、また時間止まってるじゃん。」
ふと俺の背後から声がした、天野の声ではない、明るい声だ。
「あれ?なんで君動いてるの?」
げ、もしかして俺に声をかけているのか?ここは止まっているフリでもしとくか…。俺は身を潜め、なるべく動かない様にした。
「ねーねー、動いてるでしょー?」
が、どうやらバレているご様子。しかしここで動くと厄介な事に巻き込まれるに違いない。
ツンツンと軽く俺の背中を突いてくる。やめてくれ…。どうにか動か無い様に耐える。生憎相手の顔が見えない。
「ま、いいや、今度はタダじゃおかないよ?」
助かった…のか?俺の目の前を軽やかに通り謎の少女は去って行った。顔が見えず誰か分からなかった、見た所同い年か?背が低く、小柄だ。髪は長く、フワフワ茶髪のツインテール。イマドキって感じだな。いや、女子のイマドキなんて知りやしないが。はぁ、今度こそ帰ろう。
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