第4章 瓦解する世界

第14話 ほころび

 アクロが副師団長に任命された翌日、アクロは10人の部下を連れて赤い砂の上を進行していた。

 目指す先は、アルアスカより西にある小さな街。アルアスカ周辺にある街の中で一番魔族城に近いため、守りの層が厚く幹部がいる可能性も高い。そのため、アクロがこの街の奪還を行い、もう1つ奪還できていない街をオリヴィアが攻めることになった。アクロの魔力量があれば、たとえ勝てなくても長い時間持久戦を行うことが出来る。その間に別の街を奪還したオリヴィアが合流し、共に倒すという算段だった。


 とはいえ、今まで3つの街を奪還したアクロにとっては造作もないことのように思える。不安点を上げるならば、幹部の存在である。

 キムラン以降一度も幹部と出会っていない。キムランの戦闘時も不意を突いて倒してしまったため、まともに戦ったことは皆無と言える。そのため、幹部との戦闘情報がアクロには皆無だった。もしアクロと相性の悪い幹部と出会ってしまえば、手も足も出なくなる可能性はある。セフィアやラズとは違い、経験もなければ知識量も多くないアクロがそのような戦況を覆すことは難しいだろう。


 しかし、怖気づくわけにはいかない。

 アクロには成し得ないといけないことがある。それに、背後にいる部下のためにも折れるわけにはいかない。  

 アクロの配下となった10人は、アクロのサポートが出来る魔術を得意とする兵が掻き集められていた。

 遠距離の魔力探知が得意な者、幻術魔術に秀でた者、魔族の魔力除去に秀でた者など、純粋な破壊力しかもたないアクロにとってはどれも不可欠な要員だった。10人という少ない人数で編成されたのは、戦闘時に魔族がアクロ以外を狙わないようにするためである。

 人数が少なければ、アクロに背を向けてまで殺しに行く価値がなくなる。すると自然と敵の攻撃はアクロに集まり、またアクロも目の前の敵だけ集中すれば良くなる。


「あのアクロ副師団長の部下になれるだなんて……光栄です!」

「俺もずっと憧れてたんッスよ! あの神々しい青い魔術……いつ見てもうっとりします」

「おいおい、俺らは訓練に来たんじゃないぞ」


 水分が少なくカンカン照りの中、配下の兵は意気揚々と進軍していた。

 テンションの高さを抑えられない部下達に呆れながらも、部下に尊敬の目を向けられることにアクロはまんざらでもなかった。アジュール姉妹も今までこういう世界に立ち続けたのかと思うと、不思議と嬉しさがこみ上げる。


 気付けば、目的地である街が視界に入っていた。

 周辺に魔族がいる様子は見当たらない。アルアスカの時と同じく、不気味な静けさに包まれていた。


 緊張でアクロの手は汗で濡れていた。ここを奪い返せば魔族城まであと一手となる。なんとしてでも奪い返さなければならないという気持ちが、プレッシャーとなっていた。

 アクロは小さな声で、戦闘前に作戦内容を反復する。


「俺がまず、先制攻撃を仕掛ける。お前たちは、一通り制圧するまで動くな。俺が合図したら街に入り、魔族の魔力除去作業に入れ」

『はい』


 作戦とも言えないほどシンプルであるため、改めて確認するほどではない。アクロが念を押したかったのは“動くな”という言葉だった。身を投げる行為はするなという意味もあったが、一番の理由はアクロの力が制限されるためである。アクロの“紺龍の暴流”ブルマリーノ・ヴィオレンツァは、ピンポイント攻撃よりも無造作に広範囲を攻撃することを得意とする。攻撃圏内に仲間がいれば、広範囲攻撃ができなってしまうからだ。

 部下が全員頷いたのを確認し、アクロは再び歩を進める。


「そろそろ、魔族の魔力感知圏内です」


 兵の一人が注意を促す。アクロは足を止め、術を発動するために集中する。


「ありがとう。では、行ってくる」

「副師団長、どうか無理をなさらずに」

「ああ」


 心配の眼を向ける部下に背を向け、アクロは大きく深呼吸する。

 そしてアクロは、魔族の魔力感知圏内へと大きく踏み込んだ。


“紺龍の暴流”ブルマリーノ・ヴィオレンツァ


 足元から生まれた紺色の龍が、アクロを乗せて街へと飛翔する。乾いた風を掻き分けながら、アクロは眼下に見える街を凝視し、魔族の位置を確認する。

 街の内外併せて、魔族は500弱ほどいる。街を守るためか、結界を張ったり土嚢を積んだりしている。

 アルアスカ奪還の時に倒した数に比べれば、遥かに少ない。アクロは龍を空高く上昇させる。街が点にしか見えない高度まで上昇した後、町の中央に急降下する。


「分散しろ!」


 紺の龍は20頭に分かれ、魔族を上空から狙い撃つ。街の周囲に張られていた結界を食いちぎり、龍はより多くの魔族がいる場所へ接近する。魔族に直撃した龍は爆発し、更に周囲の魔族を焼き払う。アクロはたった一手目で100を超える魔族を一気に葬った。

 そうして奇襲で混乱した魔族を片っ端から倒していくのが、アクロの常套手段だった。

 赤い街に次から次へと紺の爆風が吹き荒れる。アクロは感情を押し殺し、悲鳴や騒ぎ超えを聞き流し魔族を葬っていく。

 堂々と正面から攻めてくる者、物陰から遠距離の攻撃を仕掛けてくる者……すべてを紺の波が飲み干した。


 全てが順調で、今回も何事も無く奪還できるとアクロは思い込んでいた。だがそうは問屋が卸さない。

 異変に気付いたのは、攻撃を始めてから十分後になってからである。初手で大量に葬り、そのあとも滞り無く魔族を倒している筈なのに、魔族の攻撃が一向に止まないのである。


 ――おかしい。もう500は倒した筈なのに、何故次から次へと……。


 決壊した川のごとく、激しい勢いで次から次へと魔族がアクロを攻め立てる。今まで戦ってきた魔族程度の強さではあるが、襲い掛かってくる数が半端なく多かった。さすがに魔族城に近い街ということで必死になって抵抗しているのだろう。

 効率よく最低限の魔力で複数の魔族を巻き込むよう考えながら、アクロは猛攻に対抗する。

 先ほど上空から街を見た時、周囲に魔族は一体もいなかった。可能性として考えられるのは、転移魔術による強襲か、地中に潜んでいた伏兵の存在。

 いずれにせよ、アクロはただ目の前の魔族を倒さなければならないことには変わりがない。

 

「はーん、よく耐えてるじゃねえか」


 アクロが攻め続ける中、頭上から響く男の声。見上げると、真っ直ぐ伸びた角が2本生えている魔族が、腕を組みながらアクロを見下ろしていた。服装はキムランと同じく黒い布を身体に巻きつけているだけであり、背中から2メートルを超える黒い翼が生えている。


「ハハ! それがキムランを殺した魔術か!」


 嬉々とした声とともに龍が何かにぶつかり弾け散る。魔族の目の前には、赤黒い魔術陣で作られた障壁が展開された。


「ちっ」


 アクロは有象無象と闘いながら舌打ちする。

 小さく分散させた龍の1頭とはいえ、相当な魔力を込めていた。それをあっさりと防ぐことが出来たこの魔族は、他の魔族とは次元が違う。十中八九、“幹部”と称される魔族だろう。

 アクロの舌打ちは苛立ちではなく、怯える自分を隠すための行為であった。

 強力な魔術を手に入れても尚、アクロの肝の小ささは変わらない。だが、それを悟られるわけにはいかなかった。

 精神の揺らぎは魔術の衰弱に繋がる。アクロの魔術が弱っていると知られたら、全力で叩き潰されるだろう。


「なんだなんだ、それで終わりか? ん? このシャーカフ様には届いていないぞ?」


 アクロを睥睨しながら挑発してくるシャーカフ。

 そんな挑発に乗るアクロではないが、手を打たれる前に攻撃の一手を繰り出したかった。だが、地面にいる魔族の相手に手一杯で、シャーカフにまで攻撃の手を伸ばすことが出来なかった。


 ――ったく、なんでこんなにしつこいんだ!


 湯水の如く湧き上がる魔族にアクロは苛立ちを募らせる。丁寧に敵を捌くのが面倒に思えてきたが、幹部と戦わなければならない以上、無駄な魔術は使えない。


 アクロはふと、違和感を抱く。

 先程から大量の魔族を倒している筈なのに、どこにも死体が積み上がっていない。

 よく見ると、アクロに襲いかかる魔族は全員目が虚ろで、口をだらしなく開け、傷を負っている。中には内蔵が破裂していたり、頭が無い魔族もいた。死人を操り従順な兵とする非人道的な魔術は、アクロは1つしかしらなかった。

 

 ――“死霊魔術”ネクロマンサーか!


 死人の魂を弄び、死肉を操る人道から外れし邪道の魔術師。

 アクロの世界でも忌み嫌われ、禁断指定になっている魔術。

 であれば、今の状況にも説明がつく。アクロはできるだけ魔力を消費せず魔族を倒すため、心臓や脳の破壊のみを行っていた。つまるところ大半の肉体は無事な状態であるため、それを操られてしまったのだ。


「それなら……“紺龍の暴流”ブルマリーノ・ヴィオレンツァ!!」


 アクロは再び魔術名を唱え、体内の魔力を一気にひねり出す。そして、膨大な魔力を空へと投げる。

 相手が死霊魔術を使うならば、魔族の体は再構築不可能なまでに破壊しなければならない。


「おおっ、これほどか!」


 シャーカフは焦りと悦びが混じった声を上げる。街の上空に具現したのは、今まで放っていた龍とは比べ物にならないほどの大きさの龍。大きな口を開けて、空中にいるシャーカフどころか街全体を飲み干す。

 大量の魔力を消費するなら、いっそ幹部もろとも攻撃すればいいとアクロは考えていた。

 街には紺色の奔流が吹き荒れ、巻き込まれた魔族たちは細かな肉片となる。

 幸いだったのはこの街にいた魔族は全員が傀儡であり、回避命令を与えられていないことであった。今の技は予備動作も大きく、避けようとしたら簡単に避けることができたからだ。


 紺色の爆発が脳と鼓膜を大きく震わせ、視界を覆い尽くす。


「はぁ……はぁ……」


 息を乱しながら、アクロは耳を澄ませながら、舞い上がった土煙が退くのを待った。膨大な魔力を消費したためか、軽く頭痛を感じていた。

 ようやく視界が晴れてきたため、自分のいる周囲を見渡した。アクロが立っていたのは街ではなく、大きなクレーターの中心だった。魔族どころか、建物の形すら見えない。アクロは周囲を見て、生き残りがいないか確認しつつ粗い呼吸を整える。


「勝てたか……」


 安堵し、緊張を弛ませた瞬間だった。


「この程度か?」


 アクロは言葉を耳に入れたと同時に空を仰ぎ見る。そして姿を視認ないことを確認し、すぐさまその場を横っ飛びする。

 腕を掠る黒い刺突。

 生き残っていたシャーカフが背後からアクロの命を容赦なく狙った。アクロは魔族の浮かべる笑みに悪寒を感じた。シャーカフは戦闘、或いは命を奪う行為に快楽を感じている。


「ちっ」


 シャーカフは舌打ちし、黒い剣をアクロの首めがけて振る。アクロが意識を向けた時には既に目と鼻の先に剣が迫っていた。

 絶体絶命の危機であるが、アクロの表情は一切崩れていなかった。

 アクロの“紺龍の暴流”ブルマリーノ・ヴィオレンツァは、予備動作・魔術名の詠唱無しで発動できる域にまで到達している。視認と同時に攻撃できるほどの発動速度を会得していれば、神速の剣筋であろうと対抗することができる。


「なにっ……」


 危機とした表情から一転、シャーカフの顔に驚愕が浮かぶ。

 剣がアクロに到達するより早く、アクロの身体から紺色の龍が出現し、魔族に向かって大きく口を開ける。

 咄嗟に回避行動するも、剣を持っていた腕が龍の顎に噛みつく。彼の体表には強力な魔術障壁が展開されていたためか、食いちぎるには至らない。


 シャーカフは防御魔術に秀でた魔族であると、アクロは薄々と感じていた。クレーターが出来るほどの魔力を防ぎ、今はとっさに体表に防御障壁を展開した。


 ――さすが魔族だ。だが……。


 尊敬の意を示すと同時に、紺の龍は障壁ごとシャーカフの腕を噛み千切る。

 魔術の強さは、距離に反比例する。発動対象が近ければ近いほど強力になり、遠ければ遠いほど弱くなる。

 シャーカフの叫び声と赤黒い血が飛び散る。


 痛みで硬直したシャーカフは隙だらけであった。新たな障壁を展開する時間を与えるわけもなく、アクロはトドメを差すべく腕に魔力を集中させた。

 龍を放とうとした瞬間、アクロの頭に鈍い痛みが走る。


「っ!!」


 金槌で殴られたかのような痛みが頭に広がり、アクロはその場で膝をつく。この世界に転移してきた時と全く同じ頭痛が、アクロの行動を妨げた。

 魔術はイメージを起点にして発動するため、脳が動かせなければ発動することが出来ない。腕に貯めていた魔力は霧散してしまっていた。


 ――なぜこのタイミングで……!


 頭痛だけでなく、全身にだるみが広がり、誰かに押さえつけられているかのような圧迫感を胸に感じていた。呼吸が荒くなり、徐々に意識に靄がかかる。咳込むと口の中に不快な温かさと鉄の味が染み渡る。

 何が起きているのか、アクロには理解できなかった。


「どうした? どうしたどうした? 魔族の中で最硬の防御力を誇る俺から腕を吹き飛ばせたからって余裕ぶっこいでんのか? せっかく久々に出会えた全力を出せる人間なんだ……失望させてくれるなよ?」


 腕を引きちぎられても尚笑みを浮かべるシャーカフ。魔術で出血を止め、残っている腕を前に伸ばし、魔術陣を展開する。

 魔術の発動どころか、身体を動かすことすらままならない。


「さあて、次はどうやって楽しませて……」


 アクロは砂を蹴り上げながら、後方へと転がり込んだ。

 赤い砂が巻き上がり、シャーカフの視界を遮る。頭痛で魔術を使えないアクロは地を蹴り、砂で目を眩ませた。


「小癪な……目眩ましだろうが、魔力探知を使えばお前の居場所なんて直ぐに見つけ出す!」


 得意気に語るシャーカフだったが、アクロの狙いは目眩ましではなかった。

 シャーカフの展開した魔術陣から魔力の弾丸が放たれ、アクロはそれを利き腕ではない左腕で防ぐ。骨が折れた乾いた音と同時に、鋭い痛みが走る。

 だがその痛みによって、靄がかかっていた意識が僅かに鮮明になる。

 その瞬間をアクロは見逃さない。勢い良く立ち上がり、シャーカフへと飛びかかる。魔術が直撃したことで気を抜いていたシャーカフは目を丸くした。

 砂煙を巻き上げたのは、アクロの狙いに気づかせず、着弾した事実で気を緩ませるためであった。


「コイツッ!」

“紺龍の暴流”ブルマリーノ・ヴィオレンツァ!」


 動揺による硬直中に発動した、アクロの零距離魔術。

 多少魔術が不完全でも、有り余るほどの威力がシャーカフの身体を蒸発させる。

 紺の魔力に蹂躙されたシャーカフは苦痛の表情で顔を歪ませながら絶命した。


「今度こそ倒し――」


 同時にアクロの意識も途切れる。魔力に限界を迎えたこともあるが、頭痛がアクロの意識を耐え得ず奪っていたところが大きかった。

 叫びながら駆け寄る部下の姿を見ながら、アクロの意識が闇へと沈む。


 ――お前ら、まだ合図を出してないだろ。


 アクロは小さく笑ってから、意識を失った。


 アクロの元へとすぐさま駆けつけた部下によって、アルアスカの医療施設へと運びこまれた。

 命に別状はないものの、魔術師として致命的なダメージを負ってしまっていた。

 魔術師の生命線とも言える魔力回路が酷く損傷していたのだ。連戦の疲労と、強力な魔術による負荷、そして、元々あまり使用していなかったことによる魔力回路の弱さ。それらが重なりあい、アクロの回路は破綻してしまった。

 

 そして、不運は重なる。





「くっそ……このタイミングか」


 アルアスカ作戦会議室。

 オリヴィアは拳を勢い良く叩きつける。怒りと悔しみと焦りを交えた瞳が、テーブルに広げられた地図上のアルアスカを凝視していた。

 魔族城を監視していた兵から、三万の魔族がアルアスカに向けて進行しているという情報が入ったのである。

 そしてその軍勢を指揮しているのは、魔族の王自身だった。


 つまり魔族は最高戦力でアルアスカを叩くべく侵攻したのだ。


「師団長殿、どうかお鎮まりください。これはもう、どうしようもないことですから」

「クリフトンさん! あなたは……この街がどうなってもいいのですか!」


 オリヴィアは珍しく感情のままに怒りを乗せる。

 オリヴィアも無事に街の奪還に成功していた。しかし、予想以上に時間を取られてしまい、アクロの助けに行くことが出来なかった。そのことにオリヴィアは非常に悔いていた。そして、アクロの力に依存していた自分にも腹が立っていた。


「いいわけ無いてしょう。だが、私には力がない。喚いたところでどうにもならん」


 クリフトンの優しげな言葉に、オリヴィアは声を落ち着かせながら続ける。 


「私は……この現状に憤っているわけではありません」

「と、言いますと……?」


 オリヴィアはソファーに勢い良く座り、背もたれに体重を預けて天井を仰ぎ見る。


「迫っている魔族の中に王がいる。それを知れば、アイツは動くでしょう。倒しに行くでしょう。限界を超えた力を扱い、魔力回路がズタボロになるまで戦い続けたあのバカは絶対にそうする。だが、私じゃ止められない。あいつの思いが尋常じゃないことを知っているのもあるが、あいつを前面に出さなければアルアスカが守れないことも分かっているからだ」


 オリヴィアの脳裏には無愛想な青年の顔が思い浮かぶ。

 

「アクロ君……もし魔術を使い、今以上に回路を摩耗したらどうなるんだ?」


 魔力がなくなれば、魔術が使えなくなる。それは常識でありクリフトンも知っているが、魔力回路が限界まで摩耗すればどうなるかは知らなかった。そもそも、人はそれぞれ自分の身体に見合った魔術しか使えないため、回路を摩耗するという現象そのものが稀有であった。


「……死ぬ」

「えっ! もしかして、それは暗喩というやつかな?」

「いえ、残念ながら言葉通りです。摩耗した魔力回路から溢れた魔力は、体中の器官を侵食し破壊します。勢い良くレールから脱線したトロッコの如く、大きな運動量を持ってどこかにぶつかる。それが内蔵に変わるだけの話です」


 ごくりとつばを飲むクリフトン。

 オリヴィアはアクロを無茶させない手段を考えながら、ぼつりと呟く。


「アクロを失えば我が国は終わってしまう……」


 オリヴィアは立ち上がり、数人の兵を呼び寄せた。そして、緊急の命令を与え、部屋を飛び去らせた。


「何をするつもりだい……? この状況を打破できる手でもあるというのかい?」


 クリフトンの問に、オリヴィアは苦々しい笑みを浮かべて答える。


「打破できる、とは断言できません。いわば賭けです」


 オリヴィアはまだ利用していないカードが2つあることに気付いた。しかし、それらはカードとして機能するかどうか分からない。それでも他に手がない以上、縋るしか無い。


「頼むぞ……常勝の眠れる姫君たち」

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