第3話 夢から醒めて

 森本イズミの部屋はマンションの三階だが、ここにはちゃんとエレベーターがあった。


 玄関を開けてくれたのは清宮さんで、満面の笑みで迎えてくれる。


「高野さんに相談して良かったです。イズミ、夢の場所が学校だってわかって、いろいろと思い出したことがあるって」

「へぇ……ちょっと情報共有しておきたいですね……」


 靴を脱ぐ。


「……いろいろと確かめれば、わかることも多いと思いますよ」


 廊下を進み、一LDKの間取りだとわかった。


 俺とは違い、豪華な部屋に住んでいるなと羨む。


「あ、座ってください」


 森本イズミの声がキッチンから聞こえた。彼女はコーヒーを淹れてくれていて、二時間ほどで到着した俺に合わせて用意してくれたみたいだ。


 俺の株価は今、とんでもなく値上がりしている……いや、彼女はもともと来客にはそういう対応をする女の子であるのかもしれない。


 三人分のコーヒーをサーバーに淹れた森本イズミが、ダイニングリビングに現れ、俺達は丸テーブルを囲んで座った。座布団がフカフカとしていて心地いい。


 俺は紙とペンを借りて、夢の中で立っていた場所を見取り図のように描く。


 最初の部屋、体育館、通路、体育館の次の建物で校舎と思われるような場所、そして廊下と階段、二階通路。


 俺が確認できた場所はこれだけだ。


「森本さん、君がいた場所はどんなところか、書いてもらえます?」


 彼女は俺からペンを受け取り、四角い部屋を書いた。そして、その中に、横長の机に椅子、棚、ロッカー、花瓶とそれが乗っかっている四脚の台を配置する。部屋の、どちらがどの方角かわからないが、横長の机がドアから最も離れた場所にあった。


「わたし、今回は怖くてここから出てないんです。いつもは、外に出た途端に……追いかけられるから、机がたくさんある部屋とこの部屋が繋がっていて……そこで、ずっと逃げてるんですけど」

「校長室か、そういうイメージですね」


 俺は思ったことを口にして、清宮さんの同意を得た。


「そうですね。本当……聖さんは、ここを見てないんですか?」


 俺は自分が描いた見取り図を指差して答える。


「ええ。見てないんですよ。こちらの紙に描いた場所しか歩いてないんです。途中、女の子と男の子の叫び声が聞こえて、でも二人がどこにいたのかわからないし、おそらく森本さんじゃない女の子だと思いますが……あ、話が前後して申し訳ないですね。えっと、男の子がここで倒れて……俺はここで夢から戻ったんですよ」


 階段の二階踊り場を、俺の右手人差し指が示した。


「夢の中で倒れた男の子が……」


 死んだという表現を避けた俺であるが、二人は察したようで表情を暗くする。


「……定期を持ってたんです。登戸と祖師ヶ谷大蔵の区間で、清宮さんに確認したところ、二人の中学と高校は祖師ヶ谷大蔵駅が最寄りでしょ? だから多分、あの夢の場所は中学か高校……倒れた男の子の背格好から、高校じゃないかなと思うんですけど」


 俺が話し終わるやいなや、森本さんが口を開く。


「それ……それを穂香と話していたんですけど、体育館の隣に室内プールがありませんでしたか?」


 清宮さんにも訊かれたが、俺はそれを確認できていない。


「体育館のような場所に立って、体育館から出るか、中を調べるかを迷ったんだけど、結局、悲鳴が聞こえた方向を優先したんですよ。これがその通路」


 見取り図の通路を示して説明を続ける。


「裸電球がこう、ずうっと続いてて、なんか古臭い印象がありましたね」


 二人がお互いを見合う。


「高校も中学も、蛍光灯ですよ、もちろん」


 清宮さんの言葉に、そうだろうなと俺は頷いた。


 でも、夢の中での学校が、現実と全く同じで再現されているほうがおかしいと思い、ではどうして裸電球であったかと考えてみる。いや、全体的に不気味な印象であったのかと悩んだ。


 もしかしたら、夢を見ている森本さんの恐怖とか不安が、夢での学校を不気味なものへと変えているのかもしれない。何かに追われていて隠れている不安が、夢の世界をあのように映し出した可能性がある。


 俺は学者ではない。


 他人の夢に入ることができるからといって、夢に詳しいわけでもない。さすがに気になる部分は調べたが、その程度の知識しかない。だから推測することしかできないので、しかるべき人に相談をしたほうがいいのではないかと考えた。


「とにかく、あの夢は不気味な印象でしたから、専門医に相談したほうがいいと思いますね」


 俺はこう言い、そして大した確証もないまま、思いついたことをそのまま続けた。


「中学か高校で何か事件があって、それを無意識下で後悔している可能性もありますよ」


 森本イズミが、ハっとした表情となる。


 清宮さんは、そんな彼女に沈痛な面持ちで言った。


「イズミ、あれのこと?」

「あれ……とは?」


 俺の問いに、答えない森本イズミの代わりに清宮さんが口を開いた。


「あの……イズミのクラス、あ、わたしとイズミ、高校の時はクラスはずっと別々だったんです。で、彼女が二年生の時、クラスメイトが自殺して……」


 その自殺が、森本イズミの無意識下において不気味なドロドロとしたイメージとして残っていて、それが夢の中で現れているなら、彼女を追いかけているのは彼女自身ではないだろうか? 多感な頃に、同じクラスの仲間が死んだという負の事実が、森本イズミの心を蝕んでいる? 


「自殺した人とは、仲は良かったんですか?」


 気配りも何もない俺の質問だが、森本イズミは怒りもせず首を左右に振った。


「いえ、同じクラスにいたってだけ……て言ったら、わたしって最低ですよね」


 彼女は悲しげに笑った。そして、ぬるくなったコーヒーを啜り、言葉を紡ぐ。


「名前……黒田くろださんは、教室で自殺したんです……皆の前で」


 ……!

 森本イズミは、今にも泣き出しそうな声で、こう言った。


「皆を、呪ってやるって……そう言って包丁で、自分の首を切ったんです」


 彼女はそこで言葉を止めると、俯いて黙ることで、それ以上は無理だと俺達に示した。




-nightmare-




 翌日の昼というべきか、当日の昼が正しいのか……。


 俺は森本イズミの夢に入った夜、彼女の部屋で朝を迎えた。


 色気も何もない。そこには清宮さんもいたが、仮に二人であっても、何も起きなかっただろう。


 ともかく、俺は森本イズミの部屋で朝食をご馳走になり、三人で一緒に外出した。駅まで森本イズミを車で送り、俺と清宮さんは大学の前で別れた。


こうして俺は今、一人で大学の図書館にいる。


 パソコンがずらりと並ぶブースで、俺は調べ物をしている。


 清宮さんと森本イズミが通っていた高校で発生した自殺の件だ。


 二人が通った高校は私立野間学園高等学校である。この学校の名前と自殺という単語を検索キーワードに入力して検索をかけると、いくつかのウェブページが候補としてあがってきた。


 俺は新聞のウェブサイトを選択する。


 記事がそのまま事実であったと仮定したならば、黒田くろだ朱美あけみは自分の教室で自殺をしている。それは一限目が始まる直前で、クラスメイトは皆、彼女の凄まじい死を目撃することになった。


 黒田朱美は、このクラスで虐められていたわけではないようだ。ただ、この記事を書いた新聞記者の取材により明らかになった範囲で判断をすれば、と理解するべきだろう。こう考えるのはひねくれているからかもしれないが、記事だけで判断するのは避けるべきだ。


 どうして俺が、虐めの可能性を捨てられないか。


 森本イズミの発言があるからである。


 彼女は、黒田朱美が「皆を、呪ってやる」と死ぬ前に言ったと教えてくれた。


 それはつまり、虐められていたからと理解するのが最も自然だと思う。


 もしかしたら、森本イズミは、黒田朱美を虐めていたから、彼女の死を忘れることができていないのではないか。日常の中でいつも覚えているわけではないが、ふとしたきっかけでその悔悛は表面に現れるほど、森本イズミは過去に後ろめたさを抱いているのではないか。


 そういう意味では、黒田朱美の呪いは完成していると思う。


 俺は椅子の背もたれに身体を預け、背泳ぎをするように腕を回してコリをほぐす。そうしながら思案を続けた。


 森本イズミが医者やカウンセラーに相談をしたとして、過去に虐めていた相手が自殺したから辛くて怖い夢を見ると、告白できるだろうか?


 勇気がいることだろう。


 他人に軽蔑されることを覚悟して、悩みを告白しなければならない。


 こういう負担もまた、彼女の心理状況を悪い方向に追いやっているのではないだろうか。


 あくまでも想像に過ぎないが、虐めがあったと仮定するならばこう繋げることもできる。一方で、彼女が虐めの加害者側ではなかった場合も当然ながら可能性としてはあり、このケースであれば、虐めを見過ごしていたことへの良心の呵責があの夢の理由とはなり得ないだろうか……。


 当然、虐めなど本当になかったという事だって考えられる。しかし、ならばどうして黒田朱美は、死ぬ直前にあのような発言をしたのかという謎が残る。この場合、クラスメイト側に認識がなくとも、黒田朱美はクラスメイト全員から、虐められていると認識していて、それは何かしらの行いをされていたのだろうと思う。


 スマートフォンがブルブルとポケットの中で震える。


 俺はロングパンツのポケットからスマートフォンを取り出し、清宮さんからの着信であると知った。


 場所を移動しながら、電話に出る。


「もしもし」

『聖さん、あの……今、いいですか?』

「はい、大丈夫ですよ」

『友達から連絡がきて……これ、イズミの夢と関係があるんじゃないかと思って電話したんですけど』


 続きを促すように相槌を返した俺は、清宮さんの言葉を黙って聴く。


『高校の友達から連絡があって、三年の時にクラスメイトだった木下さんていう女の子が死んだって聞いたんです……彼女、ベッドの上で心臓が止まっていたみたいで』

「ええ!?」


 図書館のエントランスで大きな声を出した俺は、周囲の注目を浴びてしまい、さらに場所を移動する。外に出て、ベンチへと向かいながら話した。


「清宮さん、その女の子、二年生の時……」

『そうなんです。もしかしたらと思って確認してみたら、イズミと同じクラスでした。連絡をくれた子は、わたしと二年、三年と同じクラスの子で……だから今、実家に向かっていまして。卒業アルバム、見ますよね?』

「見たいです。ちょっと森本さんに連絡を取ってもらえないですか? 彼女を動揺させたくないけど、でも大事なことだから……あと、ちょっとお願いしたいことがあります。変な意味で言うわけではなくて……なんというか……」

『今夜、三人で一緒にいましょうか』

「そう……そうそう。それ……を、お願いしてもらえないかな? 別々に夢の中に入ると、見つける前に終わっちゃうから」

『今夜も入るんですね?』

「うん……俺も気になって。野次馬的なものじゃなくて、なんというか、なんとなく……気になる。関わった限り、途中で投げ出すのも嫌な感じの内容だし」

『すいません。わたしが相談したから』

「ちがいますよ」


 俺は彼女の声を遮るように言っていた。


「人の夢を覗いたんです。俺も関係者ですよ」


 電話を終える前の挨拶を交わして、スマートフォンを耳から離した。


 十分に準備したほうがいい。


 俺は、二人に話していない。


 ――おぉまぁあぇはぁああ……だぁあれぇえだぁあぁああ?


 俺が森本イズミの夢から出る直前、背後から聞こえたあの声……。


 お前は誰だ?


 こう言っていた。


 俺は、何者かに認識されているのだ。しかし、俺が誰であるかわかっていない。


 あの声は、でも女の子ではなかった。


 誰だ?


 俺はここで、違和感を覚える。


 何だろう……。


 胸がざわざわとする感覚に唸り、しばらく考えたが、答えは見つからなかった。




-nightmare-




 俺の部屋。


 午後八時過ぎ。


 俺の目の前には可愛い女の子が二人。


 でも楽しい会話はない。


 清宮さんが持ち込んだ野間学園高等学校の卒業アルバムを眺め、三人で難しい顔をしている。


 二年二組だった生徒の名前を白紙に書き出した森本イズミ。


 スマートフォンを片手に電話をかけながら、名前にバツ印をつけた清宮さん。


 なんと、森本イズミのクラスメイトだった男性女性が、この一ヶ月の間で続けて変死をしていた。


 最初から順に並べると、次のようになる。


 吾妻あずま雄太ゆうたは、夜中に発狂しベランダから飛び降りて死亡。五階からの落下で即死だったそうだ。


 ひがし園美そのみは、昼間に自宅で死んでいるところを母親に発見されている。彼女は死ぬ数日前から寝るのが怖いと両親に話していたそうで、眠らないようにしていたらしい。だが人間は眠る生き物であり、彼女は抗いがたい睡魔に負けて眠ってしまったのだろう。それが昼間だったようだ。死因は心停止だった。


 渡邉わたなべ信吾しんごは、高校を卒業した後、大学受験で失敗して後は引きこもっていたらしく、死体となって発見されたのは死後三日が経過してのことだった。死因は心停止である。彼はパソコンに向かったまま座って死んでいた。


 北条きたじょう則人のりとは、大学の講義中に居眠りして、そのまま死んでいた。発見したのは隣に座っていた友人である。死因は心停止。


 山本やまもと怜奈れいなは風呂場で手首を切って自殺していた。発見したのは恋人の男性で、茂木(もぎ)洋二郎(ようじろう)という名前だ。彼は次に並ぶ。


 茂木洋二郎は、恋人が自殺した日の夜、電車に飛び込み自殺をしていた。先日、人身事故でダイヤが乱れたのは、もしかしたら彼のせいかもしれない。


 そして昨日、清宮さんと三年生の時にクラスメイトだった木下きのしたすずが、ベッドで死体となって発見された。発見者は彼女の妹で、母親が朝になっても起きてこない木下鈴を起こしてくるようにと妹に言いつけた結果である。死因は心停止だ。


 七人中四人が心停止である。


 俺は専門家ではないから詳しくないが、心停止が死因というのは間違っているかもしれない。心臓が突然に止まることで脳死となる……などが正しいのかもしれないが、いちいちこだわる理由もなさそうなので、考えるのはやめた。


 問題は、過半数が心臓停止による死亡であることだ。そして、寝たら死んだという事実も大事である。


 残りの三人も、自殺というところは一致している。


 俺は、二人目の東園美に注目している。


 彼女、森本イズミと似ていないだろうかと思ったのだ。


 寝るのが怖いと、森本イズミも、俺に言った。


 彼女はもしかしたら、あの夢を見ていたのではないだろうか。


 自分が、あの場所で、追い詰められ、殺される夢を。


 そして、仮にだが死亡した人達が全員、あの夢を見ていた事が原因で死んでいるならと思考を繋げた時、森本イズミが口を開いた。


「この、最初に死んだ吾妻くんは……黒田さんをよく笑い者にしてました。ボーイズラブのマンガを取り上げてからかったり……」


 それが常習化していたなら立派なイジメじゃないのか? まあ、嫌がらせ程度だろうという人もいるだろうが、問題はされた当人がどう感じるかである。


 殴る蹴るだけが虐めではないと思う。


 ということは、森本イズミも? 


 俺は確かめようと思った。


「黒田さんはクラスではどんな女の子だったの? 君とは仲が良かったわけじゃないと聞いたけど、他の人とは?」


 森本イズミは記憶を辿るように唸り、自信なさげな口調で答える。


「仲が良かった人……は覚えていませんけど、違うクラスの子と登下校は一緒にしてたような……ボーイズラブの小説を書いてて、その趣味が一緒だったからだと思います。わたしは……接点はないです。ほとんど会話したことないし……一度だけ、彼女が吾妻くんにからかわれて泣いた時、大丈夫? って声をかけたくらいで……」

「怒らないで聴いて欲しいんだけど、そういう声掛けって、例えば森本さんにとって本当に相手を心配してのもの? じゃない場合、それが相手に伝わったら、やっぱり恨まれると思うんだ」


 俺は「ごめんね」と付け加える。


 嫌な事を言ったと思いつつも、でも大事なことだ。


 彼女は悲しむ表情で、首を左右に振った。


「わかりません。わからない……でも、でもわたし、高野さんが言うように、もしかしたら、どっかで彼女を見下していたのかもしれない。ほら……グループを作るじゃないですか?」


 森本イズミは正直に話してくれていると思える。


「わたし、人気のある子達と一緒にいたから、だから余裕があったのかもしれない。そう思う自分がとても嫌ですけど、でもそういうの、見透かされていたら、彼女にとってわたしはとても嫌な女ですよね……」


 清宮さんが友達の背中を撫で、俺を見て口を開いた。


「聖さん、当時の事、調べます? もしかしたら、何かわかるかも……」


 俺は頷きを中途半端に止めて、腕を組む。


 調べて何がわかる?


 何を知るために調べる?


 それが大事であるように思う。


 過去に自殺した女の子がいた。彼女が虐められた事を苦にして自殺したのなら、それはとても悲しく、許せない事だ。しかし、それを暴くことで森本イズミの悪夢は終わるか? 苦しみが増すばかりではないだろうか。


 俺は医者でも警察でもPTAでも教育委員会でもマスコミでもない、ただの留年寸前の学生である。社会問題を提起するつもりもなければ、隠れた犯罪を公にする使命もない。


 俺にあるのは、森本イズミを心配する気持ちと、清宮さんの相談に乗ったという責任だ。


 仮に、森本イズミの苦しみが、過去を調べて解決できるものなら調べるのもいいだろう。でもそれは、まだわからないのだ。


「よし!」


 俺が声を出してことで、二人が瞬きをした。


「今夜、森本さんの夢に入る。一緒に入ろう。君の隣に俺はいるはずだ。二人で、あの夢がどういうものなのか探ろう。まずはそこだ」


 それしかない。


 何を、どう調べるのがいいのか。


 まずは相手を知ることである。この場合、森本イズミの夢の本質がこれになる。そして、二人には言えないが例の声だ。


 十中八九、夢の中で森本イズミを殺す側の存在だろう。


 その正体を突き止める必要があるのであれば、過去を調べるのも方法のひとつになり得る。


 じっと俺を見つめる二人に、説明を続ける。


「森本さんは恐いかもしれないけど、俺が必ず守るから大丈夫だよ。今夜は準備して入る。それから清宮さん」


 俺の声に、清宮さんが背筋を伸ばした。


「俺が合図をしたら、森本さんを起こして欲しい」

「合図?」


 首を傾げる仕草が可愛らしい。


「そう、合図。寝ている俺が君の名前を叫んだら、森本さんを起こしてください。それで二人は夢から醒めることができるはずだから」


 清宮さんが緊張した面持ちとなった。


 彼女は、自分の役割がとても重要であると気付いたのだ。


 そう……森本イズミに危険が迫った時、俺が合図を出す。つまり、目を覚ますことができなければ、森本イズミは危ない。


 信じられないような事も、同級生達の死の羅列を知る今は可能性があると思える。


 それに、そもそも俺が他人の夢に入ることができる時点で、この世界はとても奇妙だと照明しているではないか。


 事実は、小説よりも奇なり。


 まさに、これだ。


 時計を見る。


 午後九時半。


「ご飯を食べて、お風呂に入って寝ましょうか」


 俺の言葉に、森本イズミが照れた様子で右手をおずおずとあげる。


 何だろう?


「あの……一緒に夢に入るって、どうするんですか? なんか、すごく照れますよね」


 確かに……。


「触れていれば、俺が君のいるところに入ることができます。より確実にする為に、申し訳ないですが、手を繋がせてもらっていいですか?」


 コクリと頷いた森本イズミは、ホっとしたような笑みを浮かべた。

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