第一章(5)
*
東館の三階に上がったとき、憤慨したスタローン侯爵が足音も高く歩いてくるのに出くわした。眉はつり上がり、鼻息も荒く、侯爵が憤懣やるかたないご様子なのは一目瞭然だった。厚い絨毯こそが憎い仇であるというように、どすどすどす、と床を踏み締めて歩いてくると、
「遅かったではないか。使用人風情がいい気になりおって、立場を忘れて優雅に散策か!」
苛立ちをぶちまけるようにコンスタンスに食ってかかった。コンスタンスは慌てて頭を下げる。
「申し訳ありません、少々、その」
「言い訳など無用。私は食堂で食事を取る」
そのままずかずかと階段を下りていく。ユリウスが何か苦言を投げつけようとするのを、コンスタンスは必死で止めていた。昼食を取りに行ってくれるのならばこんなにありがたいことはない。触らぬスタローン侯爵に祟りなしである。
「……食事は部屋に運ばれる手はずになっておりますが」
かろうじて穏やかと言える口調でユリウスが言い、スタローン侯爵は踊り場で振り返って吐き捨てた。
「あのような場所で飯が食えるか! いいからそなたらは好きにしろ。私のことは構うな」
「承知いたしました」
ユリウスが頷く。スタローン侯爵は長々とユリウスを見、また吐き捨てた。
「シャトーめ、由緒あるスタローン侯爵家を蔑ろにするといつか痛い目を見るぞ。父親にそう忠告するのだな!」
そのままどすどすと歩み去っていく。ユリウスはそっとコンスタンスの手を撫でた。
コンスタンスは囁く。
「……いつにもましてご機嫌が悪そうだったわね。事を荒立てないでくれてありがとう、ユリウス」
「……君への暴言を聞き流すのは本当に不快なんだよ。貸しにしておくからね」
「まあ」
コンスタンスは呆れて見せ、ユリウスはようやく笑う。
「きっと父が着いたんだ。スタローン侯爵を厄介払いしてくれたんだ、これで昼食の間だけは気兼ねなく話ができる。行こう」
「ええ」
ふたりが急いで部屋に戻ると、ユリウスの言ったとおり、ランバート=シャトーが涼しい顔をしてソファで寛いでいた。入ってきた二人を見て、ランバートはカップを挙げてみせる。
「長い散策だったな」
「それはこちらの台詞ですよ、父上。用事は済んだんですか」
言いながらユリウスは屈託なくランバートの前の席に座る。コンスタンスは少しはらはらした。
最近、ユリウスとランバートは顔を合わせれば喧嘩ばかりしていた。
元々はとても仲のよい親子だった。三ヶ月前、コンスタンスの母が流行病で亡くなったときも、二人は息のあった連携を見せてコンスタンスをあれこれと助けてくれた。顔立ちはあまり似ていないが、笑いじわのある細い目と、なにより性格がよく似ている。探求心に富んでいるところも、親切な心根も、朗らかな性質も。
二人の仲が険悪になったのは、ひと月ほど前からだ。
ユリウスがコンスタンスに求婚したとランバートに告げた、あの時からだった。
居たたまれなかった。ランバートを尊敬しているし、我が子のように育ててもらった恩もある。昔はランバートが実の父親なのだと信じていたくらいだし、今でも大好きだ。その相手を怒らせ、悲しませているという事実が辛い。
でも今はフェルディナントも一緒だからなのか、ふたりともそのわだかまりを出さないことにしたらしい。少し前までの仲の良い親子に戻ったかのように、ランバートはユリウスに頷きかけた。
「ああ済んだ。食事時に済まんが、食べながらでいいから話を聞いてほしい」
言いながらこちらをみたので、コンスタンスは頷いて、微笑んだ。
「では私、失礼してあちらの庭園でお昼をいただいてきますわ」
昼食は籠に入って届けられていた。とても豪華な、彩り豊かなお弁当だ。コンスタンスの分は一瞥してそれとわかった。他のものより小振りで、果物とサラダの分量が多いものがある。いかにも令嬢が食べそうな食事だった。手を伸ばしかけたとき、ランバートが言った。
「いや、コンスタンスも座ってくれ。貴女にも関連する話なんだ。協力を依頼したい」
「え――」
「時間があまりない。侯爵がいつ戻るかわからんからね」
「コンスタンス、どうぞ」
ユリウスが自分の左を示し、コンスタンスはおずおずとそこに座る。ランバートはみんなに食べるように勧めてから、話し出した。
「ここへ来る途中の集落で、言付けを受け取った」
話を聞く三人はそれぞれ頷いた。ユリウスもフェルディナントも自分の籠からおいしそうなものを取り出して食べ始めているので、コンスタンスも食べることにした。クリームチーズの入ったサンドイッチは、チーズに刻んだ香草が練り込まれていていかにも美味しそうだ。
「エスメラルダのエルヴェントラ、ヴァルターからだった」
サンドイッチに噛みついた状態で、コンスタンスは思わずユリウスを見た。ユリウスもコンスタンスを見た。さっきマイラが、『無事なのか』と安否を尋ねた相手ではないか。
「ヴァルターの知らせは少し不吉なものでね……今まであなた方にはあちらの事情を伏せてきたから、いきなりで戸惑うかもしれないが。この婚姻で守られるのは、殿下、貴方の命だけではない。マイラ嬢の自由と希望をも守られる。ヴァルターは今日ここでマイラ嬢と会ったら、もうエスメラルダに帰さないでくれるよう言付けてこられた」
「自由と、」
「……希望」
呟いたのは、ユリウスと同時だった。ランバートが座りなおした。「どうした」
「僕たちは先ほど、マイラ=グウェリンご本人と会ってきたんです」
「そうなのか」
「少し、突発的な事情がありまして……」
「……大丈夫かしら、あの方」
コンスタンスは思わず呻いた。不吉な予感がじわじわと胸に滲んでくる。パトリシアという女性が待ちかまえていたときの、マイラのあの顔色。
ただ事じゃなかった。あのときもそう思ったのに。
「私。……私、今すぐ、あの方をもう一度呼んできます。殿下、一緒に来てくださいませんか」
腰を浮かせると、フェルディナントが頷いた。
「喜んで」
「僕も行く。父上、あなたも来てください。道々事情を話しますから」
ユリウスも続いて立ち上がり、ランバートも頷く。
「それがいいようだ。さっき、マイラ嬢ともう会った、と?」
「はい、それが――」
話すのはユリウスに任せ、コンスタンスはドレスをたくしあげた。痛む足と高い踵でできるだけ急いで歩き出す。フェルディナントが先へ行って扉を開けてくれた。
長い廊下を小走りで通り抜け、階段の長さにうんざりする。子供の時のように、この手すりに腰をかけて滑って降りたら――半ば本気でそう思ったときだ。
下から、誰かが駆けあがってくる物音が聞こえた。
恐ろしい勢いだった。まるで子供みたいに二段抜かしで駆けあがってくるその人は、まるで大喜びで飛び跳ねているかのように見えた。踊り場で飛び跳ね、そしてその人は階段の上にいる一同に気づいた。
スタローン侯爵だった。
毒々しいまでの喜びをその顔に滲ませている。
「エスメラルダから手紙が届いた」
勝ち誇ったかのように侯爵は言った。
「マイラ=グウェリンは、アナカルシスに嫁ぐのを取りやめるそうだ」
そうして侯爵は、手にしていた羊皮紙を掲げた。
その場に静寂が落ちた。
コンスタンスはしばらくじっとしていた。一番先に動いたのはランバートだ。コンスタンスの脇をすり抜けて階段を駆け降り、侯爵の手からその羊皮紙を奪い取った。食い入るように紙に見入るランバートの横顔に、驚きと怒りが広がっていく。
「……何てことだ。ヴァルターが亡くなった」
「えっ」
ユリウスが続いた。階段を駆け降りて、ランバートの手にした羊皮紙をのぞき込む。「確かですか」
「そのようだ。この手紙の差出人はグウェリン……マイラ嬢の後見人からだ。エルヴェントラ=ル・ヴァルター=エスメラルダの逝去に伴い娘の婚姻を白紙に戻し――」
ランバートが読み上げるのを聞きながら、コンスタンスは靴を脱いだ。
それに気づいたのはフェルディナントだけだ。
「なにしてるの、コンスタンス」
「靴を脱いでるの」
「いやそれは、見ればわか――」
フェルディナントの言葉を背に、コンスタンスは階段を駆け降りた。ランバートが驚く。
「コンスタンス、どこへ行くんだ」
「決まってます。あの方を捕まえに行くんです!」
叫んだときにはコンスタンスはスタローン侯爵の脇をすり抜け、踊り場を折り返していた。ランバートの声が上から降ってくる。
「捕まえ――!?」
「さっき会ったと言ったでしょう!? 冗談じゃないわ、こんなの、絶対に許すものですか……!」
「いや、ちょっと待て! 待ってくれ! ヴァルターが亡くなった今、いろいろとややこしい事情が、」
「そんなの私の知ったことじゃありません!」
裸足になった今、先ほどまでより数段速く動くことができたが、それでも、ユリウスの方が速かった。一階に続く階段にさしかかったところでユリウスが隣に並んだ。ランバートの声が追いかけてくる。
「コンスタンス、待ってくれ! ユリウス、コンスタンスを止め――」
「言っておくけど、止めたら絶交よ」
宣言するとユリウスは笑った。
「止めるわけないだろ」
「じゃあ先に行って!」
「任せて」
ユリウスが速度を上げた。ロビーにいる人々が驚いている。ユリウスが一階についたとき、スタローン侯爵が怒鳴った。
「反逆罪で投獄するぞ!」
思いがけない単語に驚いて一瞬足が止まった。そこへスタローン侯爵が追いつき、コンスタンスの腕をねじりあげた。痛みにうめき声が漏れ、ユリウスが振り返って眦をつり上げる。
「なにをする!」
「それはこちらのせりふだ。マイラ=グウェリンの後見人から正式に拒絶の意志が示された。この上は陛下にご報告し、対応を決めねばならん。勝手な行動は慎んでもらおう」
言いながらも侯爵はコンスタンスの腕をねじりあげるのをやめなかった。肩が外れそうにぎしぎし軋んでいる。が、負けるわけにはいかなかった。
「婚姻は……あの方の希望なんです。あの方が、ご自分で、断るわけがないんです。ランバート様、ヴァルターという方が亡くなった今、この婚姻を成就させることはその方のご遺志を継ぐことにっ」
「黙れ使用人が! 当人の意志など関係ない! 国同士の問題だ、なにもわからぬくせに大口をたたくな!」
言って侯爵は、コンスタンスを階段からつき落とした。
コンスタンスは悲鳴が飛び出さないよう口を噛みしめた。怒りと驚きと恐怖と屈辱で目の前が真っ赤に染まっていた。この上悲鳴など上げてたまるか、そう思った時、駆けつけたユリウスがコンスタンスを抱き止めた。二人は重なりあって倒れた。背をしたたかに打ちつけたユリウスがうめき声を上げる。
コンスタンスはユリウスを覗き込んだ。痛そうにしかめた顔。
「……ユリウス! ごめんなさい、だいじょう――」
「とにかく、この場は私に任せてもらおう。陛下にご報告してくる。戻るまでマイラ=グウェリンに接触することは絶対に許さん。破れば反逆罪で縛り首だ」
侯爵が言い捨てて階段を上ろうとする。コンスタンスは顔をしかめながらも身を起こしたユリウスの手をぎゅっと握って、勇気を振り絞った。
今ならはっきり解る。侯爵は――つまり国王陛下、フェルディナントの兄上は、フェルディナントを殺したくて殺したくてうずうずしている。婚姻を白紙に戻すという手紙を持ってるときの、あの踊るような喜びにあふれた足取りを見ても明らかだ。使用人のコンスタンスはもちろん、シャトーとはいえ未だ爵位のない嫡男のことだって、邪魔をするなら投獄するくらいのことは、やるだろう。
ユリウスを危険にさらすわけにはいかない。
でも、このまま見過ごすことも絶対にできない。
「エルカテルミナがいらしてるんです」
侯爵の足が止まった。振り返った侯爵に、コンスタンスは言葉を重ねる。
「エルカテルミナのご意向なら、陛下もむげにはなさらないのではありませんか。国同士の問題とおっしゃるなら、それこそ、十年以上も重ねられ続けてきた両家の婚姻を、グウェリン家の一存で破棄できるなんて、おかしな話ではありませんか。唯々諾々と受け入れるなんて、アナカルシスの面目が立つでしょうか。殿下、どうぞ一緒にいらしてください。エルカテルミナに誠心誠意心を込めてお話すれば、きっと通じるはずです」
心臓がドキドキしていた。これは賭だ。
あのパトリシアというややこしそうなお姫様は、マイラの婚姻を望んでいないことはあきらかだった。話をしたって通じるわけがない、気がする。
でも、今、スタローン侯爵さえごまかすことができれば。エルカテルミナに話をすると見せかけてマイラを捕まえてしまえば、そしてヴァルターの遺言どおり、二度とあちらに返さなければ、きっと道が開けるはずだ。
この婚姻を整えようとしたヴァルターが、この土壇場で突然逝去した。この死は、自然のもののようには思えない。何がなんだかわからないが、マイラをここで見失ってはいけないことだけはわかる。
不安を悟られないようコンスタンスはユリウスの手を握り、スタローン侯爵から視線をはずさなかった。
けれど、反論は、スタローン侯爵以外の場所から来た。
よろめくように階段を下りてきたランバートは、先ほど以上に顔色を失っていた。コンスタンスは驚いた。ランバートが今にも倒れそうに見えたから。
「……エルカテルミナが、ここに?」
そう問われ、コンスタンスは頷いた。
「ええ、先ほどお会いしたんです――」
「……」
ランバートがコンスタンスとユリウスのところにたどり着いた。くず折れるように座り込み、ふるえる手がコンスタンスの頬に触れた。
「……会ったのか」
「え……?」
「会ったのか。コンスタンス……エルカテルミナに会ったのか」
「え……ええ、お会いしました。とても綺麗な方でした。ねえランバート様、マイラ様が、こたびの婚姻を心から望んでいらっしゃることは明らかだったんです。私、説得します。エルカテルミナだって、誠心誠意お話しすれば、きっと解ってくださいます。幸い、ユリウス様の婚約者というふれこみでここにお邪魔していますから――」
「いかん」
ランバートの手が動き、コンスタンスの手に触れた。ぎゅっと握られて、コンスタンスは息をのんだ。
ランバートの指先からさえ、血の気が失せているみたいだ。何て冷たい指先だろう。
「……いかん。コンスタンス、絶対に、これ以上エルカテルミナに会ってはいかん」
「……え……?」
「エスメラルダに関わってはいけない。マイラ嬢も同意見のはずだ」
ランバートの必死さに、先ほどのマイラが重なった。何か手伝えることがあれば、と漏らしたコンスタンスに、マイラは性急な口調で囁いた。
――いけません。エスメラルダに関わってはいけません。
いったい、何があるというのだろう?
ヴァルターの死を見ても、危険をはらんでいることは明らかだ。でも、コンスタンスはただの使用人だ。この場を何とかしのぐことができれば、後は関わらずに隠れていればいいだけの話ではないだろうか。
ランバートが言葉を重ねている。
「ヴァルターが亡くなり、マイラ嬢が本日ここにいることがエルカテルミナにまで――グウェリン家にもばれている。コンスタンス、貴女の手出しできる状況はとうに過ぎた。こうなった以上、マイラ嬢もこの婚姻に同意するまい」
「そんなこと」
「頼む」
ランバートは床に座り込み、深々と頭を下げた。
「頼む……コンスタンス」
「父上、勝算はあります。まずはマイラ嬢をあちらに返さないことが肝要です。コンスタンスの言うとおり、」
ユリウスが言い、ランバートは、ユリウスを見た。
そしてその細い目に、決意が宿った。
コンスタンスはそれをじっと見た。ランバートは一瞬だけ迷い、そして、覚悟を決めた。体を起こし、静かな声で囁く。
「ユリウス。お前に話さなければならないことがある」
「一刻を争います。マイラ嬢があちらに帰ってしまっては」
「頼む」ランバートはまた深々と頭を下げる。「すべてを話さねばならない刻が来た。行動を起こすのは、話を聞いてからにしてほしい」
「ランバート様、」
「コンスタンス、どうか、お願いだ。マイラ嬢を取り巻く状況は、貴女の想像の範囲を超えているはずだ。下手に動いては破滅を呼び込みかねない。どうか、今は」
「そんな……」
「ユリウス、一緒に来てくれ」
ランバートはゆらりと立ち上がる。ユリウスは少しだけ迷ったが、従うことにしたらしい。コンスタンスに丁重に手をさしのべ、立ち上がるのを助けてくれたとき、スタローン侯爵が言った。
「とにかく、私は陛下にご報告してくる」
勝ち誇ったような声だった。尊大な様子でずかずかと歩いていく。ユリウスは何か言いたそうにしたが、ランバートがユリウスを促した。二人は揃って階段を上がっていく。いったい何を話すというのだろう。コンスタンスはそわそわした。
話している間に、コンスタンスがマイラを捕まえに行くべきなのではないだろうか。
でも、育ての親であるランバートに、あんな口調で頼まれてしまった。身を焦がされるような思いだったが、それでも、ランバートの頼みを無碍にして我を張ることはできなかった。
ずっと踊り場で事態を眺めていたフェルディナントは、二人が通り過ぎるのを待ってから、屈託のないいつもどおりの様子で降りてきて、コンスタンスの隣に並んだ。
「波瀾万丈だね」
まるで面白がってでもいるかのような、まるっきり他人事の口調だった。コンスタンスは苛立った。一番の当事者のくせに、何を暢気な。
「スタローン侯爵を、止めた方がよろしいのでは」
「無理無理。あの人ああ見えて剣術大会の常連だよ。返り討ちに遭うのがオチ」
「そんな。じゃあどうなさるんです」
「コンスタンス」フェルディナントはコンスタンスの手を取り、階段を上がっていきながら、咎める口調で言った。「人目を気にする必要がない場所では敬語を使わないでくれって、何度言ったら聞いてくれるの?」
一度も会ったことがないくせに、と、コンスタンスは思った。
どうしてマイラと、同じようなことを言うのだろう。
「……ねえ、じゃあ、どうする気なの。このまま黙って殺されでもするつもりなの?」
いったいどうしてなのだろう。そう思わないではいられない。
どうして実の弟を、そこまで憎むことができるのだろう。今回の婚姻が整えば、弟は脅威ではなくなる。なのにどうして、この婚姻を破棄したがるのだろう。
「まさか」
フェルディナントはいつもどおりの口調で言った。
「僕はシャトーの二人を信じてるからね」
「……お話って、何なのかしら」
「さあ。あのランバート殿があれほど色を失うんだ。よっぽどの事情があるんだろう」
そう言ってから、フェルディナントは、同じような口調で言った。
「まあ、部屋に戻って食事の続きをしようよ」
「は……はあ?」
「腹が減っては戦はできぬって言うじゃないか。じたばたしたって始まらないよ」
さあさあとコンスタンスをせき立てて、フェルディナントは階段を上っていく。
いったいこの王子様は何なのだ。呆れながらもコンスタンスは、それによって、先ほどの騒動によってささくれ立っていた神経が、少しずつ落ち着いてくるのを感じた。
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