第7話

 博士は王都に出発する日の早朝にガウスの妻の墓にやってきた。まだ、ロボが来るかどうかは分からないが博士はロボなら来ると確信していた。この一か月で理解した彼は私らと同類だ。研究者として真理を追究せずにはいられない、そんな男だ。

 このまま、王都にロボが行くならもうこの村には戻ってこれないだろう。親から子供を預かるのだ、挨拶なしとはいかない。せめて、花を供えさせてもらおう、そう思っていた。

 ガウスの家の近くの墓までたどりついた博士はすでに先客がいる事に気が付いた。それはロボだった。

 足音で気が付いたのだろうロボは博士が近づくと慌てて振り返った。


「やあ、ロボ。謹慎は解けたのかい。母親のお墓参りとは偉いな」


 すると、ロボはまたもや慌てた様に支離滅裂な答えを言い出した。

 その姿は実に微笑ましいものだった。


(さては黙って出てきたな。まあ、それも当たり前か)


 博士は昨日のガウスとの会話を思いだした。


 ***


「理由?理由ならありますよ」


 ガウスは複雑な顔をしていた。そこには、息子に対する思いが現れているのだろう。


「まあ、博士にわざわざ話すような事ではないのかもしれませんがこれでも私は昔王都で修行していた時期があるんですよ。自分で言うのもなんですが村ではなかなか優秀でロボぐらいの年齢の時には村では一番の腕を持っていたんですよ。それで、親たちに勧められて王都で修行することにしたんです。まあ、あまり面白くない話なので結果から言いますと私は王都では全く通じなかったんです。井の中の蛙は大海で見事に溺れてしまったんです。それでも、少しでも王都の技術を吸収しようと王都でもがいていました。そんな頃出会ったんですよ」


 ガウスは酔っているが口調ははっきりしていた。博士はこの話がどうロボに結びつくのか黙って聞いていた。


「私の嫁になる女性リーニャとね。リーニャの父はかなり名の知れたブリーダーで薬草を売って生計を立てていたんです。母親は体が弱かったらしくってリーニャが小さい頃に亡くなってしまったんです。ある日私が親方に頼まれて彼女の父の店に薬草を買いに行った時、店の手伝いをしていたリーニャに会ったんです。恥ずかしながら一目ぼれしてしまったんですよ。すごく綺麗な瞳をしていました。綺麗な澄んだ黒です。私達二人は年も近い事もあってすぐに仲良くなりました。そして、ずっと一緒に過ごすうちに自然と付き合っていったんです。私達は結婚を望み、その事をリーニャの父親に話しに行ったんですが。まあ、勿論断れましてね。当然ですよね、仕事もないクリエイターに大事な娘を預けるわけないんですよ。そこで、私達が何をしたのかと言うと、、、」


 そこで、ガウスは自嘲気味に笑うと


「駆け落ちしたんですよ。勿論、王都にはいられないので私達はこの村に移り住んだんです。ははは、本当にわらえますよね。長い話に付き合って頂いてありがとうございました。ここがロボを行かせたがらない理由です。私はね駆け落ちするときにリーニャが自分についてきてくれる喜びの他に心のなかにほっとしている自分がいる事に気が付いたんですよ。そう、王都から逃げる正当な理由が出来た事ほっとしている自分です。ひどい話でしょう」


「ロボも同様に諦めると言いたいんですか」


 博士はいまいちガウスのいう理由とやらが分からなかった。

 すると、博士の問いにガウスはさっきまでの笑みをやめ覚悟を決めた様な澄み切った顔に変化した


「いいえ、ロボなら諦めないないでしょう。親ばかと言われるかもしれませんがこれでもロボの根性は認めているんです。ただそれが実を結ばないだけで。私もなんとかしたかったんですが私にはどうしようもなかった。だから、応援してやりたいんです、ロボの事を」


「ならば、そういって送りだしてやればいいではないですか。なぜ、反対するのです」


 博士はガウスの考えが分からなかった。その博士の当り前の問いにガウスはにやりと笑うと


「私の場合はどうでしたか。親に送りだされましたが結局はこうなりました。つまり、覚悟が足りなかったんですよ。私はねロボには親の意見なんか夢のためなら蹴飛ばして行くぐらいの覚悟でいってほしいんですよ。残念ながら、親に出来る事なんてこんな事ぐらいです」


 一抹の寂しさを感じさせるガウスの様子に博士は


「くく、、ははははははは」


 爆笑してしまった。ガウスは急に吹き出した博士をぽかーんと眺めている


「なんだ、くく、ガウスどのも、ははは、、ロボの王都行きには賛成だったんですね。くく、、ははははは、、全く、あなたを説得する策を色々考えた私はまるで道化ですな。しかし、ふふふ、親子そろって不器用であるのだな」


 笑い続ける博士に憮然とした表情でいるガウスはせっかくの親としての覚悟を話したのに笑われてつまらない


「そんなに笑わなくってもいいじゃないですか」


「いや、すまない。まさか、こんな形の応援があるとは私もまだまだだな」


 しばらく、お互いに笑った後ガウスは博士を真剣な目で見た。その目に思わず博士もたたずまいを直した。


「博士、もしロボが王都に行くならどうか面倒を見てやってください。もう知っているかもしれませんが、ロボはスキルを持っていません。というか、持つ事が出来ないのです。これも聞きたかったんですが、なぜロボを王都に連れていきたいのですか。聞かせてください」


 やはり、来たかと博士は思った。本当は秘密にしたいがガウスは親として聞く権利があるだろう。

 博士はワインを飲み口を湿らせた。


「ええ、その事もお話しようと思っていたんです。私はロボがスキルを生み出せない理由を知っています。勿論ロボに才能が全くない、そんな理由ではないですよ」


 それはガウスにとって衝撃的な言葉だった。ロボがスキルを持てない理由なんてロボの力不足とばかり思っていた。


「私は王都でスキルの生成を研究しています。スキルにおいて物質に対する認識が重要な要因だということは知っていますか」


「まあ、なんとなくは理解しています」


 ガウスの答えに博士はうなずき続けた


「それではその認識というのはどの程度のものなのでしょうか。ガウスさん例えば剣の長さは日々の気温の変化で長さが変わりますよね。そうならば、その剣は昨日の剣とは違うものなのでしょうか。もっと言うなら一度何かと打ち合えば刃こぼれしたりしますよね。つまりはその剣は一瞬ごとに違う物に変化しているといえるのではないですか」


「ちょっと待ってくださいよ。何を言ってるんですか。刃こぼれしようが気温の変化程度で少し長さが変わろうが別に本質は何も変わってはいないでしょう。そんな事意識できるわけがない」


 話しの見えないガウスは少しいらついた。博士はこういう所があるから苦手だ。いつも、少し話をわかりにくくする。単刀直入に言ってほしい。

 しかし、ガウスのイラつきには全く気付かず博士はガウスの言葉ににやりと笑った。


「そう、問題はそこなのです。そのわずかな違いに気付けるかどうか。その差が運命を分けるのです。では、仮定の話をします。先ほどの例えの様なわずかな気付く事なんかほぼ不可能だという変化に気づいてしまうクリエイターがいたらどうします。いや、気づけばいいがもし無意識の内にその違いを認識してしまい鋳型を作ってしまったらどうなると思います」


 ガウスは考え込んだ。そんな事は考えもしなかった。


「そうですね。自分の認識と鋳型に生じたわずかな違いによってスキルが出来ない、とでも言うんですか」


 ガウスの答えに博士は我が意を得たりと満面の笑みを浮かべた。


「その通りだ。ガウス殿。その我ら人間には認識も防ぐ事もできない鋳型に生じる誤差があなたの息子ロボを落ちこぼれたらしめているのです。彼の持つそのあまりに鋭い感性が鋳型の認識を許さないのです」


「そんなバカな。いくらなんでも飛躍しすぎていませんかね。そりゃあそんな人もいるかもしれませんが、ロボはそんな兆候を見せたことなんてありませんよ」


「うむ、言っても信じられんだろう。そこであの実験だ。ロボにやらして見せた鋳型なしでのスキルの生成実験」


「そういえば、あれは何だったんですか。そもそも成功したんですか?」


「ああ、どうやらロボは成功したらしい。とはいえ、あれは厳密な意味でスキルとは言えませんが」


「つまり?」


 しばらく、博士は黙っていた。何を言うか迷っているようだ。


「ガウス殿、これから言う事は内密にお願いしたい。私はガウス殿は父親だから知る権利があると思い言うのだ」


 ガウスはその博士のただならぬ雰囲気に思わず唾をのんだ。


「何ですか、その内密な話というのは」

「まず、ロボが生成に成功したのは剣そのものではなく剣という概念です。ロボは鋳型を作ってしまうと測定不能の誤差によりスキルの生成が出来ません。ならば、頭の中に論理的に矛盾のない鋳型を作ってしまうのです。頭の中で作ればそれはまさに理想の鋳型。それは自分の考えた物と寸分狂わない物だ。だから、ロボでも作ることができた。しかし、同時に頭の中に理想として作った鋳型なので生成された剣も概念の具現化でしかない、ましてや、まだまだ知識のたりないロボが作った物だから一瞬にして消えてしまった。ここまではよろしいか」


 ガウスは今日ここにきてからというもの面を食らってばかりだ。


「よろしいか、と言われましても。まず、そんな事が出来るとは思えないし、それは鋳型からスキルを作るよりもはるかに難しい事にしか思えない。ロボにそんな事が出来たとは思えないのです」


「ふむ、気持ちはわかる。私もこの事実が発覚したときは驚いたものだ。だが、ロボにはこの方法があっているのだ。というよりこの方法以外彼がまともに物をつくる事はできないだろう」


「まあ、それが事実と認めるとしてなぜこれが内密な話なのですか」


「それはな、私はこの実験にはまだまだ先があると思っている。いまだ成功したことはないが。私は鋳型とは誤差の許容を利用したスキル生成の補助だと考えています。つまり、鋳型は計算における途中式に似ている、途中式を書けば計算は楽に行えるが別に無くとも頭の中で計算することはできる。それが完璧であれば計算結果は同じです。何かを作ろうと考えそれに対して頭の中で完璧な鋳型を作れたとしましょう。ならば、結果は鋳型を実際に作った場合と同じだと考えられる」

「はあ」

「そして、ここからが大事だ。ならば、頭の中に想像さえすればいいのなら」


 そこで、博士は不敵に笑った。不思議と嫌味な感じではなく魅了的な笑みである。


「この世に存在しない物だって生み出せるのではないですか」


 ガウスは博士のあまりにも突飛な発言に口をパクパクさせるしかなかった。


「博士そりゃあいくらなんでもおとぎ話ですよ。だいたい、この世に存在しない物をどうやって論理的に考えるというのです。めちゃくちゃだ」

「いや、そうとも言い切れませんよ。これからが内密にしてほしい理由です。長々とお話に付き合って頂いてありがとうございました。実は」


 そこで博士はガウスの耳元に顔を寄せ。小さな声で言った。


「王国はそのこの世にい存在しない物質を生み出そうとする者を秘密裏に処刑しているのです」

「えっ、どういう事ですか?」

「私の他にこの研究していた仲間は謂れのない罪で急に処刑されています。恐らく、この技術確立によるクリエイターの台頭を恐れているのでしょう。今、クリエイターの立場はどんどん悪くなっています。なぜか。それは王都に来たことのあるガウス殿なら理解できるでしょう」


 ガウスは昔の事を思い出し苦虫をかみつぶしたような顔になった。


「魔法使い。しいては、彼らの生み出す魔法具マジックアイテムですか?」


 博士は重く頷いた。


「その通りだ。彼ら魔法使いは我らクリエイターが支配されながらも利用している物理法則をどこ吹く風と軽々無視しています。国の大規模な建築事業はことごとく魔法使いがやってしまう。こちらがいくら革新された先端技術を開発しても、魔法使いが生み出す魔法具マジックアイテムに比べれば子供のおもちゃだ。我々が上回っている事といえばスキルによる大量生産で安価な物を作り出すぐらいの事だ。だが、それも現状を打破するほどではない」


 ガウスが王都にいた頃と状況は何も変わっていないらしい。いや、もっと悪くなっているのだろう。


「しかし、もしこの仮定が成立するなら、そして成功したなら。私達は物理法則を超えた超理論を手に入れ魔法使いに肩を並べる、いや、越える事が出来るだろう。だからこそ、彼らはこの研究を恐れているのだ。一度作ってしまえばいくらでも大量生産するクリエイターが魔法具マジックアイテムに匹敵するものを作れたならばどちらが優位にたつか、それは火を見るより明らかだからな」

「なるほど、納得しました」


 そういって、ガウスは博士を睨んだ。


「そんな、危険な実験と分かっていてなぜロボにやらせたのですか。これじゃあ、まるでロボを奪うために私をまんまと策略にはめたとしか思えない。納得いく説明をお願いします」

「ふむ、納得いく説明は無理かもしれない。だが、これは確信を持って言えるのですがロボは私が何も言わなくてもこの問いに一人でたどりついたでしょう」

「なぜ、確信を持てるんですか」

「理由は二つある。まず一つは歯車に対する見解だ。覚えていますか、私が彼に歯車の事を聞いたときなんと答えたか。''この世のものではない''と答えたのです」

「それが?」

「ふふ、まさにその通りなのだ。あれは我々が古代高度文明遺産オーパーツと呼んでいる物です」

「オーパーツ?」

「そう、それは世界各地にあり邪魔な古代のお荷物と思われていますが私の考えが正しければ」


 そこで博士は重大な秘密を打ち明ける様な子供の様な顔でこう言った。


「あれはこの世に存在しない未知の物質で出来ている」


 ガウスは今日この一晩だけで何回度胆を抜かれたか分からなかった。


「不思議に思ったでしょう。なぜ、そんな代物を魔法使い達が放っておいているのか。それは、ロボの様な精度の感性がなければあれは普通の人にとってはただの鉄にしか感じません。つまり、まだ魔法使い達はあれの正体を知らんのです。知れば、すぐにでも壊すでしょう」

「それで、あれがそんな代物だとして。ロボとなんの関係が」

「ロボは歯車を毎日、病的なまでに見に行ったのでしょう。そして、剣のスキルはからっきし身に着かなかった。ならば、次に彼が思いつく事はなんだと思います」


 ガウスはロボの性格を思い返した。そして、結論にいたった。


「まあ、歯車を作ってやろうと考えるでしょうな」

「そうだ、そして彼は決して馬鹿ではない。必ず材質が鉄ではないと気付く。そうなれば、彼は一人で実験を行う事になる」

「いい加減にしてくれ、まるでロボの事をなんでも知っているように話さないでくれ。たかだか一か月過ごしただけで何が分かるというのだ。私もこれでもクリエイターの端くれ、王立工匠のクリエイターがどんな奴らかなんて分かっている。そうやって、小難しい話をして事実をうやむやにして自分の事だけ考えて行動するんだ。はっきりと言ったらどうです。ただ、自分の実験のためにロボが欲しかったと」


 ガウスと博士はしばらくじっとお互いを睨みあった。

 沈黙を破ったのは博士であった。


「やれやれ、ガウス殿は全く頭が切れて敵わないな。では、正直に申し上げよう。私はロボが欲しくて、ロボの才能をみすみす手放すのは惜しいと思い、そしてそれが本物か確かめたいがために実験をさせた。だが、それは決して私欲ではない。今、クリエイターは危機にひんしている。この状況を打破するにはロボの才能が必要だ。王立工匠にロボが来ること、それは彼のためでもあるし世界のためでもあるんだ。どうか分かってほしい、私は彼を実験動物と思っているわけではない、私達と共に世界の第一線で戦う同志として迎え入れたいのだ」


 ガウスはなぜ自分の夢を諦めたかを思いだした。彼らだ、王立工匠のこの異常ともいえる真理への探究心。全てのクリエイターは真理の探究のためなら命がけだとかんがえているのだ、それが正しいと考えているのだ。そんな域に達するのは、いや、その異常な考えを何食わぬ顔で持てるのは一部だけとも思わずに。

 また、負けてしまった。ロボに実験を行わせた時点でこちらはロボの身を案じるのなら王立工匠に行かせるしかない。それが命がけの道だと分かっていても。少なくとも、ロボはここで実験を行うだろう。言っても聞かない奴だそれは昔から知っていた。


「悪魔め」

「何とでも罵ってくれ。あなたにはその権利がある。ただ最後に、もう一つの理由を言っていませんでしたね。お見せしましょう」


 博士はそう言うとおもむろに手を出した。そこに急激にクリエイトが集まっていく。目に見えるほどの量だ。

 そして、なんとそこに。青色の透き通った剣が出現した。


「それは、まさか、、、」

「ええ、これはロボが生み出した物と同じものです。私は昔、共にこの研究を行っていた仲間のなかでは一番才能がなかった。だからこそ、仲間が次々と殺されていく中でも私だけは見逃されたのだろう。この概念物質を生み出すのにも何十年とかかった。だからこそロボには驚愕した。昔の仲間にも一週間で成功させた者などいない。まさに、天賦の才。そう言わざるおえない」

「という事はまさか博士も」


 博士は悲しそうにうなずいた。


「ご推察通り、私はロボと一緒でスキルを作れない。それでも、なんとか誰よりも勉強して技術を生み出し今の地位にしがみついている。ガウス殿、あなたはさっき私がロボの事を知らないと言いましたな。おっしゃる通り私とロボが一緒に過ごした日々など父親であるガウス殿とロボの今までと比べればちっぽけな物でしょう。だが、それでも私にしか分からない事もある。スキルを作れないクリエイターの気持ちなら私の方が理解できる。ガウス殿」


 ガウスは博士の取った行動に度胆をぬかされた。博士は平民のガウスに向かって地べたに伏せ頭を下げたのだ。


「どうか、信じてくれ。私はロボを守りたいのだ。ロボの才能は隠しておける物ではない、私がこなくても遅かれ早かれ彼は気づいた。これは間違いない。そうなれば、魔法使いは彼を殺すだろう。それだけは、看過できない。もう、同志が死んでいくのを見るのは嫌なのだ。どうか、どうか私を信じてロボを預けてくれ。この命に代えて彼を守る。天に誓って本当だ」

「、、、顔をお上げください」


 博士は顔を上げた。そこには、ガウスの涙にぬれた顔があった。


「全く情けない話だ。てめーの息子一人守る力がなくて他人を頼るしかないとは。リーニャに会わせる顔がないな。妻はロボを生んだときに亡くなったんです。母親と同じで体が弱かったんです。お産に耐えられなかった。リーニャに頼まれたのになロボを頼むと」


 ガウスは乱暴に涙を拭うと


「改めて、お願いします。ロボの事頼みました。あいつの事だ俺が何も言わなくても勝手にいくだろうさ」

「うむ、ロボはガウス殿の息子なのだ。未来を恐れたりはしないだろう。ガウス殿、ご理解感謝する。その胸中は私には理解しがたいほどでしょう」

「もう、帰ります。ああ、そうだつい長居してしまった。ロボは腹を空かしているだろうな。ハムいくらかもらってもよろしいか」

「ええ、いくらでも持って行ってくれ」


 そして、ガウスはハムの塊とパンを持ち博士の部屋を後にした。


 ***


「おい、ロボ。遅くなったな。博士からハムとパンをもらってきたぞ食うか?」

「、、、いいよ、いらない」

「そうか。もう博士の事なんて忘れて寝ちまえ。寝れば大抵の悩みは解決するんだ」


 ガウスはできるだけ元気な声をだした。

 本当は応援してやりたかった、辛かったら戻ってこいと言いたかった。だが、それではだめなのだ。ましてや、ロボの行く道は自分が歩んだ道よりもはるかに険しいのだろう。ならば、自分が出来るのはロボを信じて突き放し覚悟を固めさせる、それだけだ。


 ガウスは涙を堪えながら


「じゃあな、ロボ。元気でな」


 それだけ言った。

 この声はあまりにも静かだった。

 ロボに声は聞こえていない事を知りながら、ガウスは床に就いたのだった。

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