第4話
オイラーは驚きと感心を持っていた。小さな村のどこにでもいる少年と思われたロボにだ。ロボに科学の手ほどきをして早一週間がたったが、彼の勉学への熱意と好奇心さらに吸収力は尋常のものではなかった。
まず、彼は読み書きと少しの算数の知識があった。これは、平民としてはかなり優秀な部類に入る。誰に習ったか聞くとどうやら父のガウスに習ったらしい。あの鍛冶師のガウスの腕は相当な物であったし、読み書きが出来る所を見ると、おそらく王都の出身なのではないかと推測された。
何はともあれロボが読み書きが出来た事で勉強はとても捗った。ロボは何にでも興味を持ちオイラーが持ってきた本をオイラーとの勉強の時間外でも読み漁って疑問点をオイラーにぶつけてきた。
ロボは間違いなく学者としての才能があるだろう、正しく育てばその才能を開花させるかもしれない。だが、このくらいの才能の持ち主なら王都にいないわけではない。
そのうえロボは平民である。他の優秀な貴族を圧倒する位の力を示さなければならない。それがなければ学者として平民が生き残ることができない。
オイラーの見立てではロボはその可能性があるかもしれない、根拠はロボがまだ1つもスキルが持てていないということだ。オイラーにはその現象に思いあたる節があった。
「見極めなければ。彼は宝石の原石かそれとも唯の石ころなのか」
オイラーは王都から離れた小さな村に王立工匠団の博士として調査をしに来た。王立工匠団とは王都に本部を置き優秀なクリエイターを集め研究を行い新技術を生み出す事を目的とする組織である。王立の組織には同じ様に王立騎士団、王立魔法団、王立農学団がある。それぞれ、戦士、魔法使い、ブリーダーが司っている。騎士団と魔法団は国の軍事面もまかされているので必然的に強い権力を持っている。さらに、平民も登用可能であり訓練学校も豊富にあり中には平民も通える所があり構成員も優秀である(まあ、幹部は貴族が占めているが)。しかし、農学団と工匠団も平民を登用可能であるが平民が通えるほど安い学校はなく下級貴族ですら学費を払えない場合がある。
そんなわけで農学団と工匠団は上級貴族により構成され人員も国からの資金も少ない。
オイラーはこの現状を嘆き運営資金の改善と公立の学校の設立を訴えているが聞き届けられたことがない。
そんな、工匠団を最近賑わせているのが古代高度文明遺産オーパーツだ。それは世界各地にあり、現代の技術をはるかに超えた代物である。一体何のために生み出されたのか、どうやって作られたのか。オイラーはそれを解明し自分達の手で再現したいと考えていた。それが出来ればこの国の技術は信じられないほどの発展をみせるだろう。
この村にある歯車はオイラーの見立てでは十中八九古代高度文明遺産オーパーツだ。
その理由はいくつかあるが、まず一つ一つの歯の寸法の精度が異常なほど良いのだ。これほど巨大な物体をこの精度で加工するのは至難の業だ。もう一つはこれが決定的だったのだが、歯車の材質だ。この材質は最初、鉄だと思っていたが実は違っており鉄よりも軽く強度も段違いな物質で作られていたいたのだ。オイラーはできるだけその物質について調べたが一致する特徴をもつ物はなかった。
つまり、これは未知の物質なのである。
***
「それでは、今日の講義を開始する。今日はクリエイトについて教えよう」
「お願いします」
ロボにとっては切実な問題である、クリエイトだ。もしかしたら、なにかきっかけを掴めるかもしれないと意気込んだ。
「クリエイトがクリエイターの持つ力の源ということは知っていると思う、我々はこのクリエイトを使い物質を創造したりする。だが、今のところそのクリエイトが物質に変換される仕組みはまだ解明されていない。一説には物質とはエネルギーなのではないかと言われているが仮説でしかない。だが、もしその仮説が証明されればクリエイトが物質を作り出す理論を説明することも可能であろう」
ロボはオイラー博士から物理の手ほどきをすでに受けていた。だからこそ物質がエネルギーというのはなんだか不思議な理論の様におもえた。エネルギーとはつまり能力の値といえる。例えば、手で持ち上げた石を上から落とすと、下に向かって落ちる。これはエネルギーの観点から見ると手で上に持ち上げる事により下に向かって落ちるという能力を石に与えたということだ。
それならば、そこら辺に落ちている石は物を走らせたりするエネルギーを内側に秘めているということなのだろうか。
その事をオイラー博士に聞くと
「うむ、もしこの仮説が正しくて逆に物質をエネルギーに変換する技術があれば石が物を動かすこともあるだろう。さて、それではスキルについてだがこれについてクリエイトにくらべかなり分かってきている。君も気になるだろう。スキルを持つということは自ら生み出した製品を概念化するということであるというのが今の主流の考え方だ。概念化するということはつまり、その物の仕組みを理解することといって過言ではない。職人たちは鋳型を自分の手で加工し作ることによってその仕組みを知り概念化することでスキルを手に入れるのだ」
ロボはその理論が実にしっくりきた。つまり、ロボがスキルを手に入れられないのは鋳型の出来が悪いからではなく剣という物についての理解が足りないということなのだ。
「なるほど、ではどのくらいの理解度があればスキルを作れるのですか」
「それなのだが、それは個人差がある。まあ、その個人差こそ職人の腕前の差なのだが。つまり、ロボ、君がどのように物事を捉えているのかが重要なのだ。剣とはつまりなんなのか。鉄の塊と考えるのか、それとも加熱したこと、叩いたこと、冷やしたことこれらによりただの鉄ではない何かに変化したのか。君が剣という物を自分なりに解釈した時君は君だけの剣を生み出すだろう」
ロボは自分の今までを振り返った。確かにいままでそんなに深く剣について考えてこなかったかもしれない。なぜ、鉄は熱するとやわらくなるのか。叩くとなぜ伸びるのか。そんな事も分からず、まして考えようともせずスキルなんて手に入らないのかもしれない。
「なんだか、大事なことが分かった気がします。博士ありがとうございます」
「ははは、そんな事を言われると教師冥利に尽きるよ」
すると、ロボの中にある一つの疑問が浮かんだ。
「博士、物を概念化するとスキルに出来るのなら、概念化さえできれば鋳型はいらないという事ですか」
「ふむ、、、」
博士は突然考えこんだ。ロボの方は何気ない質問だったので少しその様子に驚いた。
博士は何かを決定したかの様に顔を上げると
「どうだと思う」
逆に聞いてきた。
講義で何か問題を出す事は何回かあったがこんな風に試す様に聞いて事は初めてだった。
「えーと、無理だと思います。剣を作るということだけでも中々複雑ですし、それにそんな事してる人見たことがないです」
「なるほど」
博士はそう答えながらもその答えには納得していない様子だった。
博士は青い目でロボをじっと見つめて
「実は私はあと一週間ほどしたらこの村を去って、王都に戻るつもりだ」
突然そんな事を言った。
ロボはこの時間が永遠に続くとは思ってなかったがこんなに早く別れがくるとは思わなかった。そしてなぜ博士がこのタイミングで言ったのかわからなかった。
しかし、その答えは次の瞬間に分かった。
「そこでだ、君の力を見せてほしい。つまり、あと一週間研究してみてほしいのだ。研究内容は"クリエイターは鋳型がなくてもスキルを作れるのか"だ。きみなりの答えを出してほしい。もちろん、私も手助けをしよう。その答えは教えないが。あと本も自由に見るといい。どうだ、やってみるかね」
博士はどこか期待しているかの様にも見えた。何にかは分からないが。
そうはいっても、一週間で答えが出せるとは思えない。まだ、科学について触りのところしか教えてもらってないのだ。
だけど、ロボの心のどこかでやってみたいという気持ちもあった。自分で仮説をたてそれが証明された時の感動を味わってみたかった。
そしてなにより、博士の期待に応えたいと思った。
「やります」
気付いたらそう答えていた。自分でもびっくりするほど力強い声がでた。
その答えを聞いてやっと博士は満足したような顔を見せた。
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