第10話

彼氏


そんな彩香にも彼氏がいた。浪人中働いていた新宿のファーストフード店で初めて「研修」をしてくれたのが彼だった。祐也はアルバイトの中でも社員一押しでリーダーを任されて、仕込みからバンズ、肉を焼くのから、レジ、さらには発注まで、オールマイティにこなしていた。

祐也は色が白く古風な面持ちをしていて、イケメンというよりは男前という言葉がぴったりだった。

ある時、みんなで歓迎会をしてくれることになり、幹事の祐也がみんなのメールアドレスを聞いて回っていた。


これがチャンスに違いない。


そう思った彩香は根拠もなくこの歓迎会で祐也と仲良くなろうという自信が湧いてきた。


アドレスみんなの教えてもらってるんだけど?


みんなの1人の私に祐也が聞いてきた。

私は身体では経験しているが、心の経験が乏しく、心臓が飛び出しそうになりながらアドレスを見せた。


これ、オレのだから登録しといて。


祐也のヘナチョコな時のアドレスが書いてある紙切れをもらった。


嬉しい〜


アドレスを登録してアルバイト帰りにメールをした。


彩香です。歓迎会を開いてくださり、ありがとうございます。登録よろしくお願いします。


歓迎会はまずボーリングから始まった。ボーリングはその頃特に廃れていて、私も小学生ぶりだった。ただその古風な祐也が人数が15人ということでボーリングを提案したらしい。


そのボーリング場はラブホテル街の奥にあった。2チームに分かれてプレイしたが、そこでは祐也と一言も交わすことが出来なかった。

そのボーリングで一つ年上の由香さんと仲良くなった。

ボーリングの後は近くの居酒屋で飲み会になった。正式には彩香も含めて未成年が何人かいたが、この頃はまだ、居酒屋の規制も緩く、高校生でもバレなければ飲める時代だった。しかもその飲み会には社員も参加していたのに、アリだった。

男女分かれて席に着き、乾杯しそれぞれゆっくり飲んでいた。そんな時、若手の男性社員がこんな発言をしているのを耳にした。


祐也は誰が好きなんだよ?


私は由香と会話しながらもその祐也の返答に耳を傾けた。しかしながら、周囲の雑多な音で肝心な部分は聞き取れなかった。


そんな流れから、女子7名も誰彼が好きだのという会話で盛り上がった。入ってまだ1ヶ月も経たない彩香がその女子6人に話さなければならない空気になってしまった。


祐也さん、、


そういった時、由香の目が輝いた。


じゃあ私が手伝ってあげるよ!




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