第41話 元王様 VS 【探偵斬り】
自分の知覚外からこちらの位置を把握し、転移魔法で移動してきた。シンタのその驚異的な能力の高さを感じ取った【探偵斬り】はバックステップですぐさま距離を取る。
ヒカルを人質に取ることも考えたが、シンタの力量が分からない以上、人質は足手まといになる可能性もあったからだ。それにヒカルがシンタの中でどのくらいの位置の人物なのかもわからない。人質を取った場合、シンタの反応を待ち、後手に回る必要がある。身動きの取れない人質は逆を言えば足かせにもなりうる。状況によっては不利に傾くのは【探偵斬り】のほうだからだ。
「ヒカル。まさか洋平とのSMプレイに熱中して母上との約束を破ったわけではあるまいな?」
警戒している【探偵斬り】を無視してシンタはヒカルに話しかける。シンタからしてみればヒカルを見つけて現れたはいいが、ヒカルは鎖で縛られている。その傍らには洋平の姿。状況把握に苦労していた。
「そんなわけないでしょ」
馬鹿、と悪態をついてヒカルは咳をする。緊張していたところからようやく安心していたので今まで押し殺してきた感情がこみ上げてきたのだろう。涙が今にも零れ落ちそうだ。強がってはいるがヒカルはこの間までただの女子高生であり、命の駆け引きなどしたことがない。
「あいつは悪魔よ。洋平さんじゃないわ」
「悪魔?」
ヒカルに言われ、ようやくシンタは【探偵斬り】のほうを見た。小さな体に似合わないその鋭い視線は【探偵斬り】の胸のペンダントを見据えていた。
シンタが昼間に見た野間洋平とは違い、今の彼は赤い眼をしている。
「装飾品につけた呪いか」
「知ってるの?」
うむ、とシンタは頷く。
「古典的だが実に有効的な手段だ。熟練した魔法使いでもこの眼で確認しなければ見落としてしまう。我の世界でも一時期、敵国の混乱を招くために使用されたことがある」
「勝てるの?」
ヒカルの問いかけにシンタはにこりと笑った。
「我を誰だと思っている? かつては一国を治めた長だぞ。任せておけ」
「……洋平さんを助けられる?」
「それは」シンタは洋平の身体を乗っ取った【探偵斬り】と向き合った。
「善処しよう」
シンタは魔力を空間に充満させる。魔力を感じ取れないヒカルでも空気がピリピリしたのを感じるほどだ。
シンタに対抗するように【探偵斬り】も魔力を放つ。
二人のちょうど中間で魔力同士がぶつかり、激しい余波を生み出す。風が吹き荒れ、空間が歪み、火花が散った。
戦闘態勢は万全だ。
「ここは戦うには狭すぎる」シンタはチラリと一瞬だけヒカルのほうを見た。「まずは場所を移そうか?」
「そうかい? 戦うには十分な広さだと思うけどな」
【探偵斬り】の言葉にシンタは首を傾げる。そして、ようやく納得した顔をする。
「日本語が下手で勘違いさせたようだ」
シンタの眼が色を持つ。
「我が言ったのは提案ではない。―――命令だ」
シンタが腕を横にふるう。それと同時に魔法が展開された。
【探偵斬り】が魔法を感知した瞬間にはもう遅かった。巨大な風が吹き荒れて大の大人である【探偵斬り】を吹き飛ばす。台風など眼ではない局地的な暴風。
叩きつけられるはずの工場の壁はすでに切り落とされており、【探偵斬り】は気がつけば工場の外を転がされていた。
それはつまり、シンタが【探偵斬り】を吹き飛ばす風魔法と工場の壁を切り裂く風魔法をあの一瞬で同時に発動させたということになる。
「無詠唱魔法。しかも、あれほどの威力を一瞬で?」
ヒカルの前では陽気だった【探偵斬り】も余裕がなくなり、口調もガラリと変わっていた。
雰囲気が変わったのは【探偵斬り】だけではない。目の前にいるシンタも魔力を体に纏わせ、先ほどのヒカルに対する優しい姿勢は一変して、抜身の日本刀のような雰囲気を漂わせていた。シンタの濃密な魔力は周辺の空間を歪ませるほど強烈だ。
強い。無詠唱魔法の同時発動。そして、それでいてあの威力。シンタの実力は悪魔の中でもトップクラスだろう。【探偵斬り】は確信する。
この少年は自分に匹敵する能力を持っている、と。
「まさかこの世界でこれほどの魔法の使い手と出会えるとは。本当に驚いたよ」
「我もこの世界で悪魔と会うことになるとは思わなかった」
シンタの言いようはまるで別世界から来たかのようで、【探偵斬り】は疑問を覚えた。
「他の悪魔に会ったことがあるのかな?」
「何度か、な。人の心の闇に巣くう寄生虫のような生き物だな、貴様らは」
安い挑発だ。そんな物に俺が乗ると思っているのか。
どうあがこうともこちらの優位に変わりはない、と【探偵斬り】は内心で笑う。
「寄生虫、ね。おそらく下級悪魔を何匹も相手にしていい気になっているのでしょうね。親切心から言っておきますが、俺は上級悪魔ですよ。格が違うのです」
「格、か」
「下級悪魔が百体集まろうと上級悪魔には遠く及ばない。それくらいの絶対的な力の差が存在するのです。今、お前の目の前にいるのはそんなはるか高みの存在なのです」
「ほう」
【探偵斬り】の言葉は丁寧であるようで乱暴でもあった。野間洋平の身体を乗り移ったばかりの影響もあり、まだ人格が安定していないからだ。
【探偵斬り】としては圧倒的な力の差があるという事実を突きつけられて、絶望するシンタの顔を見たかった。しかし、期待は外れる。
シンタは眉一つ動かさず、【探偵斬り】の話を聞いていた。
「それにお前のさっきの攻撃。俺に傷を負わせるような攻撃もできたはず。しかし、お前はしなかった。理由は簡単です。この野間洋平の身体を傷つけることができなかったからだ。お前は俺を傷つけることはできず、俺は攻撃し放題。やりたい放題なのです」
【探偵斬り】の言葉にようやくシンタは眉をひそめた。その反応を【探偵斬り】は図星だと認識する。
「最初に圧倒的な力を見せつけてこちらを混乱させようと思ったのでしょうがそうはいかない。俺の勝利は変わらない」
【探偵斬り】は魔法の炎球を自分の周囲に展開する。その数、数百。
一発一発が人を殺すのに十分な威力を持っている。それを【探偵斬り】はシンタに向けて放った。
シンタはすぐに前面に魔法の壁を展開し、それを防ぐ。正確にはそうするしかないように誘導したのだ。
「それくらいは想定済みだよ」
悪魔と魔法使いとは魔力の運用方法が大きく異なる。魔法使いは詠唱することによって魔力を属性変換して攻撃する。それに対して悪魔は魔力そのものがすでに属性を帯びているのだ。だから、魔力の塊を放つだけで攻撃になる。
魔力の運用に関してワンクッション必要な魔法使いと比べて悪魔は圧倒的に発動タイミングが早い。そして、それは魔力の無駄遣いの減少にもつながる。
高速戦闘が当たり前の戦いにおいてそのワンクッションは致命的なものだった。
代わりに悪魔は自身の属性が決まっており、それ以外の属性が使えない、という制約もある。
【探偵斬り】の属性は炎。水や風は使えないが、上級悪魔である彼の炎は人を一瞬で灰にすることができる。
先ほどは言わなかったが、悪魔にはさらにもう一つ有利な点がある。悪魔に取りつかれた野間洋平は身体能力が向上し、人間を超えた動きが可能になっている。ことだ。魔法使いは魔力の運用が重要で体を鍛える者が少ない。それゆえ反射神経が必要とされる接近戦に弱いのがセオリーだ。
しかも、上級悪魔である【探偵斬り】の身体能力向上は下級悪魔の比ではない。それをシンタは知らないはずだ。
強い魔法使いであり、優れた戦士でもある。まさに【探偵斬り】は驚異的な敵であった。
強い魔法使いでしかないシンタに勝ち目はない。と【探偵斬り】は確信していた。
無数に作った炎の球は目くらましに過ぎない。シンタの視界を遮り、【探偵斬り】の姿を見えなくするのが目的だ。
【探偵斬り】はその優れた身体能力で十メートル以上飛び上がった。瞬く間に魔法の壁を展開するシンタの後ろを捉えた。
その右手には最上級の炎を圧縮したものがある。
これで終わりだ。
【探偵斬り】は炎を放ち、無防備なシンタの背中に放った。
死角からの思いがけない攻撃にシンタは避けることもできない。他の魔法を発動させる隙も【探偵斬り】は与えなかった。瞬く間に燃え上がった巨大な炎はシンタの小さな体を飲みこみ、大きな火の山となった。
「ハハハッハハ。地獄の炎は熱いだろう。踊り狂うといいさ」
【探偵斬り】はわざと炎を弱め、シンタの身体が焼け残るように調節していた。灰にしてしまってはつまらない、と考えたからだ。シンタが炎に焼かれ、もだえ苦しむ姿を見る。そして、シンタの焼死体をヒカルに見せつけ、絶望させる。一度で二度おいしい。それが【探偵斬り】の狙いだった。
しかし、その狙いは簡単に外れた。
「踊りか。ダンスパーティは何度も経験したが」
シンタの断末魔は聞こえず、平然とした口調が炎の中から聞こえてきたからだ。
「―――我は踊りが苦手なんだ」
会話しているうちにも【探偵斬り】の放った魔法の炎が収縮していく。悪魔の魔力のこもった炎は雨であろうと消えることはない。燃え始めたら最後、使用者が発動を消すか、発動に使用した以上の魔力を込めるか。それしか手段はない。
先ほどまで塔の様にそびえ立っていた炎は最終的に手のひら大の大きさになり、シンタはそれを握りつぶした。
シンタの表情は先ほどまでと同じ、ひどく冷めた様子で焦った仕草もない。
服装に乱れもなく、焦げ目どころか皺一つついていなかった。
「そんな馬鹿な……」
威力を弱めたとはいえ、シンタの隙をつき、死角を狙った。直撃したはずだ。それなのにシンタは息も乱れず平然としていた。
「だが、安心してくれ。踊るのは苦手だが、躍らせるのは得意だぞ」
そう言ってシンタは掌に炎を作り出す。綺麗な蒼の炎。
「蒼い炎だと?!」
「ガスコンロの火をイメージして作ったオリジナル魔法だ。被験者第一号になれてよかったな」
まずい。
【探偵斬り】は直感的にその炎の危険度を察知する。逃げなければならない。その人を超えた身体能力を持って【探偵斬り】は回避を試みる。
しかし、シンタがそれを許すわけがなかった。
「逃げ場なし。死角なし。生者なし。全てを飲みこめ。『獄炎』」
魔法で生まれた炎はシンタを中心にして蜘蛛の巣を辿るように広がっていく。詠唱通り、逃げ場を奪う範囲攻撃だ。蒼い炎はものすごい速度で地面を這い、食い散らかしていく。炎を飛び越えれば躱すことができる。だが、先ほどの様に宙に飛べば今度は【探偵斬り】が無防備な姿をさらす羽目になる。
それにシンタの自信ありげな顔がそれを狙っている気がして【探偵斬り】は動くことができなかった。
広範囲を覆うように放たれた炎を【探偵斬り】は躱すことができず、自身の炎で迎え撃つしかなかった。
「その程度の炎で我の炎を防げるわけがなかろう」
【探偵斬り】の逃げの一手をシンタを鼻で笑う。
シンタの言う通り【探偵斬り】の炎を軽々と貫き、蒼い炎が襲い掛かる。こうなっては打つ術がない。【探偵斬り】の服に燃え移った蒼い炎は瞬く間に大きくなり、大の大人を覆いつくす。
「ぐああああああああああ」
青い炎に包まれた【探偵斬り】は火に焼かれ、もだえ苦しむ。その叫びは人を超えた叫びで壊れたラジオの様に二人の悲鳴が同時に聞こえてきた。
上級の炎の悪魔として炎に対する耐性が高い【探偵斬り】であろうとシンタの蒼い炎には関係がなかった。ただ何者であろうと燃やし尽くす炎の役割を果たしていた。
蒼い炎に焼かれて地面を転がり続ける【探偵斬り】の姿をシンタは感情のない目で見ていた。
そして、ただ一言だけつまらなそうに呟く。
「流石は炎を司る悪魔だな」
蒼い炎が燃やし尽くしても【探偵斬り】はまだ生きていた。ただし、息も絶え絶えで虫の息。全身は酷い火傷で爛れていて思わず目をそむけたくなるほどの状態だ。生きているのが不思議なほどだった。
「なぜだ?」
【探偵斬り】の喉も焼けてしまい、掠れた声だけがシンタの耳に届く。
「野間洋平は知り合いだろう? 彼の身体をこんなひどい目に合わせていいのか?」
【探偵斬り】の問いかけをシンタはくだらない、と切り捨てた。
「貴様を殺さなければ貴様は我を殺そうとするだろう? 自分の命と野間洋平の命。どちらの天秤が傾くか、簡単な問いではないか」
自分の命と知り合いの命。どちらか大切か。選択問題としては簡単だ。だが、その取捨選択を瞬時にし、実行できる人は少ない。
ましてや六歳の子供にできるようなことではなかった。【探偵斬り】は知らず知らずのうちに見た目に左右され、シンタを侮っていた。
この少年は強い魔法使いではない。圧倒的な力を持つ魔法使いなのだ。
「それに洋平の命はもう……」
地面に這いつくばる【探偵斬り】から視線を外し、シンタの視線は工場の中にいるヒカルに向けられる。その時に、ようやく感情らしいものを瞳に浮かばせた。
シンタは悪魔に取りつかれた人間の末路を知っている。その小さな体でなぜそんな知識があるのか、それを【探偵斬り】は知る由もなかった。もしヒカルの拷問を早めていれば、もし獲物を前にして楽しむ癖がなければ、と想像するが結局。【探偵斬り】を待ち受ける運命は変わらなかっただろう。
【探偵斬り】は逢坂心太に殺される。その事実は変わらない。
「会話をして時間稼ぎをしているようだがその回復速度では全回復するころには太陽が挨拶をするぞ」
【探偵斬り】の身体は少しずつであるがもとに戻り始めていた。悪魔である【探偵斬り】には回復魔法を使うことはできない。そもそも悪魔はその強さゆえに大怪我をすることを想定していない。これは悪魔に取りつかれた時、特有の驚異的な回復能力だ。これのおかげでシンタに折られた右腕も一晩で治り、ヒカルたちを欺くことができたのだ。
この数分の内に【探偵斬り】の見た目はだいぶましになっていたが、シンタの計算では歩くことができるくらい回復するにはまだまだ時間がかかる。
それほどの余裕があればシンタなら百回以上殺すことができる。
「時間稼ぎか。それは事実だが、あがきではない。これは起死回生の一手だ!」
そう叫んで【探偵斬り】はがくりと気絶した。いや、そうではない。意識を別の物に移したのだ。
あたりを見渡してシンタは【探偵斬り】の影が異様に伸びていて濃くなっていることに気がついた。そして、その影はシンタが突き破った壁を通り、工場の中に伸びている。
***
工場の中に鎖で縛られたままのヒカルはいまだに身動きのできない状態のままだった。しかし、ヒカルの耳にも外で行われている激しい戦闘音が届いてくる。
しばらくして戦闘音が止んだ。
どちらかが勝ったのだろうか。様子をうかがうこともできないヒカルにとっては推測しかできない。
あのシンタが負けるはずがない。そう思っているのだが、【探偵斬り】も悪魔として恐ろしい実力の持ち主だと聞かされている。シンタが実際に戦うところを見たのは喫茶店での強盗だけ。しかも、相手は拳銃を持っているものの素人丸出しの動きだった。
悪魔相手に王様として君臨していたシンタに勝てるのだろうか。と不安ばかりが広がっていく。
「どうせなら鎖を外してから行って欲しかった」
魔法が飛び交う戦闘現場にのこのこと現れ、危険にさらされるほどヒカルは馬鹿ではない。もし自由になればすぐに身の安全が保障される場所へ遠く離れるつもりだった。しかし、鎖に繋がれた状態では関係のない話でもある。
なんとか鎖が外れないか、体をくねらせて考えていると背後から声がかかった。
「外シテ、ヤロウカ?」
今まで聞いたことがないほど、ぞっとするような低い声にヒカルはゆっくりと後ろを振り返った。
体長よりも巨大な黒い翼に細長い赤い眼。人を軽々切り裂けるような長い爪。ひょろっとした体形をした人間ではない生き物がいた。重力を無視して宙に浮いている。尻尾の先は地面に落ちた影と繋がっている。
「嘘……」
悪魔、だとヒカルは直感的に理解する。
そして、シンタではなく、悪魔がここにいる事態に絶望する。
とっさに逃げようとするが鎖が邪魔をして身動きが取れない。ジャラジャラと耳障りな音だけが工場内に響き渡った。
「利用価値ガ、アルナラバ、利用サセテ、モラウ」
悪魔はヒカルにゆっくりと手を伸ばした。
「所詮、悪魔か。考えることが手に取るようにわかる。まぁ、そうなるように誘導したんだがな」
工場の屋根。いつの間にか宙に浮いたシンタが呆れた顔で悪魔を見下ろしていた。
「シンタ!」
「監獄よ。時を封じ、動きを封じ、世界から隔絶したまえ。『絶界(ぜっかい)』」
どこからともなく現れたシンタが詠唱すると同時に悪魔の周囲を立方体の光が囲った。悪魔の手はヒカルと紙一枚の差で届かなかった。
「ナンダコレハ? 出セ! 俺ヲ出セ!」
叫びながら悪魔はシンタの張った結界の中で暴れる。ガラスに囲まれているかのように悪魔の動きはその立方体から出ることができない。叩いても殴っても炎を放っても結界はびくともしなかった。
「追いつめれば洋平の身体を抜け出そうとすることくらい読めていた。ヒカルを人質にしようとせず、大人しく逃げていればまだ可能性があったものを……」
屋根から飛び降りたシンタは地面に衝突寸前に急に勢いをなくし、無事に着陸した。
「人間を乗っ取った悪魔を殺す方法は二つ。人間の身体ごと始末するか、悪魔の本体を始末するか、だ」
ここでようやく【探偵斬り】は自分の行動が全て読まれ、シンタの手の上で踊らされていたことに気づく。
最初に手加減しておいて油断を誘い、追いつめる。ヒカルを鎖でつないでおいたままにしておいたのも、【探偵斬り】の動きを誘導するため。
戦闘経験、魔法使いとしての能力。全てにおいてシンタに負けた。
しかし、【探偵斬り】は認めることができず、悪魔らしく最後まで抵抗を見せる。
「ソウダ。俺ト、手ヲ組モウ。俺トオ前、二人デ世界ヲ手ニ入レヨウ」
「……」
シンタが黙っている様子を悩んでいる、と思った【探偵斬り】は占めたとばかりに早口でまくしたてる。
「コノ世界ノ人間ハ魔法ニ対スル耐性ガ低イ。俺タチ二人ナラバ世界ヲ手ニ入レルコトモ容易ダ。世界ヲ侵略シヨウデハナイカ?」
「世界征服か。懐かしいな」
「ドウダ? ヤル気ニナッタカ?」
しかし、【探偵斬り】の願いもむなしくシンタは小さく首を振った。
「―――世界など、とうの昔に支配した」
シンタが両手を合わせると結界は消滅し、それと同時に中にいた【探偵斬り】も消滅する。
ヒカルが目を開けるとそこには最初からなにも存在しなかったのように跡形もなく消滅していた。
呆けているヒカルをよそにシンタがパチンと指を鳴らすと鋼鉄の鎖は砂の様にサラサラと砕け去り、ヒカルは自由になった。
「【探偵斬り】は?」
「死んだよ。正確には魂ごと消滅した」
「洋平さんはどうなったの?」
「……生きている。工場の外に倒れているぞ」
「すぐに行きましょう」
シンタの返事を待つこともなく、ヒカルは走り出した。行き先は洋平の元。その後ろ姿を見ながらシンタはぽつりと呟く。
「最後のお別れだ。悔いを残さぬようにしろ」
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