第28話 不穏な流れ。

 マシュマロを食べ終え、満足した我はしばらく大学生グループの傍で座っていた。

 少し顔をあげると保護者グループが忙しそうにBBQの後片付けをしているのが見える。トモとタクヤはまた川に遊びに行っていた。今度の見張りは母上が担当しているらしい。

 そして、我は女学生たちに、ちやほやされて色んなお菓子をもらっていた。

 

「はい。シンタ君。チョコレートよ」

「ありがとうございます。お姉ちゃん!」


 ふむ。真耶の太ももの上に座りながら甘いお菓子を食べる。

 今ほど日本に生まれてよかった、と思ったことはない。これぞハーレム。酒池肉林である。

 我が桃色の世界に満足していると学生たちの話題が変わった。

 先ほどまでは講義のテストが簡単な教授の情報や代返と呼ばれる出席したフリができる授業などの話だったのだが、その話題も尽きたらしい。

 次の話題は最近Q市近くで起きたニュースについてだった。

 複数の人間が口々に喋るので聞き取りづらいが、その中から意識的に話題をピックアップすることで大体は理解することができた。


「そういえばあの通り魔。まだ捕まらないの?」

「ああ。あれ? 三人も刺したんでしょ。こわーい。私、夜中は出歩くな、って親から言われたのよね」


「大丈夫らしいよ。被害者の名前は公表されてないけど、被害者は三人とも男だってさ」

「へー。通り魔って女性を狙うものだと思ってた」


「死んだ人はいないの?」

「いないいない。刃物で刺して、すぐに逃げるし目撃情報が少なくて捜査は難航している、ってニュースでやってた」


「犯人の情報に懸賞金を出すって噂もあるそうよ」

「懸賞金か。いくらくらいかな? 百万円もらえるなら少しくらい刺されてもいいかも」


「やめときなさいよ。犯人は人を刺すことに抵抗がなくなってきているから次は殺される可能性がある、ってニュースのコメンテーターが言ってたよ」

「被害者の共通点とかないの?」


「三人とも男ってこと以外はなにも。警察が情報統制してるのかも」


 【探偵斬り】の異名はまだ一般人には広まっていないらしい。女学生たちの話す内容は我がニュースを見て、知ったのと似たようなもので目新しい情報は含まれていなかった。

 我はふとヒカルのほうを見た。

 

「……」


 【探偵斬り】の話題を聞いているヒカルは無表情で感情をできる限り表に出さないように努めているように見えた。その心のうちに何を秘めているのか、それは我でもわからない。

 我の視線に気づいたヒカルはすぐに目を細め、ぷいっとそっぽを向いた。


 【探偵斬り】を捕まえたい。ヒカルがそう切り出して以来、新しい被害者はでることなく、【探偵斬り】は息をひそめている。当然、新しい情報は得られず、我とヒカルの遊びのような捜査は停滞していた。

 そろそろ本腰を入れて【探偵斬り】を探した方がいいのかもしれない。そうしなければヒカルが無茶をする。そんな気がした。


「はい。シンタ君。あーん」

「あーん」


 真耶にお菓子を食べさせてもらう。

 もぐもぐ。

 美味い。



***




 一週間後


「痛い。歯が痛い。イターい!」


 我は虫歯になった。


 



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