過信禁物の館の中で

 このテレビの映像を見た私はまず他人に向かって、自己紹介を書いた紙を見せる。


『はじめまして』

『ここに来るまでの間は、探偵をやっておりました。 城藤しろふじ磨白ましろと申します』

 すると、1人が少し恥ずかしそうに話しかけてきた。

「城藤さん……でいいのかな?」


 その人物の髪型は青い肩までのポニーテールで、服装は灰色の制服。

 制服の左胸の部分には、校章が縫われている。

 外見からして、女性と思われる。

 私はその人物に対して、別の文字を書き記した紙を見せた。


『呼び捨てで構いません』

『ところで、あなたの名前は?』

「えっ、私? 君途優きみとゆう、って言うんだけど……」

 君途さん、でいいか。


『君途さんですね?』

「別に、私の事も呼び捨てでいいよ……」

『これから、よろしくお願いします』

「う、うん……」


 この時の君途には、私には怖じ気のようなものが顔や言葉に出ているように見えた。

 というのも、何が起こるか分からないこの館。

 様々な障害はもちろんの事、裏切りからの殺人等も有り得るため、安易に信頼を置いているようでは殺されても文句は言えない。

 私はそんなリスクもかえりみず、既に自己紹介を終えている君途以外の10人に、自らの名前を書いた紙を見せ続けた。

『城藤磨素です』と。

 その時の顔にも、表情や感情というものは全く表れていなかった。


 その後、私以外の人達の間で話し合いが始まった。

 速く字は書けても、即座に対応できるわけではない筆談。

 そのため、一つ返事をするだけでも少し時間が掛かる。

「ね、ねえ? なんで、みんなはここにいるの?」

 まず喋りだしたのは君途だった。

「そんな事、言われなくても分かっているはずよ」

「知ってるわけ無いだろ。 こっちが聞きたいくらいだ」

「誘拐以外に、他に何があるのです……?」

「こんな所、僕が抜け出してみせる!」

 他人の反応は様々だった。


 その時―――――。

 突然テレビに電源が入り、そこから金属音が聞こえてきた。

「うわっ……」

 私は、先程とまた別の文字を書き記した紙を見せる。

『?』

 それで全員が視線をテレビの画面に向けると、ある映像が流れてきた。


『オイイイイイイッス! どうもー、ワンダードリーマーでーす!』

 部屋の雰囲気にまるで合っていないような挨拶の後、どういう訳か眼鏡の上にオーバーグラスを掛けたワンダードリーマーが映像に映る。

 先程の金属音は、人の気を寄せるためのものと考えていいのかもしれない。


『この館は謎だらけ……だけど、君達はそれを解くためになんかやってるの?』

 そう言った後、ワンダードリーマーは両手をそれぞれの耳の後ろに当てる仕草をする。

「まだ……進んでいないのよ……」

 まるで12人を代表するように話したのは、紫色の髪で異様に胸の大きな女性だった。

『あれあれあれあれ? 謎解きが遅いよー?』

「当たり前でしょ、まず私達、入れられた直後で何していいかも分かってないし……」

 煽るような言い草に、真面目に反論する君途。

『いや、それならね? 君達で話し合って、部屋を出て謎を解いていけばいい話でしょ? 僕はそう言いたいけどね』

 言い訳は、少しずつ分かりづらく、雑になっていく。

 確かに、この二人の言い分は、理解できない事もない。

 彼が答えを求めるのが、明らかに早すぎる。

 迷いに迷って自己紹介したのがやっとだったし、管理者というならその様子くらい監視カメラにおさめている事だろう。


 その動機とは何か―――――?

 見た目だけでなく、行動も謎にまみれている。

 それを消していくのが私の本来の仕事なのかもしれないが。

『大体、なんで僕が誘拐されるまでの能無しの君達の話を聞かないとならないのかって話なんだけどね?』


 そう言った後、テレビの電源が落ちる。

 やっばり『からかうため』か―――――?

 これなら見下したような言い方も納得できるが、命を狙う理由としては弱い。

 それからしばらくして、紫の髪の女性が私に近寄ってきた。

「城藤さん……と言ったかしら?」

 私はその女性に対し、文字を書き記した紙を見せる。

『そうですが、何か?』

「先程はごめんなさい、名前を言い忘れていたわね。 私の名前は、大椛おおなぎ実咲みさというわ」

 私に大椛が名前を言うと、彼女はいきなりドアノブを掴み―――――。

「そろそろ、謎解きを始めないといけないわね?」

 部屋を出ようとした。


「待って!」

 だが、君途がそれを止めようとする。

「貴女……? 何故止めようとするのよ?」

「何故って……嫌な予感がするから……」

「どういう事よ?」

「一人で行ったとしても、変な所で殺されて余計に謎を作って無駄死にに……」

「そんな事、気にしていたら負けよ? じゃあ、行くから」

 しかし、大椛は一人で部屋を出る。

「……行っちゃった」


 そこに、黒に近い茶色のベリーショートの男性が話し掛ける。

 服装はこちらも制服だが、グレーを基調としていながらボタンの部分は白く、左胸には校章らしきものが縫われている。

 「僕は……戻ってくると思う」

 「後村くん?」

 後村は、大椛が部屋に戻ってくると信じていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る