ロスト・フリップME 城藤磨白と鮮血の日曜日

TNネイント

プロローグ

 ある土曜日―――――

 窓から雷雨が降っているのが見える、「城藤しろふじ探偵事務所」の壁から家具まで真っ白なリビング。

 大きい雷鳴も聞こえてくる。

 そんな部屋の真ん中には、肌から服まで真っ白な少女が立っていた。

 最低限のプライバシーは守られているが、隠している部分よりも露出の方が多いほどボロボロでも、汚れてはいない真っ白のワンピース。

 癖毛が多く、真っ白でかかとまで届くほどの長さのストレート。

 左手にはスケッチブック、右手には油性ペンを持っている。

 身長は140センチメートルほどといったところか。


 そんな少女が、自らの視線の先に向けて、このような文字の書かれた紙を見せ始めた。

『Nice to Meet you.』

『こんにちは。 そして、はじめまして』

『私は、城藤探偵事務所所属』

『"犯人の顔を蒼白にさせる探偵"』

『通称「犯人蒼白探偵」の、城藤磨白しろふじましろと申します』

 様々な文字を書き記しては、それを視線の先に見せていく。

『この度は、ロスト・フリップMEをご閲覧』

『いただき、誠に有難う御座います』

『今回は、館が舞台となっております』

『そこで頻発ひんぱつする殺人事件―――』

『人間不信が生む、さらなる"謎"の螺旋階段、』

『そして、館を作り上げた黒幕とは―――』

『御期待下』

 謎の茶番は、何者かの乱入によって突然中断される。

 いきなり居なくなった城藤。

 まだ書いている途中だったそのスケッチブックの文字は、「さ」の字が二角目の途中までしか書かれていなかった。



 □ □ □



 そして、日曜日―――――。

 目を覚ますと、私は館の2階のある部屋にいた。

 部屋はフローリングの床が綺麗で、壁際には様々な家具や電化製品が置かれてある。

 どうやら私は、見知らぬ館に誘拐されていたらしい。

 それも、見知らぬ11人と。

 まず、何も喋らずに起き上がる。

 というのも、私はそもそも喋る事自体がない。

 口を動かすのは、基本的に何かを飲み食いする時のみと決めている。

 これは何らかの事情があって声帯を摘出させされた―――――わけではなく、前々から意識しているというだけである。

 それでも、過去に何か起きていないと、そのような事を意識する事もないわけだが―――――。

 そんな私が、他人とのコミュニケーションを取る方法は、スケッチブックにペンで文字を書いて行う、所謂いわゆる筆談ひつだん」が基本。


 しばらくすると、置かれていたテレビから声が聞こえてきた。

『ようこそ、この館へ!』

 テレビには、女装している男性のように見える人物の、腹より上の部分が映されていた。

「えっ?」

 唐突な声には、驚く人もいた。

『僕の名前は「ワンダードリーマー」、この館の管理人さ!』

 人物は中性的な声で、自らを『ワンダードリーマー』と名乗る。

 それから彼は、自らの右手を動かしながら様々な事を話す。

『誘拐犯の家は怖いって? 古臭い固定観念も大概にしてくれる?』

『ま、君達に才能があったら"こんな所"にいないはずだよね?』

『それはともかく、この館の出口には警察やかたよった事しか言わないゴミ……いや、報道機関の連中が待ち構えてるよ!』

『鍵は開けてくれないけどね! 何故かって? 奴等は、人の不幸をダシにして難癖をつけるのがとにかくだーいすきだからさ!』

 誘拐等といった言葉も、軽々しく口にする。

 あくまでも、これらの発言は一部に過ぎない。

 口の軽い人間なのだろうか。


 そう思っていると、彼はいきなり話題を変え―――――。

『あっ、そうだ! そういえば……。 この館は普通の館とは少しだけ違うんだ……』

 背景がグロテスクなものに変わり、声も少し低くなっていた。

 その背景には、血を表現したと思われるオレンジ色の液体の付着した刃物や青色の大きなボクシングのグローブから、バラバラにされた内臓や肝臓と思われしき物体までもが描かれていた。

 モザイクや黒塗りといった修正は、一切入れられていない。

 背景音楽BGMとしてなのか、一昔前までのテレビの砂嵐の音も流れていた。

『様々なモノが、キミを襲うんだよ……』

 背景が元々の白一色に切り替わった後に、テレビの電源は落ちる。

『ま、死なずに脱出してみてねー! !』


 

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