早々と出た死人

 大椛が部屋を出て1時間半ほどが経過。

 彼女からの連絡は何も無い。

 

「大丈夫かな……? 無事だと良いけど……」

「大丈夫。 絶対に大椛さんは戻ってくる」

 不安を募らせていく中、またしてもテレビの電源が入り、金属音が鳴る。


 そしてテレビからは、ワンダードリーマーの声も聞こえてきた。

「はーいどーもー、ワンダードリーマーでーす!」

 雰囲気に合わない挨拶あいさつ

 その直後、ある事が言い渡された。

「誘拐されて2時間が経つね? って、アレアレアレアレ?」

 困惑しているような言い回し。

 しかし、その次に―――――。

「言い忘れてた気がする事があるぞ?」

「……ああ、思い出した。 確か、最初の映像から2時間以内に部屋から出た人はその場で死んで貰うんじゃなかったっけ?」

 言い忘れていたルール。

「ま、まさか……」

「……ごめん」

 何故か囁く君途と後村。

「大椛が居ないねえ。 っつー訳で、せっかちラット君こと大椛の死亡シーンをお楽しみください!」


 テレビのカメラはワンダードリーマーの部屋から、大椛のいる場所の監視カメラに切り替わる。

 カメラには、廊下を大椛が歩いている所が映っていた。

 ワンダードリーマーの部屋は、左上にワイプで表示されている。

 切り替わってからしばらくすると、どこからか何かと何かがぶつかり合う音が聞こえてきた。

「えっ?」

 大椛は驚き、その場で立ち止まる。

 少しずつ大きくなっていく衝突音。

 BGMとしてなのか、パイプオルガンで演奏されたクラシックの曲が流れ始める。

 この曲の音量が異様に大きく、映像から出るはずの音が全然聴こえてこない。


 しばらくして急にカメラの映像が変わったかと思えば、とんでもないものが映ってきた。

 それはプレス機を縦に置き、その後ろを箱のような形に組まれた鉄骨と接着させたところに、4つの小さなタイヤや発電機、バッテリーやモーターが装着されていた機械だった。

 その機械は大椛を見つけると、音を大きくさせ、加速させる。

 プレス機の音は激しくなっていき、発電機やモーターから出ていると思われる音が響く。

 この二つの音の大きさは、BGMすら霞ませた。

 映像の右下には、まるで彼女の死自体が仕組まれてあったかのように「大椛が潰されるまで5秒」のテロップが。


「何なのよ……?」

 大椛は立ち止まってからほとんど動けていない。

 そして、テロップが表示されてから5秒後。

 大椛は、プレス機に動力を加えたような機械に身体を潰されてしまった。

 廊下には、反り血等が広がった。


 その後、映像には死んでしまった大椛を嘲笑あざわらうかのような編集が。

 機械に潰される部分にエコーをかける、映像の色を赤や白黒に変色させる、別のカメラからの映像を「別カメ」等として表示させる等といった演出を加えて繰り返させた。

 ワイプで表示されていたワンダードリーマーの顔には、狂気を感じさせるかのような笑みが浮かんでいた。

 何かの真似なのか、不自然な笑い方をしていた。

 そうして、カメラの映像はワンダードリーマーの部屋に切り替わる。

 それからすぐに彼から放たれた一言は、誘拐された人達に喧嘩を売っているようだった。

『自分の身くらい、自分で守る事ができるはずだったのにねぇ?』

『あーあ、バカのせいでこの舘のネタの一つをバラしてしまった。 まあ、いいか』

 大椛の死を教訓にしろ、という事なのだろうか。


 そして、この小馬鹿にしたような映像は、私と死んだ大椛以外の全員の怒りを買っていた。

「ふざけてる……」

「うん……」

『それじゃ、脱出頑張ってねー!』

 この発言の後、テレビの電源は消えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る