Poème du compositeur

yura

第1話

一人暮らしの部屋の一角。小4の時に親戚の女の人から譲り受けた電子ピアノ。

一人にとっては広い部屋を、そのピアノが丁度良い具合に占めてくれている。

六畳半の、リビングに続く自分部屋。今となれば、すべての部屋が自分部屋なのだけれど。


兄、妹、と次々東京に出て行った家族を思い出し、女性はひそかにセンチメンタルな面持ちで遠くを見つめる。

その女性は「どこにでもいるような」、という説明で片が付く静かな大学生で、片田舎にひっそりと一人、小さな幸せと共に日々を過ごしている。


女性は一人立ち上がり、ピアノの方へ歩み寄る。

電子ピアノの蓋を開け、スイッチを入れる。カチリ、と小さな音。

ポン、と力なく適当な鍵盤に指の重みを乗せる。 独特のピアノの音。懐かしかった。


思えばピアノを最後に弾いたのは高校二年の冬頃。それからは、毎日が忙しくて、でも充実していて。

ピアノなど、弾こうとも思いつかなかった。


思い返せば、それも幸せだったのだろう。ただ、そんな自分を横目に、じっと佇んでいたこの電子ピアノの気持ちはどうだったのであろう。


…この年になって擬人法とは、馬鹿げたことだ、と自らに嘲笑して、久しぶりに弾いてみようか、と二階の部屋にあった楽譜を思い出した。


ショパンのバラードがあったっけ。今になって大きなブランクがあるので、弾けるかちっとも分からないが、ダメ元である。どうせ誰も聞いちゃいない。


そうして二階へと駆ける。妙にわくわくした。



電子ピアノのスイッチが入ったままであることなど、気にも留められなかった。

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