第88話 逃走成功

 その馬車から、ひとり、男性が急いでいる様子で降りてきて、こう言った。



「おい、ラハンド! 今来たぞ。さぁ、早く馬車に乗り込めっ!」



 ラハンドさんは走るのをやめ、私達をそっと降ろし、その男の人の言う通りに馬車に乗り込んだ。

 馬車に乗り込んだ瞬間、ラハンドさんが呻き始める。かなり辛そうだ。

 これが重ねがけの副作用? マーゴちゃんが苦しそうにしているラハンドさんの背中をさすっている。

 男の人はラハンドさんに向かってこう言った。



「おい、ラハンド。まさか同種補助魔法を連続で重ねがけしたんじゃないだろうな?」


  

 それに、ゴッグ君が答える。



「はい、ガバイナさん。重ねがけしました……ラハンドさんが言うには、それしか方法がなかったみたいですから…」

「そうか、まさかマンティコラがいたなんてな。ミルメコレオだけじゃなかったのか」



 この人がガバイナっていう人なのね。ガバイナさんは話を続ける。



「でも、まぁ。お前がいきなりメッセージで俺に『ヘルの森の入り口まで馬車を出せ』なんて言うから驚いた。……依頼主にはもう報告したのか?」


 

 ラハンドさんはまだ苦しそうだが、首をコクコクと縦にふる。



「そうか。まぁ、やむをえんな。身体中が痛むかもしれんが少し我慢してろ。あの娘のもとに連れて行ったら、痛みを和らげてくれるかもしれん」



 ガバイナさんの言葉に対し、ゴッグさんはこう言った。



「あの娘って…≪天の魔剣少女≫のことですか? あの娘に副作用が和らげられるんですか?」

「あぁ、そうだゴッグ。あの娘はすごいぞ。いまから連絡する」



 ≪天の魔剣少女≫っ!?

 なんか、すごく厨二臭い名前ね。

 しばらして、連絡が終わったのか、ガバイナさんはこう言った。



「ふむ、彼女はどうやら了承してくれたようだが、いかんせん忙しいらしい。[ヒカリ]という宿屋の店主に物を渡しとくそうだからそこで受け取ってくれと。それまでの辛抱だぞ、ガバイナよ」



 私はゴッグ君に、≪天の魔剣少女≫って何者なのか聞いてみる。



「武闘大会は前に教えたよね? 彼女は一番最近にあった武闘大会Aランクの部の優勝者で、その時にSランクに上がったんだけど……。歳がまだ適正年齢以下、君と同じ12歳なんだよね。そして、その歳にして、極みの魔法、さらには魔剣まで扱っている。だから≪天の魔剣少女≫さ。しかもこの間、この国の姫様をSランクの魔物から庇ってね、しかもその魔物を一瞬で倒したというんだ。その場にラハンドさんも居て、王族の方達を庇ったらしくてね、その娘とラハンドさんは国から表彰されたんだよ。もはや生きる伝説だね」



 私と同じ12歳で…すでに伝説の人物…か。

 すごい娘もいたものね。天才ってやつかしら?

 そう考えてると、ガバイナさんがやっと私に気づいたようで、私に話しかけてきた。



「ん? 娘子よ、ところでお前は一体?」



 その問いにもゴッグ君が答えた。



「この娘は、俺たちが森で保護したんです。なぜか森の中で倒れてて……記憶もないらしくて」

「……それはまた……不思議なことがあったものだな。ところで、娘子よ。名は何と言う? 名はわかるのだろう?」



 私は名前を答える。



「ミカって言います…」

「ほう、ミカか……ミカ? どこかで聞いたような…気のせいか? 歳はいくつなんだ?」



 なんか微妙な反応された。ミカって人が他にいるんだろうか?

 まぁ、多分、ガバイナさんの気のせいだよね。



「歳は12です!」

「そうか、ならばアリムと同い年だな」



 アリム……? あれ、どっかで聞いたことあるような…。どこだったかしら?

 ガバイナさんのがうつった?



「あの…アリムってだれですか?」

「ん? あぁ≪天の魔法少女≫のことだ。俺は彼女と仕事を共にしたことがあってな。それから何回かやりとりしてるんだ」



 そうか、だからガバイナさん、その娘と連絡できたのね。

 ラハンドさん曰く、何度か話したことがある人でないと脳内メッセージは送れないらしいし。


 そんなこと思い出していると、ガバイナさんが驚きのことを話した。



「そういえば、アリムも12歳にして記憶喪失だと言っていたな。森の中に居たところを助けて貰ったのだとか。12歳で、記憶が消えてしまって、森の中に放って置かれる…。偶然とは思えない共通点だな。ミカよ……ミカ?」

「……」



 そうだ、そうだ、そうだった!

 私は今、今、思い出した!


 アリム……そう、アリムは、アイツのゲームの時のユーザーネーム…。

 私と同じ12歳で、森の中で記憶がない状態で見つかった……。記憶がないことは、私と同じ誤魔化しているだけだとしたら…。



 まさか、まさか、アリムって……有夢なんじゃっ……!?

 

 その答えに追い打ちをかけるように、ガバイナさんはさらに驚きのことを言う。



「どうした? ミカ……そう、あとミカ、ミカだ。思い出した! アリムが、俺との仕事中、寝言で『ミカ』と、何度も言っていたんだ。あと、父と母と…カナタだったか? 相当うなされていたな……。とにかくそんな感じの名を呼んでたな。共通点が共通点だしな。もしかしたら、ミカよ。お前となにか過去にあったんじゃないか? 会ってみればわかると思うが」



 ………カナタ!?……叶はアイツの弟……。


 アイツがこの世界にいる! 有夢が生きてる!

 ぁぁっ! 神様…。

 私は、有夢に、有夢にまた……!


 私は大好きな人がこの世界で生きている喜びに震え、泣きそうになるも、涙をこらえる。



「ん? ミカよ。どうした? 辛そうだな。……っと、もう少しで王都に着く。宿屋についたら、ロビーで一旦横になるといい」



 もう少しで有夢にあえるんだ。

 わたしは近づいてくるおおきな城壁に、アイツと再会できる喜びを感じていた。


 ラハンドさんも、楽になれるらしいし。

 早くこの時間が過ぎてしまえばいいのにな。

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