第87話 人面獅子からの逃走
私達から数メートル先に、人間の女性の顔の蠍の尻尾をしたライオンが居る。
マンティコラは私達を警戒すべき相手ではないと判断してるのか、遠くから様子をみている。
「やばいな…あの虫の魔物がこいつ連れてきたってことは、虫の魔物の親玉話をこいつだってのは、あってるみたいだが………刺激するなよ? したら終わりだからな」
「ど……どうしよ……ラハンドさんっ…どうしよ」
「ここまでか…?」
どうしよう、私達、ここで終わりかもしれない。
マンティコラって、ラハンドさんが言うには、力も強く、肉体強化魔法、回復魔法、攻撃魔法も使うし、あの蠍みたいな尻尾には、毒が含まれていて、刺されたら身体が痺れて二度と動けなくなるんだって。
今まででの魔物なんかよりも、ずっと迫力が違う。
一度目に遭ったときは、私は運が良かったんだ。
「ラハンドさん、どうしましょう…私は…」
「………一か八かやってみるか」
「え、ここから逃げれる方法があるの? ラハンドさん」
「ん……まぁ、かなりキツイがな」
彼はかなり渋った顔で答える。
相当奥の手なのだろう。
「方法は二つだ」
「二つ……?」
「あぁ」
この状況で二つも思いつくなんて、やっぱり上級者は違うのね。
ラハンドさんはすごい人だ。顔は怖いけど。
私はすこし、ラハンドさんに尊敬の念を持った。
「まず一つ、俺を置いて逃げる……だ。俺だったら、マンティコラ相手に10分は時間を稼げるし、ある程度弱めることもできるぜ」
「嫌だ! 絶対だめ! ラハンドさんがのこるんだったら、私も残る!」
一つは捨て身か…でも、そうすると、私達が今後この森から無事に出れるかどうかもわからなくなってしまうし、なにより、マーゴちゃんが悲しむ。いや、一緒に居るとか言ってるから、この方法は無理だろう。
じゃあ、もう一つはなんだろう?
「だよね。ラハンドさん、ラハンドさんもマーゴも残るって言うんだったら、俺も残るから。その方法はダメ」
「んなこたぁ、わかってるって、この。それは最終手段だぜ。そこで二つ目。二つ目はひたすら逃げる……だ」
え、ひたすら逃げる? それだけ?
無理じゃない、そんなの…。
「ラハンドさん、それはさすがに…」
「誰がそのまま逃げると言った?」
「えっ?」
やっぱりなにか策があるんだ。
どんなのだろうか。
そんなこと考えてると、ラハンドさんは私をいきなりおぶさった。
「いいか、ミカ、しっかり掴まってろよ。おい、ゴッグ! マーゴ! 魔法を唱えられる準備してから、俺がお前らを持ちやすいような体制を取れっ!」
「え? も…もつ?」
「まさか、ラハンドさん、3人を抱えて走るんじゃ…」
「おう、そうだ!」
うわぁ……すごいことしようとするなぁ…。
男らしいって言えば聞こえはいいけど、これ、無茶だよね…。
「それでだ、ゴッグ、マーゴ。持ったら俺に、力上昇魔法と速度上昇魔法をかけろっ!」
力上昇で3人抱えて、速度上昇で逃げ足を早くするのね。
これならばいけそう。
二人は互いに顔を見合わせてから、軽く頷いて、丸く縮こまった格好をした。
その二人をラハンドさんは抱え込む。
あれ、マーゴちゃん、すこし嬉しそうなのは気のせいかな?
ラハンドさんは二人にこういった。
「おい、ゴッグ。速度上昇魔法を、俺に10回かけろ」
「……重ねがけだって!? そんなことしたらラハンドさん……」
「背に腹は変えられないだろうが。死ぬよりは何倍もマシだぜ?」
「そ…そうだけどぉ……」
重ねがけすると、副作用があるのね。でもラハンドさんは覚悟を決めた顔をしている。
「頼む」
「わ…わかった」
彼は抱えられたまま、速度上昇魔法を何回も唱えた。
10回かけ終わってラハンドさんは走り出そうとする。
「おい、二人とも。魔法でアイツが近づいてきたら目眩ししろよ? いいな?」
「う…はい」
「わかった」
「じゃあ、いくぜ?」
そう言うや否や、ラハンドさんは信じられないようなスピードで走り出す。
しっかり掴まってないと、振り落とされちゃいそう。
マンティコラは、逃げられたのに気付いたようで、追いかけてきている。
マンティコラも早い。確かに、私達はマンティコラから遠ざかってわいるけど、さほど距離は変わらない。
相手も速度上昇をかけてる。多分、一回だけだけど。
このまま走り続けて、距離を遠ざけれないと考えたのか、ラハンドさんはゴッグ君にこう言った。
「ゴッグ! 爆発だ! あいつの目の前にできるだけ爆発をおこせ!」
「う…うん!」
マンティコラの顔あたりに、無数の爆発が起こる。
そして、マンティコラは一瞬だけ視界が悪くなって立ち止まったみたい。
ラハンドさんは、右に急カーブして、しばらく横に進んだ後、また正面を向いて全速力で走り続けた。
どれくらい走っただろうか…。後ろにも、横にも、斜めにもマンティコラの姿は見えない。
うまくまけたみたい。
でも、なぜかラハンドさんは走るのをやめない。
そして、そのまま走り続けて10分。
森をぬけ、入り口に到着した。
入り口には今来たばかりの様子の、一台の馬車が停まっている。
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