第74話 心身ともに醜い男
うわ………なんだこいつ……。
本当にサイテーじゃねえーか。俺のアリムに対して下衆な目を向けやがるからに…。
ラハンドさんも殺意がこもった目で睨んでる。今にも殴りかかりそうだ。怖いぞ。
そんなことは御構い無しに、奴は俺に近づいてきてこういう。
「ブッフォッフォッ……本当に可愛いなぁ…アリムちゃんはぁ…ジュルリ」
ひぃぃぃぃ!? こいつ、こいつ今、俺の耳元で、耳元でしたなめずりしやがった!
うわぁ…背中がゾワッてした……ヤバい。
俺は……この醜男に恐怖を抱いていた。強さとか、そういうのじゃない。これは、 恐らく、女性としての恐怖だ。俺ではなく、美少女アリムが怖がっていると言った方がいいか。
まだ、この醜男の狂行は止まらない。
あろうことか、こいつ……
俺の後ろに回りこみ、抱くように、胸を……俺の小さな胸を揉んできやがった。
俺の全身に寒気が走る。恐怖心が走る。涙が出そうになる。
男の人って、こんなに恐かったっけ?
俺は精一杯、叫ぶしかなかった。手が震えるのだ。
「キャっ!!! 嫌っ、嫌ぁ! やめて!」
だが、ファウストは、その手を止めず、嫌、さらに気持ち悪く手を速く動かし、こう言った。
「う~ん、アリムちゃんは、歳相応っていった胸の大きさだなぁ……ブッフォッフォッ! でも柔らかくて気持ちいいよ~。嫌がることなんてないのに。キスすればそんな考えおさまるか?」
………やめろ、やめろ、やめてくれ。
奴はあろうことか、片手で俺の胸を揉んだまま、もう片方の手で俺の顔を顎を掴んで無理矢理後ろを向かせようとした。
今の俺の目の前には気持ち悪く口を尖らせた醜男がいる。
身体に力が入らない。恐い、恐い。
もう声も出ないくらいに。
そんな奴を、ラハンドさんがタックルで突き飛ばした。どう見ても『鉄の超気』を待っている。
全身が鉄色だ。
そして彼はこう言った。
「てめぇ……アリムになにしやがる。それでも男か? 普通人前で大胆にこんなことするか? しかも城の中でだ。一体お前は何考えてんだよっ!」
だが、醜男はそんなことしらん風に答える。その内容も、彼を殴り飛ばしたくなるような内容だった。
「はぁ……Bランクから上がったばかりのAランクの雑魚がなんか言ってるぜ…。やれやれ、雑魚ハゲ野郎は黙ってろよな……まぁ、いいさ。食会が終わったら瓦版社にでもこの情報を言うかね。『ラハンド・アッシュはいきなり攻撃してくる野蛮ものです』ってね」
そんな戯言は御構い無しに、俺のことをラハンドさんは気遣ってくれる。俺は震えることで精一杯だ。恐い。特にあの舐め回すような目つき…,。
「あぁ、アリム、怖かったな。怖かったな」
「は……い……うぅ……」
俺は慰められてる一方で、一つ疑問に思っていた。
そういえば、王都に初めて来た時も同じようなことがあったはず…。
……そうだ、あの時は二人組だった。たが、然程恐怖を感じなかったばかりか、ぶちのめす気すらあったではないか。
じゃあ、なぜ俺はこの醜男が恐いのだろうか?
そもそも今、男の人であるラハンドさん側にいるが、顔が怖いということ以外は全く恐怖なんてものは感じない。
それに、あんなに恐いのに、何故かラハンドさんは奴に怒りしか、かんじていないようだ。
と…すると、『女性の恐怖心を増幅させる』類のスキル…あるいは称号を持っていると考えた方がいいだろう。
他にも、辻褄が合うこともある。大会において、彼と試合をした女性冒険者が猥褻行為を行われている。
だが、相手は同ランク。つまり抵抗できないはずはない。
そういうことか。ならば、今、俺は"# 男__あゆむ__#"に戻ればいいんだ。
俺は、『性別変換』を解いた。
すると、どうだろう。さっきまで抱いていた恐怖心がなくなっている。ビンゴだ。
奴は、さらに何かをするつもりなのだろうか。俺の手を掴み、引っ張りだした。
「てめぇ……アリムから離れろっ!」
「嫌よ嫌よも好きのうちって______ゴフッ」
ははっ、どうだ? 俺は醜男の横腹に思いっきり蹴りを入れてやった。
彼は何かを喚いている。
「おご…いた……アリムちゃん? こんなことしていいと思ってるのかなぁ? せっかく人気者になれてるのに、俺が瓦版社に『アリム・ナリウェイは乱暴者』だと……」
ラハンドさんはこの醜男の言動について、こう言った。
「てめぇ、さっきから瓦版社にチクるだの何だのいってるけどよ、そもそもお前を相手にしてくれる瓦版社ってあんのかよ?」
醜男は懲りずに、また最低な言動で言葉を返す。
「黙れよ雑魚ハゲ。んなもん瓦版社脅せばいいだろーが」
「な……っ!?」
こいつ、なんで逮捕されないんだ? さっきから問題発言しすぎだろ。いくらなんでも。城の中でこんな犯罪めいたことしてたら、捕まるとおもうんだけど?
今までこんなんで、よく生きてこられたな。
それでもヤツはまだ言うんだ、これが。
「……あ、そうだ~。たしか、君のパーティのチームメンバーに一人、女の子いたよねぇ?その娘を紹介してくれるんだったら……」
「………!? ふざけんじゃねぇ、あいつに手を出してみろ、ただじゃおかねぇからなっ!!」
「…ん? 元奴隷の娘だろ? 俺が買ってやるよ」
怒りとともに、驚きの表情がラハンドさんにうかぶ。
そうそう、こいつがさっきから犯罪めいたこと暴露している原因を見つけた。
「………なんで、テメェがそのことを……っ! 俺ら奴隷制撤廃組か、奴隷商人しかしらねぇこと……テメェまさか…」
「それはぃ……チッ……(わかったさ。黙るっての)」
「あぁ? 何だって? 今、何つった!?」
「何でもない、独り言だ。と、とにかく俺は帰らせてもらうぜ」
あれ? 一体どうしたというのだろう。帰るとか言い出してしまった。
それにしても、王様達も粋なことをする。
[自白の珠]…感情が高ぶった指定した相手は自分の不利なことを言い、行うようになる石だ。
その珠と、盗聴機能付きの花瓶がこの部屋に置いてあった…。
最初っから、このつもりでいたな? ファウストを捕まえるつもりでいたんだな。
で、今、あいつは自分が喋りすぎたことに気づいた……と。
ザマァみやがれ。
そんなこと考えて、ほくそ笑んでいると、勢いよく、ドアが突然開かれた。
そこにいたのは、2人の男。
「やーっと自白してくれたな、ファウストよ」
と、40代ほどのいかつい騎士が言う。
「まさか、私達が取り逃がした商人の一人だったとは……驚いたよ」
と、金色のカップを片手にすらっとした肉体美の男が言う。
醜男は明らかに戸惑っている様子である。
「な……なんでこんなところに、この国の騎士団長様とSSランカーのバッカスさんがいるんですかね?」
「それはな、ファウスト。お前を捕まえるためだ」
そう言い、騎士団長は拘束具を取り出し、ファウストに迫る。
だが、奴は笑っていた。
「ブッフォッフォッフォッ…俺はまだ捕まる訳にはいかねぇんだ。あばよ!」
そう、言うや否や、醜男は煙となって消えてしまった。
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煙となって去った男は、ある洞窟のなかで、一人の異様な姿の者と話をしていた。
「ひゃー、危なかったぜ」
「危なかったぜ、じゃ、ないですよぉ? 俺たちのことも話そうになったじゃないですかぁ~」
「いいじゃねぇか、結果オーライってやつだ」
「結果オーライ? は? これのどこが? あんた、誰も連れてこれなかったでしょうがねぇ」
「う…難しいっての、アリムっていう奴だけならまだしも、姫もだぜ?」
「お前が、あんな小細工に気遣ずに、彼奴らの思惑通りに行動すっから、悪いんでしょうが」
「へへへ……でも、俺にもっと、もっと力をくれれば強行突破で連れてくるぜ? あんな小娘二匹ぐらい。俺がSランカーになれたのも、お前さん達のお陰だからな。ブッフォッ」
「はぁ…お前という人は…。まぁ、まだチャンスはありますよ。お前はちゃんと、使い道がありますからねぇ。ところで、準備はしておきましたよねぇ?」
「あぁ、勿論だ。俺は透明になって、城の中で控えてればいいんだろ?」
「はぁい、くれぐれも変な行動はしないように、お願いしますねぇ。今、奴が向こうに向かいましたから…どさくさに紛れて攫うのですよ?」
「わかってるっての。お前らにもらった、この力を活かせばどうとでもなるだろ。あと、それと……なぁ、連れてくる時にその二人、抱いてもいいんだろ?」
「姫の方はいいですが、アリムはダメですよ。彼女が我々の目標達成の鍵なんですからね」
「あいよ。でも俺はろくに外にでれねぇな。まさか、奴隷商人という過去を暴露したのと、あの餓鬼の胸を揉んだくらいで指名手配されるとは思わなかったぜ」
「ま、ですが、そんなことはそのうち関係なくなりますよ。我々の計画がうまく行けばね」
「そうだな。あんな騎士団長や酒臭え野郎なんかに怯えなくてもいいもんな。力があればよ」
「そういうことです。我々悪魔に魂を簡単に売る。やっぱり見込んだ通りの(最低)男ですね」
「ふん、これからも頼むぜ、メフィストファレスさんよぉ…」
「ふひひひひひひひひひひひひひひひひひ」
「ブッフォッブッフォッブッフォッ」
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