第60話 三匹のミルメコレオ

 ガバイナは今の叫びを聞き、飛び起きた。

 


 Aランクの魔物が3匹同時にでただと?

 なぜ、この森でそんなことが…。


 アリムやグレープ殿、他の御者達も皆、起きたようだ。

 アリムには外に出ないよう、注意しておく。俺はこの娘に幸せになって欲しい。短期間しか一緒に居なかったが、そのような、救護したくなるような感情をこの少女に抱いていた。


 もし、本当にAランクが3匹だったら俺はここで死ぬのを覚悟で戦わなければいけない。

 正直、勝てる自信は全くない。俺とて、Aランク1匹と1対1でやっと勝てる程度なのだ。

 時間稼ぎ程度しかできぬやもしれぬ。依頼主ら勿論のこと、アリムも絶対に逃す。


 アリムに、外に出ないよう言い聞かせてから、俺は馬車から外に出る。

 辺りは暗く、本来ならばよく見えないのだが、この馬車には明かりを灯す機能もあるようだ。

 

 あぁ、確かにいるな。3匹。


 あの、黒い肌に6本の脚、そして獅子頭。噛む力が異常に強く、ミスリルの盾や、アルティメタルの剣を噛み砕いたという記録が残っている魔物。


 蟻獅子、ミルメコレオ。


 此奴は力も強ければ、身体も硬い。動きも素早い。そんな魔物が3匹。


 …これは本当に、俺だけ残って、馬車は逃した方がいいな。

 俺はここで死ぬやも知れんが、まぁ、最後にあの少女に出会えたことと、天下一品の料理を食べれただけ良しとしよう。

 本当にあの娘はいつでも嫁に行けるよな。彼女に先程、そのことを言ったら、冗談だと笑われたが。


 さてと。


 御者に、俺をおいて逃げるように言う。

 かなり渋っているようだが、ここで俺が残らないと全滅してしまうのだ。

 彼が何かせかすように言う。



「ガバイナさん…逃げましょう早くっ!」

「此奴らは足が速い、ここで.俺が食い止めなければ皆死ぬぞ。御者…お前も、お前の雇い主も、アリムも…だ」

「それは…そうですが…貴方が…」

「俺はAランカーだぞ。ちょっとやそっとじゃ死なない。大丈夫だ」



 大丈夫なわけがないんだ。Aランク3匹同時なんぞ、Sランカーでも相当キツイ。

 たが、俺は大丈夫と、言うしかない。

 アリムを逃がすため……。



「キシャァグラァァッ!」



 急に、ミルメコレオの内の1匹が馬車めがけて飛びかかる。

 俺はそれを咄嗟に盾で防いだ。だが、その盾は爪で弾き飛ばされ、その飛んだ先にいた別のミルメコレオに噛み砕かれてしまった。


 相当まずい。

 俺が今、いくら#鎖帷子__くさりかたびら__#の鎧を着ているからと言って、盾がない状態で彼奴らの攻撃を受けたら、確実に骨折はするだろう。

 骨折をしたら充分には戦えない。むざむざと殺されるだけだ。

 俺は御者に、早く逃げるように急かす。

 ただ、その御者から発せられたのは絶望の言葉。



「前に……前に…ミルメコレオが……」

「なに…っ!?」



 ああ、そういえば3匹居たな。

 1匹、馬車の退路に周りこんだのか。どうするんだ。どうすればいいんだ。

 

 俺に向かって、盾を弾いたミルメコレオが爪で攻撃してくる。

  俺は[槍の豪・四の乱]で対応。目の前のミルメコレオにダメージを与えることができた。


 だが、もう一頭が俺が技を放ち終わった瞬間に爪で攻撃。

 その攻撃の回避に成功するも、先程ダメージを与えたミルメコレオがタイミングを合わせ、体当たりをかましてくる。

 

 俺はその体当たりを腹に喰らってしまった。

 ゴキゴキと、嫌な音が俺の身体からする。こいつら、狩りに慣れている。

 本来、ミルメコレオが退路を#わかっていて__・・・・・・__#防ぐなんて寄行、行わないのだ。

 しょうがない。MPを使い切るつもりで戦わなければ…。


 [火の槍豪気]を俺のこの、ミスリル製の槍に纏わせ、俺の中で一番強い技、[槍の豪・五の月雨]をMP限界まで連発する。

 これで1匹も倒せなかったらもうどうしようもないのだ。しかし。



 ……。

 まさか退路を塞いでいたミルメコレオがこっちに来ていたとはな…。

 二匹への攻撃で気づかなかった。


 俺は爪で腕を裂かれ、激痛が走る。そして、俺の盾を砕いた奴と同じミルメコレオだろう。

 手を止めた隙に槍を噛み砕きやがった。父から頂いた、大切なミスリル製の槍だったのだが…。


 あぁ、もうだめだ。

 俺は依頼主も、少女も救うことができなかった。

 一番近くにいたミルメコレオがおお大口を開け、俺の頭部を囓ろうとしている。

 


 すまない、グレープ殿、アリム。頼りない俺を許してくれ_____




 死を覚悟した刹那、俺の頭部を食おうとしていたミルメコレオに、落雷…いや、魔法だ。魔法が落ちてきた。



「大丈夫ですか、ガバイナさん!」

「ア…リ…ム…」



 守るべき少女が外に出て俺の元へ駆け寄ってきた。外に出るなと言っただろ。来るな。来ないでくれ。俺は、お前が死ぬのを望まない。



「アリム…来るな……逃げろ、逃げてくれ…頼む……」

「……本当はボク、あんまり人前で戦いたくはなかったんですけど……」



 は? 何を言っているんだこの娘は。逃げろよ。逃げろって。お前はここで散っていい命じゃないはずだ。

 Aランクの魔物三匹を何故倒せる気でいるんだ。人前で戦いたくないんだろう? だったら早く逃げろ。

 だが彼女は逃げない。


 

 その上、俺は目を見張る羽目になった。

 三匹のミルメコレオの元に魔法陣が出てきたのだ。どう考えても、これはアリムの魔法だが…。


 俺は幼い頃に、我が家の家庭教師から、魔法陣について学んだからわかる。魔法陣をみたら、その技の種類がわかる。


 これは最高火力を放つ魔法陣……マーチレスの魔法だ。

 マーチレスは自由自在の魔法。放たれる魔法の形を、術者の意志で変えられる。

 威力は勿論、エミッションやキャノンなんかよりも高いく、マーチレスの形を凝縮すればする程、攻撃範囲は狭くなる代わりに威力も凝縮される。

 Sランカーでも使える奴は少ない。

 その魔法を…3つ同時に発動するなんて…[極]のSK1をMAXまで振ったということだろう。


 雷のマーチレスは、刃となってミルメコレオ共に襲いかり_____



 一瞬の出来事だった。

 雷の刃に貫かれ、身体をバラバラにされたミルメコレオだったものが、俺の目の前に広がっている。


 この状況を作った、赤髪の娘は俺に無理矢理とても高価な薬、グレートポーションを飲ませながらこう言った。



「もう、大丈夫ですからね」



と。

 この少女は一体…一体何者でどのように育ってきたのか…どんな苦しみを背負っているのか…。

 謎は深まるばかりだ。

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