第2話 ここはどこ?
夢の中なのかなぁ。
どれだけ見渡しても、明らかに外……。木が生い茂っているところを見ると、森の中だと言うことはわかる。
うーん、病院や保健室、あるいは誰か通りすがりの人に助けられ、その人の部屋で寝かせられていたってんならまだわかるんだけどさ。
それに身体が異常に楽。あれだけの衝撃があった。当たりどころが良かったとしても、大きなたんこぶ一つ、できてておかしくないはずなのに。
そうか、あるいはここ、いわゆるあの世ってやつで……この森の中を過ぎたら三途の川があるとかなのかしらん。
とりあえずもう少し周りを見て見たほうがいい。
立ち上がって見た。足腰にも異常はない。
………ん?
いや、異常がないなんてことはなかった。目線が少し低いような気がする。なんて言うんだろう、身長が縮んだ感じ。
俺はおかしくなったのかな? でも、おかしいのはもとからだって、美花がいたら言いそう……だなんて。
とりあえず立ってみたはいいんだけども、さっきとなんら風景は変わらない。
やっぱりここは森の中。だけど日光がちゃんと射しているし、少し不思議な感じがする。言うなればゲームや本で見た、女神様がいる不思議な湖の周辺や妖精が居る森のような? そう考えるとなんだか優しい感じすらしてきた。
少し先の木にピンク色の鳥が止まっているのが見える。
なんていう鳥だろう。無理やり例えるならフラミンゴカラーのスズメって感じで……?
いや、見たことがないのはあの鳥だけじゃないね。木の陰にひょっこりと咲いている小さな花。その花弁も全く見たことがない形状をしている。その上、森の木の中の何割かが、葉っぱがハート型なんだ。
うん。やっぱり夢のかな……でも、夢だとしてもすっごくおかしい。確かに土の感触は本物だし、それに夢ってこんなにリアルに見えて、自由に動けるものだっけ。
あんまり俺は普段、熟睡しちゃうから夢なんて見ないし。美花はよく見て、その内容を話してくれるんだけどな。
あと、あの世だったとしても、世間で言い伝えられているものと違いすぎてあんまり納得できない。それより、やり残したことがたーくさんあるから、死んだって信じたくない。やだ。ドラグナーストーリーの新作で遊びたいし、それに美花にまだ告白だってしてない。
じゃあ自分が納得するためには、なんなんだと仮定すべきなんだろう……と考えた時、ふと『別世界』という単語が思い浮かんだ。
確かにここは、うちから一番近くの森の中よりは、綺麗で別世界みたいなもの。
自分の感覚を信じるとすれば、それで決定しちゃったほうがいいかも。
とりあえず俺は伸びをした。身体が凝り固まってる気がして。その時、ひらりと頭の上からなにか落ち、裸足の上に乗っかった。
何故だかいつもより俺の肌がとても白い気がする。
それより今気にすべきは落ちてきたものだ。これは赤い紐? 手にとってみた。どうやら髪の毛のようだった。
赤い髪の毛。すごく綺麗なルビー色。これが俺の頭から落ちてきたということは?
自分の髪の毛を一本抜いてみた。……それはさっきの髪の毛と同じ色をしていた。
いや、頭を強くうったので血で赤くなるのは当然かもしれない。だけど、今、頭は濡れていない。痛いところもないし、血が乾いてガビガビになってもいない。そして、その髪の毛は血の黒っぽい赤とはかけ離れた綺麗な鮮紅。
そして、もう一つあることに気がついた。自分の髪の毛を抜くときに自分の腕が視界に入ったから。
傷がないんだ。小学生の時にガラスの破片が刺さってしまい、何針も縫って、未だに消えてなかった腕の傷が綺麗さっぱり。
身体ですらすっかり変わってしまっているようだ。
うん、そもそも何度考えても身長縮まってるみたいだし。
「別世界……か…」
思わず、そう呟いて見る。俺の中ではもうこの説が一番有力だ。その時、ハラリとまた、上から何かが落ちてきた。
「紙?」
その落ちてきた紙を拾って読んでみた。そこにはこう、長々と書いてあった。
≪ 君へ。突然のことでビックリしたことでしょう。残念ながら貴方は地球で、落下してきた植木鉢が頭に当たり死んでしまいました。
しかし、貴方がこの間、私の頭に落ちてきた鳥の糞を落とし、お供物までくれたその優さに感動しました。
ですから私のできる範囲内で魂だけでも救いだし、覚えがあった世界に送りました。
あなたが今、そこにいる世界。
いわゆる異世界。
その名は"アナズム"
本当は貴方が地球で死ぬのを回避させたかったのですが私にはそこまで力が及ばず。本当に申し訳ありません。
しかし、こうして魂を別の世界に送ることはできましたし、アナズムでの人生を楽しみ、幸せになって頂けると嬉しいです。
ここからはこの世界についての説明です。
貴方にはまず、この世界の言語を日常生活ができる程度に読み書きできるように知識を与えました。それ以外はその世界の一般人と何ら変わりません。
また、目を閉じ【ステータスを見たい】など頭で念じると、この世界の法則や暮らしていく上で大切な説明がみえてきます。もっとも、それはこの世界の住人全員ができることなので、関連した会話もされることがあるでしょう。
それでは最後に忠告です。
貴方の地球本来の年齢は十六歳ですが、今この世界で貴方は十二歳になっています。見た目や身長もそれに合わせられていることでしょう。この世界での一年は十六ヶ月なので、それに合わせられているのです。
そしてここが重要であるのでよく聞いてください。
この世界でも死ぬと、今度は魂も死にます。魂が死ねば、蘇ることが非常に困難になってしまいます。
どうぞ、それだけはどうかお気をつけて。
以上です。 幻転地蔵より≫
「ッ……!」
マジかよ。やっぱり俺、死んじゃったのか……。
俺にとってはこかはほぼ、あの世みたいなものじゃないか。
気になることはたくさんあるけれど、とりあえず幻転地蔵って……ああ、そうそう、家の近くにあるお地蔵様だね。いろんなゆわれがあるちょっと怪しいやつ。
何か普段、あの地蔵の前を通るたびに見られている気がしてたのは確かだけど、ちゃんと見てくれてたんだなぁ。でも感謝されてることの内容って、俺がもっと小さい頃のやつじゃなかったっけ? まあいいか。
魂を残して、別世界……ううん、異世界だったか。とにかくここに送って何とか助けてくれた。それは嬉しいんだけど……ほぼ向こうでは死んでしまったと言っていいんだもんね?
こんなことになるなら、やっぱり修学旅行中に美花に告っとくんだった。お母さんも親父も悲しんでるよね…。俺なんかよりよっぽどしっかりした弟がいるから、家族に関しては変な心配はしなくていいんだけど。
うん、こころ残りは美花と、俺の親友であるアイツ。
これは俺の不注意で起きたこと。地蔵様に感謝しなきゃ。もう後悔しても遅いよね。
この世界…アナズムという名前らしい。俺はここで、なんとか頑張って生きて見ることにする。
それが俺に与えられた第二の人生だから!
……………って、やっぱり無理なんだよ。そんなに簡単に現実が受け入れられたらどれだけ楽なんだろう。
目がぼやけてきて、よくわかんなくなってきた。なんだかとっても惨めな気分だ。
美花に会いたい。告白しとけば良かった。ずっと好きだったのに。
お母さん、お父さん、親孝行する前に俺、死んじゃった、親不孝で本当にごめんなさい。叶、何もかも全部任せちゃうけど……ごめんなさい。
悔しい! 悔しい悔しい、悔しい悔しい悔しい悔しい!
嫌だ! 嫌だ嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ!
なんで俺がこんな目に。なんで? どうして? いつも通りに道を通ってだけだよ、なんで頭の上に花瓶なんて落ちてくるの!?
戻れるなら戻りたいよ! 誰か助けてよ!
なんだよアナズムって!
なんなんだよ! 俺……まだ死にたくなかったよ。
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泣いて泣いて泣き明かして、何分経ったんだろうか。
体感にして三時間位かな? でも、本当はもっと短いかもしれない。
何故か森のど真ん中に飛ばされて、何がいるかわからないから、大声で泣くこともできなかったけど。
俺はここで生きていくしかない。
生きていくしかないんだ。
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