閑話 ショーと有夢の二人旅 その5

「りょこー、楽しかったね!」

「ああ、そうだな」



 時が経つのは早いもので、もうこの旅行をしまいにしなきゃいけねーらしい。昨日は昼に起きてから一日中観光地を巡っていたが、正直初日の夜に有夢が迫ってきたあの一瞬が頭の中でリピートされてあんまり身に入らなかったな。まあ、皆んなへのお土産とカップルに見えるかどうか試して遊ぶのだけは忘れなかったが。



「次は向こうでも、二人きりで旅行してみようか」

「機会がありゃな。俺もお前も、互いに中々離してくれねーやつがいるだろ」

「まぁね!」



 それにアナズムだと有夢は女の子でいることが自然体だ。一昨日みたいなことになられたら困る。カップルに見えるかどうかの遊びもやり難いだろうし。……ん? なんかおかしいな。なんでそんなもんの心配してるんだか。たしかに楽しいけど。

 俺たちは時間通りにやってきた旅館から空港へ向かうバスに乗り込んだ。行きと違って俺も有夢も昨日はちゃんとした時間に寝たから眠気は残っていない。「乗り物の中でたくさんおしゃべりできるね!」と有夢は起き抜けにニコニコしながらそう言ったっけな。

 


「これこれみてみて、やっぱり綺麗に撮れてる!」



 有夢がスマホで撮った写真を見せてきた。この観光地で一番の絶景スポットだと言われてる場所で撮ったやつだ。あれはまあ、綺麗だったな。そして有夢が画面をスライドすると、次に現れたのは俺と有夢が頬をくっつけあって自撮りしている写真。俺はこの写真に写ってる本人だが、こうみてみると、やっぱりカップルにしか見えねー。リルにこの写真は見せない方がいいかもな。……まあなんやかんや見られちまうと思うが。



「おー、これ。久しぶりにおんぶしてもらったけど、翔の背中は筋骨隆々でゴツゴツしてて鉄の塊におぶってもらってる気分だったよ。リルちゃんはいつもあんな感覚なんだねー」

「リルを背負うときは背中と体の間に一旦胸を挟むからな、有夢ほどゴツゴツしてるとは感じてねーんじゃねーか?」

「ぷくー! 俺が貧乳っていいたいんだね? これでも子供アリムの時はA、本来の年齢アリムだとCカップはあるんですぅ! リルちゃんから豊胸方法を教わったからそのうちDはいくね!」

「……アリムがバストアップしても喜ぶのはアナズムの住民と美花ぐらいだろ」

「……まあね」



 17歳版アリムの時なら結構あるんだな、こいつ。思ってた以上で正直驚いたぞ。どうしようもないくらいの虚無だと思い込んでた。どっちみちこの、観光地で俺が有夢をおんぶしてる写真もリルには見せねー方が良さそうだ。あと部屋内でお姫様抱っこしてやってる写真と、腕を組んでる写真、俺の膝に有夢が寝そべってる写真もだな。

 ……こうして続け様に有夢と密着している写真を見せられると、どう見ても俺の浮気現場を抑えたものにしか見えない。佐奈田あたりにスッパ抜かれないようにしないと。ちなみに二人しかいないのにどうやってツーショットの写真を撮ったかだが……まあ、そこはアナズムの技術を使ったんだぜ。

 話をしているうちにあっという間に空港につき、昼食を食ったりしてから飛行機に乗り込んだ。機内じゃバスや電車より声を出して喋るってのはし辛い雰囲気だ。結局、空の旅の時間は二人して眠って過ぎちまった。俺も有夢もまあまあ飛行機に乗ったことがある。今更喜んで飛行機の窓から外を眺める必要もない。

 そんでもって空港に付属している駅から電車に乗って俺たちが暮らしている街へ向かった。そして帰ってから何をするかを話し合っているうちに目的地についた。

 


「もっかい言うけど、またこういう二人旅行一緒にしよーね!」

「おう、またな」

「うんうん」



 またナンパされないか心配だったため、俺は有夢を本人の家の目と鼻の先まで見送った。なぜ目の前ではないのか、それは美花に遭遇しておちょくられないようにするためだ。どうせ今回のことを俺と有夢のデートだとか言ってニヤニヤしだすに決まっている。

 有夢は嬉しそうにニコニコしながら俺に向かって手を振り、そのまま家のほうに向かう。玄関前までついたのを確認したら俺は俺の家へ帰った。

 今日は親父も母さんもいない。家にはリル一人だけのはずだ。最後に直接話したのは一昨日。どんな反応されるやら。



「ただいま。今帰ったぞ」

「ショーーーーー!」



 二階からドタドタとリルが降りてきて、俺に飛びついた。それを俺はしっかりと受け止める。いつもの大きくて柔らかいものが俺の腹筋あたりに押し付けられた。……やっぱ俺はこういうのが好みだ。



「わふわふーショーだー、わっふー」

「よしよし、留守番お疲れさん。これはお土産だ」

「ありがとう!」



 リルはお土産をリビングに置くと、また俺に抱きついてくる。まるで100年ぶりに再会したような甘え方だ。俺も会いたかったぜなんて言いながら頭を撫で回してみる。

 途中、リルが「むっ!?」という声を上げ眉間にシワをよせて俺のことをみてきた。



「な、なんだ?」

「ショーの体から別と女性の匂いがするよ」

「……!?」

「すんすん……この様子だと、その子を抱きしめたりおんぶしたりしてあげたようだね」

「い、いやぁ……その……」

「なんてね。あゆちゃんって女の子みたいな匂いがするよね」

「お、おう……」



 有夢のことを指摘してるのはわかってたんだが、さすがにドキりとしたぜ。アリムの状態で浮気だと取られても仕方ないことをしてきたから流石にな。リルは悪戯っぽく微笑むとこう続けた。



「次は私と旅行しようね?」

「ああ。あいつとも次はお互いのパートナーと旅行に行こうって言い合ってたところだ」

「わふんわふん。とりあえず、ショー、移動でもう今日は疲れてるだろうしベッドでお昼寝でもするといいよ」

「おう、そうするかな」

「私もショーに抱きついて一緒に寝るから」

「おう、それは好きにしてくれ……」



 有夢の方も美花からこれくらい甘えられてるんだろうか。美花もリルもしばらく有夢や俺に会えないだけですごく寂しがる。こうして思い切り甘えられるためにも、やっぱり、定期的に有夢と旅行するのは悪くねーかもな……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る