第1096話 二週間

 この世界に来て、合計で二週間になった。二人でいること、そして持ち前の起用さで初日と比べたら格段に生活のレベルが上がっている。まずはなんといっても石器達。斧とナイフは大いに役立ってくれている。ナイフがあるとないとじゃ全然違うっていう話は本当だと思うよ。刃物の大切さを再確認させられた。

 食べ物の保存用に大きめの土器も十個くらい作ったし、レンガを組み合わせてお風呂がわりになりそうなものも作った。そして極め付けは家だね。ついに家が昨日完成したんだ。俺が立ち上がれるくらいの家。屋根も窓もちゃんとついてる。正直、これを作るのに五日は要した。まあ手先が器用でアイテムマスター、マイスターの心得を持っている俺と美花だからこそこんな短時間でここまでできたんだけどね。

 次作ろうとしているのは機織り機のようなもの。床に敷くものや枕、新しい服が欲しい。学校の制服しか着るものがないから見るからに劣化していってるんだ。今日は全部洗濯しているから俺と美花は真っ裸。いや、そもそも美花が昨日一日かけて灰と土器と板を使って洗濯してくれたから昨日から裸だね。



「いやぁ、他に人がいないとはいえ、裸で外にいるのは恥ずかしいから、昨日完成してよかったよ」

「私、ちょっとクセになっちゃいそう」

「ダメだよ、露出癖を作ったら」

「努力するわ。……ね、それより有夢。私、そろそろ我慢できないんだけど」



 そう言って美花が俺に迫ってきた。お風呂を作ってから毎日入ってるし、鋭い石器、そして偶然発見した除毛効果のある植物の液体で毛の処理もできているので、こんな環境なのにお互い身体は綺麗だ。……ここまで念入りに体の清潔を保とうとするのは、地球やアナズムで二人して美人だとか可愛いと言われてきた名残とプライドかもしれない。その自覚はある。

 


「ダメだよ、二週間我慢し続けたじゃない。俺だって気持ちを抑えてるんだからさ!」



 そう、体が汚くないからこそ、危ないんだよ。倫理的に。それにお風呂だって一人で入ると洗いにくかったりするから二人で入って洗いっこしてるんだ。毎日、二人でお互いのいたるところをベタベタ触ってる。俺だってもういっぱいいっぱいなんだよ。



「ふっ……。そう言って体も目線も正直みたいだけど?」

「そりゃそうだよ。でもダメなの! メーッなの!」

「……ここまで生活水準だって上がったし、最後までしなきゃ大丈夫よ」

「ぷ、ぷくーっ! ぷくーーっ!」

「ふくれっ面したって逃れられないよ!」



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「ふぇぇ……」

「拒否してた割にノリノリだったね!」

「……うん」



 この背徳感はあれだ、美花と初めて経験した時に似てる。頭真っ白で何にも考えらんないや。とりあえず……まあ、大ごとにはならないでしょう。そこら辺は徹底したから。



「はー、疲れちゃった。もう衣類は全部乾いてる頃だと思うけど、このまま寝ちゃおうかな」

「いくら屋内で、火も焚いてるとはいえ風邪引いちゃうよ。昨日から裸なんだから」

「じゃあ有夢、取り込んで私に着させてー」

「仕方ないなー」



 美花は口調自体は元気だけどだいぶぐったりしてるので、注文の通りにしてあげた。運動量がすごかったから仕方ないね。俺も自分のを着る。やっぱり服はちゃんと着なきゃいけないね。機織り機、明日から急いで作らなきゃ。



「ねぇ、有夢」

「ん? なぁに」



 服を着させてあげると、美花がつぶらな瞳で俺のことを見つめてきた。何かを悟ったような表情だ。何を訴えたいんだろう。



「こんな生活、一人で何ヶ月もしてたんだ」

「それ初日あたりにも言わなかった?」

「……二週間経って、もっと理解したっていうか……私、一人だったらとっくの昔に心が折れてるよ」

「まあ、俺だから頑張れたかな! えっへん!」

「……ほんと、強いよね。有夢は」

「でも、美花もよく頑張ってるよ」

「大好きな有夢が一緒だからね」



 俺も、今は屋敷にいる時とそう変わらないくらい精神が安定してる。もちろん、美花が一緒だからだ。



「……みんな、どうしてるかな」

「たぶん、俺たちを取り戻そうと動いてくれてるんじゃないかな」

「つまり有夢抜きでアナザレベルと戦おうとしてるってこと!?」

「……叶やお父さん達がいるからなんとかなるよ」

「まあ、それもそうね。ってことは私たち、いつかアナズムと地球に戻れる?」

「どうだろう」



 それがいつになるかはわからない。アナザレベル曰くこの世界は特殊らしいから、アナズムや日本と進む時間が違うかもしれない。例えばこっちの一日は向こうの一分とか。逆もあり得るね。

 俺と美花は死なないし、ずっとこの年齢のままでいるっぽいからこっちの世界の時間が早い分には困らないんだけど、向こうのが早かったら悲しいことになる。



「考えてても仕方ないか。有夢、私今日はもう寝るね」

「ん、俺も寝る」



 俺と美花はいつも通り抱き合って眠りについた。



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 俺たちは眠りについてからその2時間後に起こされることになった。死ぬという現象と共に。

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