第1095話 生活を豊かに 2

 ブラキオサウルスのような魔物と目があった。ビルのような高さの魔物と目が合うなんて……たくさん魔物を退治してきた俺でもちょっとこわい。というか、これだけ大きかったらもっと前から姿とか見えていたはず。まあ、SSSランクの魔物だし、こんな巨体でも素早く動けるんだろうね。

 流石に死んだかと思ったら、ブラキオサウルスは俺から目を離して首を屈め、川の水に口をつけた。凄い勢いで川の水を吸い上げ始める。一分後にはもう、川は干上がってしまっていた。満足したのかブラキオサウルスは首を上げると俺には目もくれずにどこかへ去っていってしまった。目には見えない速さで。

 ……まあ、魔物が全員俺たちを襲う訳でもないか。この世界はSSSランクの魔物しかいないってだけで、積極的に襲ってくるとは言ってなかったし。今までは肉食獣ばかり遭遇してきたけど、あれは草食竜っぽいしね。

 今の魔物が川を干上がらせてくれたおかげで、川底にあった石も拾えるようになっている。選び放題だ。ここで良さげな石を複数選んじゃって持ち帰ることができれば、片道三時間なんて遠出をする必要はなくなる。ちょっと無理してでもたくさん拾っていきたい。まあ、川の水はまたどっからか流れてくるだろうし、他の魔物も水を飲みにくる可能性だってある。そんなにのんびりはできないけどね。

 一時間くらいかけて、袋がわりにした学ランに詰められるだけの石を選び切った。重いけど、なんとか持って帰らなくちゃ。……学ラン自体も泥で汚れちゃったし後で洗わないとね。

 そしてまた三時間かけてきた道を戻る。拠点からは本当にただ真っ直ぐきただけだし、一分ごとに方角は確認してるから問題ない。今度は3回くらい魔物の気配に触れたけど、大した事柄はなく拠点まで帰ってきた。



「ただいま!」

「あれ、普通に帰ってきた」

「今回は運が良かったよー。目の前で遭遇した魔物が草食でさ、捕食されなかったの。すごく大きいの。ブラキオサウルスみたいだったよ」

「へぇ。ちょっと見てみたいかも」

「圧巻だったよー」



 あの時はあの大きさにビビるだけで特に何も感じなかったけど、よく考えたらあの魔物、普通のSSSランクよりもさらに魔力が多かったような気がする。きっと特別強い魔物なんだね。

 とりあえず俺は美花の前で拾ってきたものを広げた。



「さて、こんだけ石を持って帰ってきたからこれでしばらくは道具に困らないよ」

「おお、平らなのから加工しやすそうなものまでたくさんあるね。……これ全部一人で持って帰ってきたの?」

「当然」

「一昨日は木材運ぶだけでヒーヒー言ってたのに。まあ、有夢は疲れてからが本番だもんね」

「そうそう、疲れてからが本番!」



 俺が疲れを感じると、色々感覚が鈍るのか本来よりも大きく力を発揮できる。だから疲れ知らずなんて言われてるんだけどね。俺が疲れない、なんて周りから思われてる正体はこれなんだ。だから実際は疲れてるんだけど、疲れてるようには見えないってわけ。

 


「でもさすがに今日は食料を取ってきたらすぐ休むよ。まだ明るいうちに行かなきゃ」

「それじゃあこのカゴ持って行って!」

「できたんだね。はやい。じゃあ遠慮なく。たくさん持って帰ってくるね」

「うん! 私は有夢の学ラン洗っとくから」

「わかった、お願いねー」



 一応、土製のスコップも持っていく。今回、途中でベリー系の植物見つけたからね、なんとか一部を持って帰って拠点に植え直したい。他にも植物の種とかはなるべく回収して、いつでも農作できるようにしておかないと。

 拠点から徒歩十五分以内の場所で1時間かけて食料を探してカゴいっぱいに集まった。アイテムマスターだった頃の知恵がなかったら半分も集まらなかったと思うと身震いしたくなる。予定通りベリー系植物の低木も木の根っこから掘って手に入れることができたし上々だ。



「美花、今日のお夕飯は豪華だよー」

「おかえり! まだ1時間くらいしか経ってないけど……よくそんなにとってきたね」

「えっへん! 少しずつ食べようね」



 今日もお芋さんだった。昨日と違うのはすりつぶして芋餅みたいにして食べたってことくらいかな。香料も混ぜ込んだから、そこそこちゃんとした料理として成立していた気がする。『料理』のスキルを習得できたしね。

 ご飯を食べながら明日の予定を話し合う。明日からは石でナイフや斧を作り生活水準の向上を図るんだ。ここさえ乗り越えれば今の住居に壁をつけたりとかもできるようになってくる。楽しみだね。



「そういえばさ、有夢」

「んー?」

「私たち、ここにきて明日で五日目じゃない」

「そだね」

「やっぱりSSSランク以外の魔物っていないの? 川とかにも行ったんでしょ? 魚くらい……」

「いなかったねー」

「そっか……有夢にとって本当の楽しみってゲームのようなレベル上げだからさ、それができないのはかわいそうだなって思ってたんだけど……」

「大丈夫、美花と一緒だから。退屈なんてする暇ないしね」

「そつ? えへへ……」



 しかし、美花は鋭いね。あのブラキオサウルスの魔物に会った時、実は俺、どうやったら倒せるかを考えてる自分に気がついたんだ。まあどう頑張ってもあれは無理なんだけどね。……でもいつか、絶対、一匹でも魔物を倒したいな……。

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