第1094話 生活を豊かに

 気持ちを切り替えたのなら、さっそく生きていくためにいろんなことに着手していかなきゃならない。この状況で言いにくいけど、一つ提案したいことがある。



「……美花、明日あたりに水辺を探しに行きたいんだけどいいかな?」

「遠出するの?」

「そゆことになると思う」



 とりあえず土器はいくつかできたけど、器とか鍋はともかく、土で作ったスコップやナイフなんて使える回数が限られてる。作るの大変なのに。多分、かまどを一つ作り終える頃には使えなくなってしまっているだろうね。

 だから水辺で石や岩を探して磨製石器を作りたい。もし太くて丈夫な岩があれば斧だって作れちゃうだろう。斧が作れれば木材の加工もできる。一気に生活が豊かになるね。



「とりあえず、手ぶらでここら一体を探すから」

「それしかないもんね……わかった」



 この拠点から何かを探しに行くということは、死ぬことを意味する。でも、もうお互い一回ずつ死んでるからね、ここがそうしないと生きていけない世界だっていうのはお互い理解してるよ。



「じゃあ今日はどうするの?」

「今後土器を作りやすくするために、かまどを作ろうと思うの」

「そっか!」

「お水がたくさん必要だから協力してね」



 土器を作ってる間にレンガを作れるような準備もした。

 それから、俺はほぼ丸一日かけてかまどを作り上げた。俺のおへそくらいまでの高さはある。これで今後、泥や粘土から瓦や煉瓦が作り放題になると思う。大量に火を使うからそこから出た灰も何かに使えるだろうし。

 お夕飯は、土器で作ったお鍋でお芋を煮て食べた。お芋はいいね、味付けしなくても美味しい種類があるから。そんな夕食の最中に美花がこんな提案をしてきた。



「有夢、あのね、この世界で3日間過ごして思ったんだけど、やっぱりサバイバルって水が大事じゃない?」

「そうだね」

「やっぱり水術のレベル1じゃ、出てくる量が足りないのよ。残りのスキルポイント、レベル2に上げるのに使っちゃっていいかな?」

「そうだね、余分そうなら水瓶とか作って保存しとけばいいし……そうしよっか!」



 俺もそろそろスキルポイントを割り振ることを考えたほうがいいとは思うんだねど、美花はまだとっておいた方がいいって言うだろうから実行できない。使う日がいつかくるんだろうか。

 夕飯を食べ終えたら、学生服のポケットに入ってたハンカチを使って、お湯でお互いの体を拭いた。ムフフな気持ちになるけど我慢するしかない。それから美花はカゴの出来具合を見せてくれる。明日にはできそうなくらい順調な様子だった。

 それからいつも通り二人で抱きしめあって寝た。



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 次の日の朝。

 昨日のうちに残しておいたお芋を食べたら食材が尽きてしまった。まあ、でもこれから水辺を探しにいくし、食料だってたくさん見つかるはず。美花のカゴができたら一度にたくさん持ち運びできるしね。一日くらい我慢したって大丈夫でしょう。



「じゃあ、いってくる」

「ん……」



 美花が抱きついてキスしてきた。これから死ににいくのがわかってるから。何か新しい試みをするたびにハグとキスが儀式化しそうだね。まあ、いいんだけど。



「前回と同じように、なにか魔物が来たらすぐに連絡するんだよ?」

「うん、わかった」

「じゃあ行ってくるね」



 前回、俺が向かったのは拠点の中央に立って右側ってことにしてる。そして、美花が魔物によっておられた木材や蔓を調達してきているのが左側。どっちも一定の距離を進んじゃうと魔物と遭遇する可能性があることはわかってるから、今日は北に進もうと思う。なんとなく。

 この土地の土は水を含ませれば粘土のようにできることから、緩やかめな山地であると俺は推測してる。山地なら水辺、そして手頃な石がどこかに絶対あるはずだ。

 道に迷わないよう、太陽の位置を確認しながらまっすぐに進んでいく。人は徒歩で1分間に80メートル進むけれど、食材になりそうなものとかを探しながら進んでるのでその半分程度の速さでしか移動してないだろう。

 そうこうしておよそ三時間は経っただろうか。4回くらいSSSランクの魔物が放つ魔力や気迫に当てられたけど、実際に遭遇することはなく、川までやってこれた。大きくも小さくもない普通の川。目当てにしていたものはたくさん転がっていそう。

 ……ズシン。

 川に近づこうとしたその時、そんな大きな音が響き、地震かと思ってしまうくらいの揺れが起こった。しかもその揺れと音は一回では済まず、どんどんとこちらに近づいてくる。

 まさかこの川にはSSSランクの魔物の主的な何かがいて、資源を取ろうとしたら怒られるとか……? そんなまさか。川の幅はおおよそアリムの身長分くらいしかないし、こんな場所を縄張りにするSSSランクの魔物がいるなんて。

 ふと、俺の視界に影が降りた。太陽が覆われてしまったみたいだ。気がつかなかった、もうここまで近づいているなんて。

 顔を上げるとそこには、紫色の皮膚を持つ……ブラキオサウルスかスーパーサウルスか。とにかく首の長い巨大な恐竜のような魔物がそこにいた。

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